第一話~Thank you~
忙しくて遅れました。
「荒れてるなあ」
僕は、この荒れた土地を歩きながら、そう呟いた。
「まあ、あんな風に魔力を爆発させたら、そうなるよ」
「そう……だよね」
膝下までしかない白と黒の獣に戻ったルナは、一つ、間をおいて話を続ける。僕は、この姿のルナを見て、また、可愛いと心の中で呟いていた。
「ねえ、ステータスはどうなったの?」
「あ、そうだった。記憶が戻ったわけだし、何か変わってるはずだよね……」
ルナの問いに答えるように、ステータスのカードを取り出す。そこに記されていたのは――
ソラ・ミディア Lv2 魔人 職:神獣使い
力:34160
耐久:652
器用:719
魔力:268421
スキル:神獣の紋様
超回復 Lv1
――そう記されていた。
「こんな感じになってるけど……」
力と魔力が昔からずば抜けている。逆に耐久と器用が――あまり得意ではない。そして、『神獣の紋様』が問題なのだが。何故、超回復ただ一つなのだろうか。契約といえば、沢山のスキルがもらえると思ったのだが。いや、まあ僕としては、超回復というスキルは、うれしいのだけれど。
僕は、ルナの背丈までしゃがみ込み、ステータスを差し出す。
「ふむふむ、力と魔力が凄いね!耐久と器用があれだけど、僕の超回復は、シャルにピッタリだね!」
「何で超回復だけなの?神獣と契約すればもっとスキルをもらえると思たけど」
「僕は、回復に特化した神獣なんだ。ほかに何かを期待していたのならごめん。僕は、契約することに向いていないのさ」
ルナは話しながら、何故か悲しそうな顔をした。僕とルナは沈黙の中、また、歩みを進める。空には星が浮かび、絶景だった。薄っすら生えた草を踏みしめ、浅い足跡をつけていく。こんな足跡は、すぐに消えてしまうだろう。僕は、その足跡を人生にあてた。今まで、深いものはあっただろうか。あの日まで、僕は何をしてきたのだろうか。当時は楽しかったし、嬉しいことも沢山あった。山ほどあった。
けれど、今、振り返ってみると、我が儘ばっかりを言って、家族や親族たちはこまっていたと思う。あの日――魔人族が滅ぼされた日までに、感謝できただろうか、親孝行することができただろうか。
僕は、それを出来なかった。
ありがとう、という一言を言うことができなかった。
僕は、その一言を言いたい。
ライラは、僕と契約してくれた。僕みたいな感謝もできない子供と。
最後――最後、僕が死ぬとき、ありがとうを言いたい。この世で一番、うれしい言葉で、悲しい言葉を。
「そんな顔するなよ……」
ルナは、静寂の中放たれた僕の言葉に振り向く。
「僕と――僕なんかと、契約してくれて、あ……ありがとう」
「僕なんかって言うな……僕が選んだんだ……もっと自分に自信をもてって……」
ルナは、獣ではなく、黒髪の少女の姿になっていた。その漆黒の瞳からは、涙がこぼれていた。
「う……うん」
ルナは涙を拭って、笑顔を見せる。
「改めて、よろしく!そんな暗い顔すんな!」
その言葉から、僕は少し間を置いた。こんな暗い顔のままいるわけにはいかない。僕は、地面を見下ろし、頬を叩き、顔を上げる。
「よ、よろしく!」
僕は、はにかんで見せた。