第二話
右には、背丈ほどの崖が前にも後ろにも延び、その崖の上には、奥へ、奥へと、木々が生い茂っている。
左には、背丈の低い雑草や小さな花が咲いていて、そんな景色が、奥へ、奥へと広がっている。
僕とルナは、星の広がる夜空の中、歩き続け、空からは暗闇が去ろうとしている。そして、光が現れようとしている。その中、歩いてきたわけで、眠いか?と訊かれたら、眠いと答える。けれども、寝ることはしなかった。ルナが寝ることなく歩き続けているのだから、寝るわけにはいかないと思った。
まあ、そんなわけで、今も歩いている。
「おはよう、シャル」
唐突に言われたが、僕は下を向いていた顔を上げ、ルナを見る。
「お、おはよう、ルナ」
僕は上を見る。そうか、もう朝か。
空からは暗闇が去って、光が現れていた。雲一つない快晴だ。緩やかな風が吹き、木々や草花がユラユラと揺れ、僕の肩まで伸びた銀色の糸、ルナの腰まで伸びた黒色の糸が靡く。
揺れた木々から、パタパタと音を立てて、白い鳥が羽ばたいていった。
ーーーーー
「ユリア!あの依頼に餓鬼を行かせるとは、何事じゃあい!!」
冒険者ギルドの事務室から野太い怒号が響く。
「ああいう自信に満ち溢れた子が好きなんですよ!!」
ユリアと呼ばれた受付の女性は、後ろで結んだ黒髪を揺らしながら抵抗する。
「あの依頼受けた人、誰一人帰ってこなかったからいってるやん!!だから、あの上級者しか受けれない掲示板に貼っといたのによお!!」
「うるさい!あの子なら大丈夫!!うん!!大丈夫!!だ、大丈夫……な筈」
ユリアは、勢い良く抵抗していたけれど、その勢いは失速してしまう。それと同時に、髪の揺れも収まってしまう。
「ああ、もう、うるさいなあ。叫ぶより先にあしをうごかしたらあ?」
綺麗な栗色の髪を机に垂らし、机に肘をついたまま、二人の叫びに割り込む。普段は大人しい。けれど、すっぱりと言ってくるため、大抵、その場の空気が変わる。
「「足を動かすとは……」」
二人は同時にそう訊く。強面のギルド長でさえも、身をすくめてしまう。
「連れ戻してこりゃいいじゃんかあ」
「でも、もう一日経ってるよマリ……」
「大丈夫。まだ間に合うから」
「で、でも……」
ユリアがもじもじしていると、
「四の五の言ってんなや、あの子が死んでもいいんかて」
マリが低い声でそう言うと、ユリアの脳にその低音がが響き渡る。ユリアは、ギルド長の鍛え上げられた腕を掴み、来てと引っ張っている。
「ユリア。君が行くんだ。あの子を気に入っているのならば、行くべきだ」
ギルド長の言葉で、やっとユリアは一歩を踏み出し、冒険者ギルドを後にする。
「助けねば……」
そう意気込み、ユリアは街の門を飛び出す。