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王子と魔女

    0.5


「魂が分かれちまったのです」

 国をあげても、姫君の病を治せる者が見つからなかった。その詳細すら誰も知らなかった。ゆえに王子は、近寄ってはならないと固く言われる魔女のもとへと足を運んだ。

 姫君を助けるために、縋れるものには全て縋る心づもりでいたのである。

「魂に記される情報を基に肉体が創られる。けれども王子様、私めは見ました。あなた様の姫様の魂、ありゃあ歪だ。それに王子様、あなた様の魂もまた、尋常のそれじゃあない。まるでパズルのピースみたいに分かれちまってる」

「私と彼女の魂はつまり、一つから分かたれたものだったのか」

「ええ、ええ。けどそこだけじゃあありません。分かたれた上に、歪んじまってますです。王子様の魂に、姫様の魂がかっちりと嵌らない」

「それは、なぜ……」

「申し訳ございませんが、私めには分かりようもない。なんせ神だ。神が魂を御創りになられる。一介の卑しい魔女に、神の意図など読めぬのです。いいえ、私めのみならず人であるならすべからず読めぬものなのです」

「神……神か……」

「これは私めの一仮説でございます。どうかお気を悪くなさいませぬよう……王子様の魂に、嵌りたくても嵌れない。姫様の魂は、そうであるから弱まるのではありますまいか。魂というのは一度肉体を持ってしまったら、もはや変化はできぬもの。変化のためには一度肉を捨てねばならぬのですな。どうにかこうにか、姫様の魂は王子様の魂にぴったりと嵌りこむような働きを為そうとする。つまりは肉体の放棄、つまりは死です。そうすることで魂を再び歪ませ、新たな肉体を持って世界に現われる」

「私が、私の存在が、彼女を……死へと……ああ、なんという……」

「あくまで仮説でございます。姫様は、いうなれば異質として世界のどこかに発生する。ですが、異質を異質として認識できるのは、ただ王子様お一人のみ。同じく異質であるあなた様のみ」

「私と、彼女が……」

「異質な存在というのは、無意識下にも孤独感を募らせるものです。姫様だって、そうです。僭越ながら申し上げます、あなた様は選択を迫られている。姫様の孤独にさせないためにいっしょにいるか、それとも姫様に生きていてほしいがために遠ざかるのか」

「……そうだな」

 王子は悩み、一つの答えを出した。


    3.5


「不老不死、とは……僭越ながら申し上げますが、王子様。あまりおすすめ致しません。不老不死とは永遠に呪われるということです。私めですら、不老不死に手を伸ばしたくはない。永遠というのはあまりに長く、恐ろしいものです……」

「それでも、私は彼女と共にあろうと決めた」

「……分かりました、王子様。私めもあなたの愛する姫君の病を治せないことを心苦しく思っておりました。そんなあなた様の願いならば、不老不死の術をかけて差し上げましょう」

 そう、国の外れの魔女は承諾した。

「けれどもひとつ、条件があるのです。それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということ。これを破れば不老不死の呪いは消え失せて、瞬く間にあなた様は死んでしまわれるでしょう」

「それだけで、いいのだな」

「もちろんですとも。よいですかな、決して口にしてはなりませんぞ」

 そうして王子は、不老不死となった。


    8.5


「おや、おやおや王子様。これはこれはお久しゅうございます。国中では、王子様は亡くなられたお方だと言われておりますよ」

「知っている。ところで、その方は……」

 王子の視線は、魔女の傍らに座る女性へ向けられていた。女性は初対面であろう王子を、どこか困惑したように無言で見つめている。

「この子です? ずっと前から、私めの手伝いをしていた……」

「いいや、違う。私が以前にあなたを訪ねた時には、彼女はいなかった。存在していなかった」

「まさか、そう、これが()()なのですか。私めも知らぬ間に、いつの間にか()()する……ですが王子様、この子は言葉を発せませぬです。生まれながらに、と私めの記憶にはございます。生まれながらに、この子は喋ることができませんでした」

「私はきみの魂を愛している」

 女性の前に膝をつき、王子は運命を喜び、呪う。

「どうか、私と道を共にしてほしい」

 脳裏にはすでに、彼女との死別がちらつく。

 王子の心は摩耗してきていた。

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