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47 すれ違う想い



「何か隠しているな……」


「模型部の方々の話ですか?」


「ああ……エビやカニの話をしたら急に態度がおかしくなった。多分、あのエビとカニ、とんでもなく価値のあるエビやカニ、下手すると天然記念物かもしれないぜ……オレの勘があれは絶対になにかあると言っている。間違いない」


「そんなの学校で飼っていいの?」


「もちろんダメだ。だからそれに触れられそうになったからオレ達を追い出しにかかった……そうとしか思えない」


「見つかったらダメなものをああやって堂々と飼うでしょうか」


「あえて目に触れることが出来る位置におくことによって逆に目立たないようにしているんだ。よく言うだろ? 木を隠すなら森の中、カニを隠すなら水槽の中、だ」


「つまり、あのエビやカニが入っていた水槽の中にすごい価値のあるエビかカニがいるかもしれない、ってこと?」


「さすが渋山、察しがいいじゃねぇか。真面目な話になると頭の回転が速くなって助かるぜ」


「……」


「どうした? そんな顔をして?」


 星姉妹が深いため息をついてなにか言いたそうに伊丹を見ていたので伊丹が声をかける。


「いえ……それ冗談とかではなく、本気の会話なんですか?」


「どういう意味だ?」


「目立つ場所に隠している、という自覚がありながら、そこに会話を振られた時になんの言い訳も考えずに言いよどむ、なんて不自然だと思わないんですか?」


「隠した! 完璧だ! と思っていていざ話をふられることについては考えてなかった、とか。ほら、あまり部室には人来ないって言ってただろ?」


「……そうですね。伊丹さん、ぜひ真相を暴いてくださいね」


 それ以上問答する気が失せたようで投げやりな応援をする明。


「なんか模型部でだいぶ時間が経ってしまったけど黒夜探しはどうなったの?」


「やべぇすっかり忘れてた」


「友達甲斐のない人ですね」


「危機が差し迫っているわけでもないし、一日消費したからってなんてことないだろ」


「一日を疎かにするものは一日に泣く。今日はもう遅いですし、帰りましょう、シヴさん」


「そうね、今日は仕方ないけど帰りましょうか」


 なにやら教訓めいた言葉を残しながら星姉妹と渋山は帰っていった。


 そんな三人を見送りつつ、伊丹は物思いにふける。


(オレも一緒に帰りたいところだが、アイツラは電車通学。オレは自転車通学。電車に乗って帰れる場所にオレの家はない。この前まではいつも昇と帰ってたんだが、魔法を意識できなくなる事件あたりからずっと一緒には帰ってない。あの時は仕方なかったけど、今は一緒に帰れるじゃねぇかよ……

オレは寂しいぜ、昇……)






「……ッ!!」


「……どうしたの……?」


「いや……急に寒気が……」


 最近夜遅くまで本を読んでいて寝不足だからだろうか、体調を崩したのかな……

 いや、そんなことは言っていられない。自分の体調なんて気にしている場合ではないのだ。一刻も早く、雪音を取り戻すことだけを考える……! そのためにはこの魔法生物に詳しい彼女をいかに利用するかだが……


「……今日も来てくれたんだ……」


 ややためらい気味に言う彼女。

 ……なんだ? 僕がここにいると何か都合の悪い事でもあるのだろうか……


 まぁそれも当然か。魔法生物に対して造詣が深いどころかはっきり言えば魔法生物の知識などない。こうすればいいんじゃないか、という意見を飛ばすことはできるが、それが実現できるのか、現実的なのかは判断できない。


 そんな素人が近くにいても邪魔になるだけだ。


「……きょ、今日はお菓子を用意したんだけど……た、食べる……?」


 そんな僕の表情の陰りでも見て、一応気を使ってくれているのだろう。クッキーにチョコをコーティングした市販されているお菓子を差し出してきた。


「ああ、ありがとう。頂くよ」


 だが、僕に気を使うより、僕としては魔法生物に集中して頂きたいところだが。

 お菓子をかじりながら思う。僕がここにいるせいで魔法生物の完成が遅れるようでは僕がここにいる意味がない。


「……黒夜君は……生き物だと、どういうのが好き……?」


 急にわけのわからない質問が飛んできたがどう答えたらいいものやら思案していると彼女が補足してきた。


「イヌとか、ネコとか……魚介類が好きとか……」


 イヌとかネコを比較にだしてくるということは食べ物としてではないと判断できるが、なぜ魚介類が出てくるんだ。


「いや魚介類は好きじゃないけど」


「そう……」


 一体なんの質問なのだろう。魔法生物に関係するのだろうか? それともただの世間話か?


「なら、何が好き……?」


「どうしてそんなことを?」


「魔法生物……喜んでもらえるから……」


 ……彼女の話は要領を得ないが、推測するに僕の好みの魔法生物を作ってくれる、という話か?


 なら答えは決まっている、今造っているモノを奪うつもりなのだから、余計な事はしなくて結構。 好きな生き物を挙げてそれを造るのに時間を費やしてもらっては困る。


「……『特にはない』かな……」


 彼女に余計な気を使わせないためにも僕は僕で出来ることをやらなければ。


「そんなことより、僕に何か出来ることはないかな。魔力を集めるだけの雑用みたいに使ってくれても構わないんだ」


「……それなら……魔方陣を描いて……」


 彼女に教えてもらった通りに魔方陣を描き、そこに魔力を集める。僕が集めた魔力を彼女が自由に使えるようにする魔方陣だ。


 しかし、これも単調な作業だ。続けているうちにコツをつかみ、作業に集中しなくても出来るようになってくる。


 ヒマになってくるが、かといって彼女に話しかけはしない。僕の言葉が彼女の邪魔になってはいけない。


「……黒夜君は……」


 そう思っているのに彼女は僕に話しかけてくる。


 うっとうしいな……


「黒夜君は……どうしてわたしを手伝ってくれるの……?」


「それはもちろん……」


 雪音のため、ひいては僕のため。だがそんな事を正直に口にする必要はない。おためごかしの言葉で十分だ。


「魔法生物に興味があるからだよ」


「……そう…………でも、それでも……嬉しいかな……今まで魔法生物に関心を寄せてくれた人

 いないから……」


 魔法なんてロクでもない。僕から雪音を奪う原因になった魔法なんてなくなってしまえばいい。魔法に関わる人間なんてまともじゃない。

 だが今は雪音を取り戻す唯一の道。そうでなければ魔法生物なんて得体のよくわからないモノ、興味なんて抱くものか。


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