第五話
「で、詫びというのは?」
向かいの席には、黒髪の女性と綺麗な栗色の髪の女性が座っている。二人の胸元には、名前の書かれたカードが付けられている。黒髪の女性がユリア・リフレイド、栗色の髪の女性がマリ・ヴィクトリスだそうだ。
「えっと、お詫びしたいことは二つありまして……」
ユリアが、おどおどしながら話を始める。
「まず、一つ目は上級者専用の依頼に向かわせてしまったことです。あの依頼は、誰でも受けることのできた依頼ですが、あるパーティーが帰ってこなかったので、上級冒険者に調査に向かわせたのですが、それも帰ってこなかったのです。そして、上級冒険者専用の依頼になったのです。そんな依頼に向かわせてしまい申し訳ありません」
とユリアが説明をし、深々と頭を下げる。さっきまでのおどおどした態度は消えて、受付をしていた時の仕事をする女性のようだった。
「まあ、それは僕も悪いと思いますし……どっちもどっちじゃないでしょうか」
「そ、そうですか」
「二つ目は……」
「ソラさんを撥ねてしまったことです……」
今度はもじもじし始めた。
撥ねる?僕を撥ねた奴なんて猛牛くらいしかいないのだけれど。いやいや、まさかこんな美しい人が――こんな優しそうな顔の人が……
「も、猛牛……」
「わ、私は猛牛じゃあなああああい!!!」
猛牛と呟いてしまった途端、ユリアが大きな声で、猛牛ではないと否定する。
「いやあ、猛牛にしか見えないでしょ」
と、マリが笑いながらユリアを煽る。
ユリアは、ぷんすか怒りながらマリを弱い拳で殴っている。
「あ、あの……」
「あ、すみません」
立ち上がっていたユリアは、僕の声で物凄い速さで席に座る。なんと切り替えの早いこと。
「猛牛は放っといて、ソラさんを撥ねてしまい、申し訳ありませんでした。そのお詫びで、あの高い宿を借りたのですが、結局は依頼を受けることができていないので、報酬金が3000ヴァルの依頼を探したのですが、これはどうでしょう」
その差し出された依頼書には――
依頼人 ロイフ市長
街の近くに魔物が現れたので討伐を頼みたい
報酬
3000ヴァル
と、書かれていた。
「魔族領に近い小さな街でして、街の周りに魔物が現れたので、討伐してもらいたいのです」
「その街には、その依頼を受ける人はいないのですか?」
「元々は、小さな村。実力者は村が大きくなるにつれ、この街のような冒険者で栄える所に移ってしまったので、今では、魔力の弱いものばかりで……」
街の名前は、ロイフだろう。国の名前や街の名前は、その土地を収める者の名前からつけている。
「どうでしょうか。ルナさん」
あれ、どうしてルナに限定されているのだろう。僕には力不足だからか?
―シャル。ここは僕に任せてくれ。シャルも行くってなると、彼らがだめって言いそうだからな。
脳内に声が響いた後、ルナにステータスのカードを渡された。
ルナ Lv.1 人間 職 : 魔法使い
力 : 1000
耐久 : 960
器用 : 1200
敏捷 : 960
魔力 : 2400
スキル : 自然治癒
―そういうことだ。
ということは、ルナと別れることになるのか。悔しいが彼らに魔人ということをばらすわけにはいかない。
あれ、何故神獣が――これは偽造なのか?
―偽造ができるのか?なら僕も魔人ということがばれないんじゃ?
「分かった。その依頼受けるよ」
「ありがとうございます!」
するとユリアとルナは立ち上がる。僕もそれにつられ立ち上がる。ユリアは、扉を開け、僕たちを先に行かせる。そのあとにユリアが部屋から出て、扉を閉める。
「私は仕事に戻ります。依頼、宜しくお願いします。あ、お詫びで私から1000ヴァル」
ユリアは、ポケットの中を探り、金をとりだし、僕の右手に置く。
「ありがとうございます」
「いえ、それでは」
僕たちはお辞儀をして、近くにあった席に座る。
「偽造はできない。今の僕は人間」
「そうか。僕は何をしていればいい?」
ルナは数秒間、考える。
「そーだなあ。パーティーはどうかな?人付き合いは大事だよ」
と、提案をしてくる。
そういえばこの街で爺ちゃん以外とは、話したことがなかったな。
「そうするよ。人付き合いは大事だし、友達だってほしいし」
「うん。僕は明日この街を出るよ。今日は、シャルの武器を買いに行こう」
僕は、頷いて立ち上がる。ルナも立ち上がり、僕とルナは、冒険者ギルドを後にする。