44 伊丹と模型部
「ヘックシ!」
「汚いわね。クシャミする時は口元を手で押さえなさいよ」
伊丹が盛大にクシャミをする様を見て渋山が眉をひそめながら注意をするも、伊丹はさして気にも留める事もなく。
「これは誰かがオレの噂をしているな……」
「クシャミ一つしただけでそんな妄想が出来るなんて、おめでとうございます」
星姉妹の皮肉も右の耳から左へと抜けていく。
放課後、こうして黒夜の様子を見に来る渋山達だったが、黒夜は終業のチャイムが鳴ると同時に姿を消してしまうので中々会えないでいた。
「図書室に行ってみたけど、黒夜いなかったのよね」
「図書室にいなかったのでまだ教室にいるのかと思い、こうして足を運んだわけですが、どうやら無駄足だったようですね」
「え? もう行ってきた後なの? オレはオマエラが来ると思って教室で待機してたんだが……」
「こっそり黒夜さんがいないことを確認だけして帰ればよかったですね」
「そうね。会う約束なんてしてないしね」
「わかっている、そういう人をおちょくるような喋り方はお前達なりの愛情表現なんだろう? 決して本気でそう思っているわけではない事くらいわかっているからな」
「……キモ」
「自分に都合の良いように物事を解釈するのはストーカーとしての必要技能なんですよね」
そんな女子達の反応にちょっぴり、いやかなり傷付いた伊丹だったが、そんな様子はおくびにもださずに話題を変える。
「で、どうするんだ? 昇がいないから帰るのか?」
「そう思ったんだけど、確かアタシの知り合いにストーカー術に長けた魔法使いがいることを思い出して、ここに来てみたわけよ」
「ホラ、な、やっぱりオレに会いに来たんじゃないか。
って、そのストーカー術に長けた魔法使いって誰だよ!?」
「このクラスにいる魔法使いなんて一人しか見当たりませんが」
「このクラスにいる魔法使い、オレ、雪音、昇。今は雪音も昇もいない。自身の名誉の為に言っておくが、オレは決してストーカーするための魔法になんて長けてない」
「言い方が気に入らないようなので言い直しますね。魔法とは関係ないリアルストーカースキルを持った魔法使いがこのクラスにはいらっしゃるようです」
「なんだよリアルストーカースキルって!?」
「で、黒夜どこに行ったのか知らない?」
「(オレの抗議を遮る絶妙のタイミング……! これではこれ以上抗議のしようがない……!)
いや、オレはてっきり今日も図書室かと思っていたんだが……」
「使えないストーカーですね。そんなんじゃ立派なストーカーにはなれませんよ」
「ならなくていいし、なるつもりはない。けど、昨日昇が特別棟の方から姿を現したってのが気になるな。図書室にいないのなら特別棟にいるのかもしれない」
「なんのために?」
「いや、そんなことまでは知らないけどよ」
「ならとりあえず行ってみる? 特別棟に」
そして彼等は連れ立って特別棟へと向かう。
「伊丹さん、黒夜さんの妖気は感じますか?」
「昇は妖気を発しないだろうし、オレに妖気を感じる機能はないよ……」
「え? じゃ特別棟になんてきてどうすんのよ?」
「何意外そうな顔してるんだ。オレにそういった類の能力があると本気で思っていたのか。ここに来たのはオマエが行こうって言ったからなんだが……」
「シヴさんのせいにしないでください。伊丹さんがその足で隅々まで片っ端から調べていけばいいじゃないですか。さながらオートマップ機能のあるRPGで行き止まりとわかっているのにマップを埋めるため無駄な探索をするかの如く」
「行き止まりに見えて、実はワープポイントだったりする場合があるんだな、コレが!」
「そんな話はどうでもいいです」
「くっ……言い出したのはそっちなのに、何この……何?」
「で、仮に黒夜がここにいるとして、黒夜を見つけたらアンタはどうするの?」
「どうするって……特に考えてはいない」
「何にも考えてないって……少しは頭を使いなさいよ」
「ならそういうオマエの方こそなにか考えでもあるのかよ?」
「そうね。これといって特にはないわ」
人のこと言えねーじゃねぇか、と伊丹はツッコミをいれてやろうとしたところ、すぐさま渋山は
言葉を続けた。
「でも、特に考えることなんて必要ないでしょ。友人が落ち込んでいるようだから元気付けにいくだけじゃない。顔を見せる、声をかける。それだけでも何もしないよりは余程いいと思う。だからアタシは黒夜を探す。それだけよ」
(なら別にオレにどうするのか、なんて質問しなくてもよかったんじゃね)
と伊丹は思ったが口には出さなかった。渋山はともかく、星姉妹あたりに噛み付かれそうな気がしたからだ。そしてそれはおそらく正しい。
「……も……むり……ッ! これ以上は……飲めないよぅ……」
「好きなんだろ……? この白くてどろっとしたものが……」
「やだやだ……! もうやだああああ……!」
静かな特別棟に響く、という程でもないが聞き取るには十分な音量のはっきりとした怪しい声。
伊丹達が発した声ではなく、伊丹達が通りかかった部室からそれらの声は伊丹達の耳に入った。
「何かいかがわしい事が行われているような声が聞こえてきました」
「奇遇だな、オレにも聞こえたぜ」
「突入するわよ!」
返事を待たず、怪しい声のした部室のドアをいきなり開け放つ渋山。
「その判断おかしくないか!? まずは様子をみるのが定石だろう!?」
そして彼等は部室の中で繰り広げられていた光景を目にする。扉の先に見えた光景は、困り顔で口の端から白くてどろっとした液体を垂らしている女生徒と、それを見下している……
女生徒。
いかがわしい事が行われている様子ではない。
「伊丹君だーっ! ウゲロップ……」
口の端から白くてどろっとした液体を垂らしながら伊丹の名前を大声で呼ぶ女生徒。
「アンタの顔見るなり吐きそうになってるけど知り合い?」
「魔法クラスで一緒だろう!? 模擬戦だってしてるだろ!? それにオレの顔を見たから吐きそうになってるわけじゃないよ!」
「シヴさんの記憶力をあまりなめない方がいい、です」
「それはフォローとしてどうなんだ。フォローではないのか」




