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36 事情聴取


 ボクは地下の扉があった場所で考える事を放棄したかったが、誰もいない暗い空間にいるだけで後から後から思考が勝手にあふれ出してしまっていた。それは後悔と自責の念。操られていたという自覚はなく、自分の意思で動いていたつもりだったが、今は何故あれほど力を求めたのか、偏執的に異界の扉を開かなくてはならないと行動していたのか解らない。


 さも自分の意思で動いているような思考の誘導があったのだろうか。それともこのような結果を招いたボク自身の罪を愚かにも他人のせいにしようとしている心の弱さなのか。だがこれだけは心に刻みつけなければならない。


 ボクのせいで二人が失われてしまったという事を。


 頭を抱え、うずくまっているボクの近くに、いつの間にか人の気配あった。しかも二人分の気配。ひょっとしてなんとかしてこっちに帰ってこれたのか!? 


 そんな期待を胸に抱き、勢いよく顔を向けてみるが、そこに期待した人はいなかった。だが、二つの見知った顔がボクを見ていた。


「どうしたんですか、そんなところで膝をついて、具合でも悪いんですか?」


「おかしな魔力の流れを感じて来てみたんですが、黒夜さん一人ですか? 石神井先生が何か魔法使ったような魔力の流れも感じたのですが」 


 星姉妹が交互に尋ねてくる。どちらが姉で妹なのかはボクには判断出来ない。


「異界の扉を開かれて……二人が向こうに……深淵の災禍が……!」


 口を開くと思ったように喋れず、つい先程起きた事の印象を断片にしただけの言葉しか出てこない。


「ちょっと何言っているのか解りませんね」


「ちょっと深呼吸でもして落ち着いてから話してください」


 二人に言われ、ボクは気を落ち着ける。頭では色々な考えが巡り落ち着くのにだいぶ時間を要してしまったが、先程起きた出来事を、なんとか二人に伝えた。


「……そんな事があったんですか」


「とりあえず警察呼んでおきましょうか」


 警察!? ああ、そうか、こんな事をしでかしてしまったボクを捕まえるために呼ぶのか。そしてボクを罰してくれ……それだけの事をボクはしてしまったのだから……


 110番だろうか。連絡を入れると、星姉妹のどちらかが、この場所に案内する為に校舎の外へと迎えに出て行った。それから20分くらいしたところで迎えに出て行った星姉妹の片割れが警察を三人連れて戻ってきた。


「そちらさん? ケガとかないかね? 話は出来る?」


 警察の一人がボクに近づいてきて色々尋ねてきたのでボクはそれに一つ一つ答えていった。その間に他の二人が星姉妹に話を聞いたり、魔方陣を調べたり、写真を撮ったりしていた。


「そっかそっか、なるほどねぇ」


 ボクに質問をしてきている警官の返事がどこか軽く、真面目に聞いていないように感じられてボクは少し苛立ちを感じていた。ボクのそんな気分が伝わったのか、質問してきてた警官はボクから離れ、別の警官がボクに近寄ってきた。


「じゃ、ここで何かが起きたのか教えてくれないか?」


 さっき離れていった警官に詳しく話したのに、また同じ話をすればいいのだろうか。ボクはさっきの警官に話した事を繰り返した。


 そして話し終えると目の前の警官はフラっとどこかへ行き、前二人とは別の警官がボクの近くに来る。


 ちゃんと聞いているんだろうか。何故二回も同じ話をさせるのか。役割分担が出来ていないのだろうか。


「話を聞かせてもらっていいかな?」


 そんな言葉と共に、さっきの警官達と全く同じ事を尋ねてくる警官。


 何度同じ話を繰り返させるつもりなんだ!? 情報の共有はしないのか!? 同じ役割の人が三人もいるのか!? 効率が悪すぎだろう! 同じ話ばかりさせてないで早くボクを捕まえてくれればいいだろう!

 

 さすがに三回ともなると怒りがこみ上げてくる。


「黒夜さん」


 そんな時不意に後ろから声をかけられた。


 星姉妹の……どっちだかは解らない。


「警察の方は黒夜さんの話に矛盾点がないか調べるために同じ事を何度も聞くんですよ。何度も同じ話をさせて、都合の悪いところを少しでも改変するかどうか調べているんです。改変すると面倒な事になるので正直に同じ話をしていればいいんですよ」


「そんな事はないよ、お嬢さん。正直に話をして欲しいというのはあるけどね。でもまぁ、こんなところかな? また何かあったら連絡してもらえれば」


 そんな言葉を残し、引き上げていこうとする警察。


「ちょ、ちょっと待って、ボクを逮捕しないのか?」


「逮捕って。何か悪い事でもしたのかい? 君の話は聞いたけど、嘘をついているわけでもなさそうだし」


「ボクが異界の扉を開いたから、二人はそれを閉じるために向こうに行ったのに!? ボクが異界の扉を開かなければこんなことにはなっていないというのに!?」


「深淵の災禍に精神を乗っ取られていたんだろう? なら君がやったんじゃないよ」


「いいや! 意識はあったんだ! ボクがやったんだ!」


「じゃ、ちょっと異界の扉とやらを今開いてもらう事は出来るのかな? 向こう側からしか閉じる事が出来ないって言うなら私が向こうに残ってもいいからさ。そしたら二人ともこっちに帰ってこれるだろうし」


 言われて気付くも、異界の扉の開け方がすっぽり頭から抜け落ちていて、どうすれば開くのか全く解らなかった。


 何故だ!? 扉を開いた時、ボクの意識はあったのに、ボクが扉を開いたはずなのに、どうして解らないんだ!?


「それが精神に干渉されるって事なんだよ。確かに君の精神が何者かに干渉されていた形跡があったし、そんなに自分を責めなさんな」


 ボクを捕まえる為に警察を呼んだのではなかった……? ならどうして……ひょっとして警察が解決してくれるのか……? 異界の扉を開いて二人を連れ戻してくれるのか……?


「警察の人が……二人を助けてくれるんですか……?」


「そう出来るよう最大限の努力をするよ」


 縋るボクの言葉に警察の人は頼りになる顔でそう言ってくれた。


 そして何の進展もないまま一週間が過ぎ、どうなっているのか問い合わせてもなしのつぶてだった時、ボクは警察に任せておいても何にもならない事を悟った。

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