51 肩は赤く塗られていない
放送室にはいなかった。ならば魔法生物部の方だろうか。そう思い魔法生物部の部室に赴くも部室はもぬけの殻だった。人を模した人形もない。何かの用事で一時離れているわけではなく、ここはもう用をなしてないようだった。だとしたら何処へ……?
本命だった魔法生物部の部室が外れたことで、当てもなく特別棟をさまよい歩いていると、一際賑やかな声のする部室があると思うや否や、部室の扉が開け放たれた。
「遂に完成したから……! これを麻衣ちゃんに届けなければ!!」
「ああ、そいつならきっと喜んでくれるぜ!」
テンション高めで部室から出てきたのは伊丹と、先程ボクに拳で気合を入れてくれたツインテールの女生徒だった。
「あ、キミはさっき気合をいれてあげた人じゃーん! どうしたの? わたしの作品に吸い寄せられたのかにゃ!?」
そう言いながら彼女が自慢げに見せつけてきたのは、ロボット……? 全長はボクと同じくらいの大きさで、そんな大きさのロボットというだけでも彼女の力作ぶりが伝わる。デザインは無骨な人型で、一昔前どころか四半世紀以上前に流行ったようなずんぐりむっくりとした人型なのにタコのようにも見えるデザインだ。空は飛べず、武器も実弾のみという好きな人は好きそうな物だとは思うけど……一体何をしようとしているんだ……?
「昇に気合を? なんだ、なんか知らない間にお前達仲良くなっていたんだな」
「いや、仲良くはなっていないけど……そういう伊丹こそ模型部とか書かれた部室から出てきたみたいだけど、模型部に入ってたの?」
「模型部には所属してないが、ちょっと相談に乗っていてな」
「そう! 伊丹くんのアドバイスを元に! これを! 麻衣ちゃんにプレゼントするという使命が!」
麻衣ちゃん……? どこかで聞いたような名前だけど、名前からして女性の名前じゃないのか。こんな置き場所にも困るような大きさのロボットの模型? を貰って喜ぶのだろうか……?
「昇が不思議そうな顔をするのもわかるが、その処瀬麻衣ってのは強くてかっこいい人サイズのものを欲しがってるみたいなんだ。前にもそういうものを渡した事があるらしいんだけどな、もっと納得のいくものを作って渡してあげたら喜ぶんじゃないかっていう話をしてな」
処瀬麻衣……! あいつにコレを……!? 確かにコレなら武器もついているし、生身の人間より見た目からして強そうに見える。これを届けるとなると今の魔法生物は必要のない物になるわけで、ボクがもらってしまってもなんの問題もなくなる。なんて都合の良い物を用意してくれているんだ!
「それはいいね。ぜひ届けてあげよう」
「お、おう。なんか急に機嫌良くなったな? 今までちょっと話しかけづらかったんだぜ?」
「それはごめん……」
「まぁ気が晴れてくれたのならいいんだ! 大事なのはこれからだからな! さぁ魔法生物部にこれを届けに行こうぜ!」
「あ、魔法生物部に行っても誰もいないよ」
「そうなの? でも魔法生物部の部室で待っていればそのうち戻ってくるんじゃないの?」
「ああ、実はその事なんだけど……」
疑問を口にする彼女と伊丹に、ボクは今までの経緯を話した。
「そんな事になっていたとは、全然気付かなかったぜ……」
「逆にこっちが聞きたいのはなんで二人とも迷宮化の幻覚にかかっていないの?」
「幻覚ってそもそも何なの!? どうやったら見れるの!?」
どうやら根本的にこの子はなにかおかしいようだ。
「いや、オレは幻覚の魔法かけられたのわかったから対処しただけだぜ。まぁふざけた事してるヤツがいるなくらいにしか思ってなかったんだが……あんな放送本気にするヤツとかいないだろ、と思ってた」
伊丹は誰かの悪ふざけ程度の認識だったらしい。校内がそれほど騒がしくないのも伊丹と同じような認識だからだろうか。
「まさか麻衣ちゃんがそこまで思い詰めていたなんて……! 早く行こう! こいつを届けに!」
ロボットを乗せた台車を押して今にも走り出しそうな女生徒。
「届けに行くのは賛成なんだけど、彼女がどこにいるのか……」
ツインテールの女生徒に合わせて動くと闇雲にその辺を走り回る事になりそうな勢いだ。もうちょっとこれといった指針があってから動きたい。
「幻術かけてきたヤツの場所ならわかるぜ」
「すごい! さすが伊丹くん! 星さん達がストーカーっていう称号をつけるのも納得だね!」
「よせよ、そんなに褒められると照れるじゃねーか」
褒められている……のか……?
「じゃぁ案内してもらえるかな?」
「ああ、こっちだ」
ボク達は伊丹の後をついていく。そしてその足は魔法教室を経由し、魔法準備室へと進んでいく。伊丹の足は迷うことなく立ち入り禁止の場所に向かっている。この場所は……ボクにはあの事が思い出されて気が重くなる。
「わたしここ入ったのはじめてだよ! 知らない場所ってわくわくするよね!」
そんなボクの心などおかまいなしにはしゃぎ始めるツインテール。
「この先に幻術かけてきたヤツがいるぜ。多分状況からして処瀬がいるとは思うけど、全く違うヤツがオレに悪戯で幻術かけた可能性もあるからな。その時はごめんな?」
「その時は『幻術かけてきやがったのはお前かオルァ!』って絡みに行こうよ! わたしも噛みついてあげるから!」
「なんでわざわざケンカ売りに行くんだよ……」
「人違いの心配はないみたいだよ。部屋の中央にある魔方陣に、処瀬さんがいる」
これだけ騒がしくしていたのだから当然向こうも気付いていて、こちらを見ていた。




