第九話 仲間が欲しい! 其の一
小さき鳥が甲高い声で鳴いている迷宮都市ヴィーゼのメインストリート。春の光が包み込むそこには、多種多様な髪の色をした人間たちがさざめきながら歩いている。黒色、栗色、赤色、青色や銀色、金色など明るさも人それぞれ。石畳の道の両脇には、同じ背丈の石造りの建物が並び、それの壁からは形を彫った金属製の看板が生えていてる。さらに黒色の淵の籠の中に魔石が入っている魔石街灯が地面から生えている。
現在は朝の刻。
太陽の眩い光が降り注ぎ、ダンジョンへの入り口――塔の入り口にある森林に降り注いだ光に照らされる葉の色をした一色の旗が、涼しく吹く風に揺らされている。メインストリートに籠った、大勢の人々の熱は春の風によって何処かへ消えていき、比較的涼しく、過ごしやすい。
そんな環境の中、一人歩く。
白銀色のセミロングの髪、春の光に照らされて一層明るくなったそれ不規則に揺らし、臙脂の双眸を晒しながら、小柄な体で歩いているのは、シャルル・ブラッディ。
早朝、シャルルが起きると神獣契約を交わした漆黒の髪と瞳をしたルナは、自宅を出て依頼を遂行するために、歩いて数か月かかるといわれる街まで行ってしまった。
前日、ルナに仲間を作り、帰ってきたら紹介すると言って就寝した。それから後の記憶はないが、朝起きると頬あたりが痛んだ。
そして、ただ一人残ったシャルルは、仲間を求め冒険者ギルドに向かう途中である。シャルルはそこらの街にいる腕が利きそうな冒険者に片っ端から、「仲間になってくれ」とでも言いたかったが、流石にそれはシャルルにはできそうもなかったし、それでできた仲間の間に友情というものは生まれないだろうと思い断念した。仲間というのは、友達だ。友情がなければ成り立つはずもない。
シャルルは人の間を掻い潜り、冒険者ギルドに近づいていく。
「……よし、着いた」
冒険者ギルドに足を踏み入れると、朝っぱらから酒を飲む冒険者たちの酒臭さが匂ってくる。シャルルはその臭いに少し眩暈がして、足元がふらついた。入り口付近の壁に片手を置き、鼻から大きく息を吐く。揺らいだ視線は戻り、足下のふらつきも治まった。
壁に置いていた片手を身に引き寄せ、ギルドの受付に向かう。目の先には黒色の髪に、垂れ目気味の目、茶色の瞳の優しい印象の面のユリア・リフレイドがいた。
「あ、ソラさん。ルナさんはもう行ってしまいましたか」
シャルルに気が付いたユリアは、シャルルのことを『ソラ』と呼んだ。その理由は、記憶を失っていた頃に、家族同然に育ててくれた爺さんが名付けてくれたもので、シャルルがここではそう名乗っているからだ。
「はい、行ってしまいました」
少し俯き、露骨に寂しそうな顔をする。
「……いなくなって、寂しいんですか?」
ユリアは笑みを浮かべ、からかうように言う。シャルルは慌てて、寂しくないですよとひどく否定する。
「……それはいいですから、用があってきたんですよ」
シャルルは冷静を取り戻し、ここ冒険者ギルドに来た本題に入る。一つ間をおいてから口を開く。
「仲間がほしいんです!」
少し大きな声が出てしまったが、酒臭い男たちの声によってかき消された。ユリアは単発的に聞こえた声音の明るい声に驚き、数秒の間硬直していた。