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最終話 ラスボスはゴブリン


「麻衣ちゃん! バカな事はやめるんだ!」


「重刃さん……バカな事って……? わたしが何をしているのか解っているの……?」


「最強を目指すために人に危害を加えるなんて良くないよ! そんなことしなくたって最強になれるよ! そうコレがあればね!」


 台車に乗せたロボットの模型を見せつけながら得意げに言う重刃さん。


「……なに……それ……」


「これはね! 様々な武器やアタッチメントを交換、追加することによりどんな局面にも対応できる汎用性の高い機体だよ! 市街戦でも雪原でも! 苦手な場所なくどこでも戦える、そんなすごい機体なんだ! もちろんあまりメンテナンスすることもなく使い続けられる安定しているものだよ!」


「普通に聞いていると心惹かれるものが確かにあるんだが、それ武器やアタッチメントの換装って知識のない女の子でも簡単に出来るものなん?」


 横から聞いていた伊丹が重刃さんに質問する。


「……それを見て、魔法生物だと判断する人っている……?」


 向こうからもツッコミがきた。


「細かいことはいいんだよ! 換装作業はわたしがやってもいいし!」


 相手の目的の一つの魔法生物であることを細かい事と、ばっさりと切り捨てた重刃さん。


「魔法生物だという事は実力を示してから、実はこれ魔法生物だったんです、と言えば新しい形として周知されるのでは?」


 ボクが意見を出すと処瀬さんは驚いたように目を見開き、ボクに顔を向けた。


「麻衣ちゃん!? どうしたの!? 黒夜くんが喋れることにびっくりしているの!?」


 何をバカな事を言い出すんだこのツインテールは。


「……うん……最近の黒夜君は頭がぼんやりする魔法がかけられているような反応しか示してなかったから……」


 !? 作業に集中させるようと気を使っていたのに、そんな風に見られていたなんて……!?


「とにかく! これを麻衣ちゃんに届けにきたんだ!」


「……! 今更なんで……! 私のあげた羊を殺しておいてどういうつもりで……!」


 その責める言葉に勢いをなくし、俯く重刃さん。


「やっぱり、そこを誤解してたんだな」


 その二人の間に訳知り顔で急に話に割り込んでくる伊丹。何の話かまるで解らないボクは首をつっこまずにとりあえずおとなしくしておこう。そして今のうちにこの魔方陣をどうにかいじってボクに都合よく働くようにしなければ。相手にバレないようにこっそりと……


「……誤解……?」


「さっきの言い方だと、オマエは重刃が羊を殺したんだと思っているんだな?」


「……そうでしょ……? いらないから殺したんでしょ……? いらないならいらないって言えばいいのに……!」


「そうじゃない。あの羊はちょっと目を放した間に模型部を抜け出し、運悪くその辺を徘徊していた野良のインプに殺されてしまっただけだ。重刃は目を放した事を悔やんでも悔やみきれないようだったし、その羊は傷を修復されて模型部に飾られているよ、それが供養になっているのかはオレには判断はつかないが、大事そうにしていたのは確かに伝わった」


「……野良のインプが学校を徘徊しているわけ……」


「これがそのインプだったモノだ。うまく継ぎ合わせれば一匹のインプになるぜ」


 何らかの肉片が詰まったビニール袋を取り出す伊丹。なんだその猟奇的なアイテムは。それがインプの肉だってどうやって証明するんだ。


「……! これは……確かに……」


 と思ったけど、どうやら解る人には解るものらしい。どうやって見分けてるのか気になるけど、グロテスクな肉片よりも今はこの魔方陣の方をなんとかしなければ。


「そういう事だ。それに模型部のもう一人の方はともかく重刃は隠し事をしてもすぐ解るだろ? ちゃんと顔を見ているのなら」


「麻衣ちゃん! せっかくもらった羊を死なせてしまったのは本当に悪いと思っているよ! 合わす顔がないとも思っているけど、麻衣ちゃんと気まずいままいるのもイヤなんだ! だから! 羊を死なせてしまったわたしだけど、どうか許してほしい!」


「……重刃さん……」


 お互いが歩み寄ろうと一歩を踏み出す、と同時に魔方陣がなんらかの反応を示し始めた。


「な、なんだ!? 何かするつもりなのか!? 誤解は解けたんだし、もう物騒な事は止めようぜ!?」


「……こんな反応、私は知らない……! まだ魔方陣が発動する時間じゃない……!」


 処瀬さんの思惑とは別に魔方陣は反応し続け、その中心に何かを呼び出した。


「ふうう、やっと通り抜けられたな……小物ならまだしもオレサマのように力のあるヤツが通り抜けるには苦労もひとしおだ。ゲートを見つけてから三日も費やしてしまったよ。人間達には絶望の淵に落とされてしまう恐怖を味わってもらうことになるかもしれんがね」


 大きな鼻に、尖った耳。二本の脚で立ち、鋭い爪はあるが物をつかむことが出来る形状の手。だが一目みて明らかに人間とは異なるソレは、辺りを見回し、人間の言葉でボク達に語りかけてきた。


「……いや、多分オマエインプの次くらいにこっちに来たくらいのヤツだと思うぜ……?」


 気の毒そうに伊丹が言う。


「……! なんか変な感じがすると思ったら……ここ、ゲートの跡……ううん、まだ機能していた……? それでインプが……」


 処瀬さんもインプの出所に納得した様子。


「ほう、人間如きが我を愚弄するか」


 ……さっきこいつ自分の事オレサマ呼びじゃなかった?


「麻衣ちゃん危ない! 今こそこいつを魔法生物として使って!」


「重刃さん……ありがとう……! これを魔法生物として……やってみる……!」


 ロボットを受け取った処瀬さんは魔方陣の中心にいるモノと対面する。


「ゴブリン一匹くらいオレが送還……いやここで水を差すのもな。空気を読んで見守るぜ」


「過剰な魔力はもういらない……重刃さんがくれたこれを、魔法生物として登録するだけ……! ハードの性能は重刃さんを信じる……だから私はいつも通りソフトを入れて……重刃さんに仇名そうとしているコイツを……ぶっ潰す……!」


 ん……? ソフトを入れるって、無垢な魂云々っていう話だったよな……あ、マズイ!? あっちの人形にソフトを入れるっていう話だったからそういう風に魔方陣をいじっていたのに、そのロボットの模型にその魂を入れるとなると……!


「ちょ、ちょっと待って!? そのロボットはまた今度にして初志貫徹で最初はそこの人形に……」


 だがボクの言葉は間に合わず、魔方陣は発動し終わり、その役目を終えた為か砕け散ってしまった。


「……敵を無力化して……」


 処瀬さんか命が発せられるが、ロボットは何の反応も示さない。


「……ビ、ビビらせやがって……! なんだぁ!? そんな動きもしねぇオモチャで」


 言葉は最後まで紡がれることなく、ゴブリンは糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。恐ろしく速いボディブローをロボットから叩き込まれたのだ。ボクも見えたわけじゃない。動きの止まっているロボットの拳が、まだ崩れ落ちていないゴブリンの腹部に刺さっているところを見てそれを予想しただけに過ぎない。


「すごい! まだ武器も換装していないのになんて戦闘力だ!」


「……重刃さんが作ったところの出来がいいんだよ……あんな風に動ける魔法生物なんて今まで見たことない……」


 じゃれつく二人をよそに、ボクはロボットから目が離せなかった。

 確かにそうなるように魔方陣はいじった。でもそうなったらいいな、という希望的観測のものだった。確実性はなく、浅い知識で手を入れた付け焼刃的なものだった。淡い期待しか込めていなかったのに、まさか本当に……? あのロボットの中身は……


「……雪音……なのか……?」


「……このロボットみたいな体に入れたのは昇くんの仕業なの? あとなんか不遜な態度だったから黙らせたけどあのゴブリン……」


 その言葉でボクは胸が熱くなり、人目があるのに涙は溢れ出し、雪音を抱きしめた。


「……おかえり、雪音」


「……ただいま」




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