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37 魔法生物 前


 魔法の授業は石神井先生がいないため、図書室で自習が続いていた。他の学年の魔法担当の教師の手が空いた時は魔法授業もやっていたが、自習の割合の方が多い。他の生徒は自習より模擬戦をやりたがっているみたいだけど、模擬戦で力を求めた挙句あんな事をやらかしてしまったボクには図書室での自習の方が都合が良かった。警察が頼りにならない以上、ボクがなんとかしなくてはならない。命を使った魔法、と卯月さん……雪音は言っていたけど、雪音の命がそれで尽きているとは到底思えなかった。思いたくなかった。石神井先生だって救い出さなければいけない。


 だが、その方法が思い付かない。もう一度扉を開いて向こうに行き、扉は召喚獣にでも閉めさせればいいとも思ったが、肝心の扉の開け方がまるで解らなかった。一度理解して、扉を開けたというにも関わらず。先生から貰った資料を見ても、何の閃きもなかった。資料を見ても異界の扉を開く方法に繋がらない。深淵の災禍とリンクしていたから解った気になっていただけで、実際のボクは何も解っていなかったというのか。


 魔法に関する本はこの図書室の中だけでも膨大にあった。だが、どういう本を読めばいいのか解らない。目についた本を片っ端から読み漁っているが、今のところ何の成果も得られてない。しかし読むのを止める訳にはいかない。どんな些細な事が取っ掛かりになるのか解らないのだから。




「昇ー今日はどうするんだ?」


 放課後。授業が終わるや否やボクに話しかけてくる伊丹。だけどボクは答える気にならない。頭で伊丹に悪いなと思ってはいるが、ボクの気持ちに折り合いがつかないのだ。


 異界の扉を開けて二人が向こうに行かざるを得なくなったのはボクのせいだ。だがその事に関しては箝口令が敷かれ、一般の生徒には知らされていない。徒に生徒達の不安を煽り、ともすれば矛先がボクに向く恐れがあると判断されたからだった。


 なので石神井先生は長期の出張で、雪音は家庭の都合で休学という事になった。生徒で本当の事を知っているのは現場にいた星姉妹とボクだけだったが、ボクがどうしても伊丹には話しておきたかったので、伊丹にもそれは話した。当然ボクは殴られるか責められると思ったのだが、伊丹はボクを殴るでも責めるでもなく。『そうか……気付けないでゴメンな?』と、何故か謝ってきた。ボクはそれにどう反応を返したらいいのか解らず、行き場のない思いを抱えてしまっている。


 こんなボクが日常会話を楽しむ事が許されるハズがない、と。


 だから伊丹には申し訳ないが、無言で帰り支度をして、教室を出る。その際に渋山さんと星姉妹とすれ違う。彼女等は気遣わしげな表情で何か言葉をかけようとしてくれるが、そんな事はボクに相応しくない。睨んで、ツバでも吐きかけてくれた方が余程気が楽だ。


「黒夜……」


 何も言わずに立ち去ろうとするボクの名を呼ぶ声が聞こえるが、ボクは答えない。皆には悪いと思うけど、今のボクにはその資格がない。


 最近の日課になっている図書室での本漁り。魔法に関する書籍は思っていた以上に多い。図書室の長机に山積みにし、端から目を通していく。そんな作業を繰り返しているとどうしても目につくのが図書貸出の記録だ。本には誰がいつ借りたのかを記した紙が本の最後のページに貼られているのだが、目を通す本全てに雪音の名前が記されてある。よく教室でも本を読んでいる姿を見た。この本もそうした景色の中の一つだったのだろう。


 貸出記録を目にする度、ボクの心は痛む。


 そんな感傷に浸っている場合ではないのだが、何をするべきなのか、その指針が定まらないで魔法に関する本をただ読んでいくというのも意味がある行いなのか疑問も湧いてくる。


 ふぅ、と手を止めているとボクに視線を向けている存在に気付いた。いや、正確にはボクにではない。ボクがところせましと机に並べている本に視線を向けていた。見るからに大人しそうな地味な感じのメガネをかけた女生徒だった。おそらく彼女の目的の本がこの中にあるのだろう。でも向こうからは声をかけられない、といったところだろうか。距離は少し離れているが、ボクが本を独占するのも悪いと思い、声をかけることにした。


「目当ての本があるの? どの本?」


 ボクが声をかけても女生徒はすぐには返事をせず、じっくり一呼吸置いてから重々しく口を開いた。


「……Historia von D.Johann Fausten……」


 日本語訳されてないモノが目当てという事はこの子も魔法使いなのだろうか。

 最近知ったのだが、海外の図書が日本語訳される場合、翻訳者が魔法を意識出来ないと、原典に書いてある魔法に関する部分がスッパリ抜け落ちる。


 だから魔法を使える人は基本的に、訳されていない原典を読む事になるのだが……今まで日本語しか使った事がない、知ってる外国語と言えば高校生レベルの英語の知識しか持たないボクがそれらの本を読むのは大変苦労しているところでもある。彼女がこれを読む事が出来るのなら色々聞いてみたい事がある。


「原典の方を読むってことはキミも魔法使い?」


「……」


 しかし返事がない。魔法の事を意識出来ないと、無反応になるらしいが、これはそんな感じではなく、『話しかけてくるな。さっさとブツを渡せ』と暗に言っているのだろうか。


 待ってみても彼女から答えはなく、不機嫌そうな顔でボクの手元にある本をただ見つめていた。

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