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49 決別



 もう既に案は示した。後は彼女が魔法生物を完成させる段階まで待つだけでいい。

 完成させる間際にボクはそれを奪い、『魔法生物』ではなく、『雪音』としてこの世界に戻せばいいだけの話だ。


 いくつもの魔法使いの魂をこの魔法生物の素体の中に入れ、雪音の魂だけを選別し、他の魂は元の場所に戻す。理論上はこれで上手くいくはずだが、こんなに簡単でいいものだろうか……?


 遥か昔から『反魂』と呼ばれる死者の蘇生は試みられており、いくつもの書物にもその方法等書かれているが、人の形をしてないもの人の心をもってないもの、など人でないモノが作り出された、という資料はいくつもある。


 だが、完全に蘇生されたケースはなく、成功した例が一件もないのだ。


 魔法を理解できるようになってすぐ、というボクの浅知恵で果たして上手くいくだろうか……?

 いや、前例がないのならボクが前例になればいいんだ……!


 ガタッと、椅子が床をこする音の方を向くと、彼女が席を立ち、どこかへ行くところだった。大方トイレにでもいくのだろう。


 魔法生物についての話はするが、世間話等の談笑はしない。たまに彼女から世間話のようなものをふられた事もあったが、僕は全て曖昧な相槌を打つだけで話を展開させなかった。


 第一にそんな無駄話で作業の能率を落とさせたくなかったし、それに世間話に付き合って下手に

懐かれでもしたらこの魔法生物を彼女の手から取り上げるのにためらいが出てくるかもしれない。

しかし、この魔法生物……雪音ではないとわかっているが、このように似ていると、まるで雪音がここにいるかのような錯覚に陥る。


 雪音……


 食い入るように見つめているとやがて彼女が帰ってきた。


「……」


「……」


 会話はない。

 彼女がやっている作業を邪魔しないようにボクは魔方陣を描いて彼女の魔力を補強する。大した労力ではない。一人よりマシ、程度の補強だ。だから合間合間にそれをする以外は待つだけ。


 そして完全下校時刻となる。


「じゃ、ボクは帰るよ」


「……さよなら」


「ああ、さよなら」


 この何気なく言った別れの言葉。今思うと彼女なりの決別の言葉だったのだろう。まさか先に彼女がボクを切ってくるとはこの時はまだ思いもしなかった。今回もボクの見通しが甘かった、ということだ。翌日ボクは思い知ることになる。






 翌日。最後の授業が終わり、放課後となる。やっと解放されたとばかりに足早に帰路につく者、まだ束縛から解かれず、部活動に行くもの、何ともなしに教室で喋り続ける者、色々だ。


 ボクにも行くべきところ、やるべき事がある。帰り支度もそこそこに教室から出ようとすると、


「昇」


 ボクの行く道を塞ぐように伊丹が立ちはだかる。よほどそのまま横を通り過ぎようかと思ったが、

いつになく真剣な表情だった。少しくらいは時間を割いてやってもいい気がしたので伊丹に返事を返す。


「……なにか用事? 急いでいるから手短にしてほしいんだけど」


「魔法生物部って知っているか?」


「!?」


 な、どういう意図の質問だ!?


 ボクが魔法生物部に足繁く通っていることを知っているのか!? 尾行されないように注意を払っていたつもりだったが……! だとするとどこまで知っていてこの質問をするに至ったんだ……!?


 心を読まれたのか……!? だが今までの感覚からすると心を読む、といっても事細かく全て読まれるわけではなく、むしろカマかけである可能性の方が高い。だが、カマをかけられるくらいには何か情報をつかまれているという事か。


 だがそれを正直に言う必要もない。


「……いや……知らないな……」


「……そうか、それ系の本読んでたからちょっと気になったんだけどよ」


 ……読んでた本まで!?


 これは相当情報が漏れていると思って間違いない。だが、『アレ』に関することは魔法使いにとっては犯罪にあたる。大方止めに来た、というところか。だけど、それは犯罪です。わかりましたやめます。なんて今更できるわけがない。もう少しで届くかもしれないのにむざむざその手を止められるわけがない!


「……それで。伊丹はどうするの?」


「オレ一人で行く事にするよ。

 ……元々こっちはオレが頼まれてることだしな……」


 そう呟くと伊丹は廊下へと消えていった。


 一人で魔法生物部に行く、だと……? そしてはっきりと聞こえなかったけど、何か頼まれている……?


 なんだかよくわからないけどボクが後手に回ってるのは確かのようだ……!


 伊丹が魔法生物部に行って何をするのかはわからないがあれを見られるのは困る。伊丹にはしばらく眠ってもらおう。


 ボクは適当な召喚獣を呼び出す。眠らせる目的の召喚獣なんてボクは知らないからやりすぎなければいいが、この際気にしてられない。『目標に気取られないように近寄り、眠らせろ』という命令を出してボクはそれを放つ。


 その間に魔法生物部に行って……


『ようこそ、このイカれた場所へ』


 校内放送……? 誰かふざけているのかとも思ったけど、聞き覚えがあるような声だった。


『ただ今を持ちましてこの学校は私の魔法により、迷路と化しました。それに伴い、校内に残っていらっしゃる方には私のゲームにご招待いたします。参加、不参加は以下のルールをお聞きになられてから各個人で判断してください。


 皆様の勝利条件、この学校から脱出すること。または私を見つけること。


 制限時間は鐘が七つ鳴るまでです。先程開始の合図として鳴らした鐘も含むのであと六つです。

 いずれか一つでも満たせばそこで皆様の勝利条件が満たされた事になり、迷路化も解かれます。

 迷路を解くもよし、私を見つけるのもよし、そこは皆さまの自由です。

 制限時間を過ぎても誰も勝利条件を満たせなかった場合、残念ながら皆様方の命は失われます。この迷路内にいる限り、それは絶対で逃れようはありません。この学校全てが爆弾だと思えば想像しやすいでしょうか。


 続きましてルールの説明です。


 迷路内では一部の魔法を除いて魔法は使えません。魔法使いでない方はこれまで通りです。

 この放送終了後、私は一般性とに紛れて迷路化した校内を徘徊します。

 私を見つけたと思ったら、その人を殺してください。正解ならば迷路は解かれます。

 ゲーム中に命を落とした方は誰かが勝利条件を満たしたとしても生き返るなんてことはありません。皆様方が勝利条件を満たした時、私の命もなくなります。この校内に命をかけていない人は存在しない、ということになります。それはでは命をチップにしたこのゲームを心ゆくまでお楽しみください』


 アイツ……! やりやがった! 前にボクが話して聞かせたもの、ほぼそのままの事をされて気付かないわけがない……! 先手を取られた……! 魔法生物の完成はまだ時間がかかると踏んでいたボクの認識が甘かったというわけだ……! こうしてはいられない。今からでも奪取する方法を考え、実行に移さなくては……!

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