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31 地下室


 ボクの前に出てきた女生徒、確かボクの鎌を一瞬で鉄クズに変えた女生徒だ。気だるそうな目でボクを見ている。ボクに絡んできてはいるがそれほど脅威は感じない……取るに足らない相手という事か。


「前の時もちょっと頭のネジ飛んでんじゃないかと思ったけど、今日のはちょっと痛々しくて見ていられない」


 相手がボクを挑発してくるが、ボクの心には到底響くものではない。


「見ていられないからどうしようと言うんだ?」


 模擬戦でも挑んでくるのかな? いいだろう返り討ちにしてあげるよ……!


「別に。どうもしないけど」


「……は? ならなんでボクに絡んできているんだ?」


「アンタも同じ事してただろ。煽るだけ煽ってみたかっただけだよ」


 こいつ、ボクをバカにしているな……! 模擬戦なんかじゃない、本当の戦闘ってやつを教えてやる……!


「しいちゃん! それ以上はいけない!」


「昇も止めておけって。どうしたんだよ。虫の居所でも悪いのか?」


 向こうの女生徒は前にボクと模擬戦をした女生徒、確か唯と言ったか。それに止められ、ボクは伊丹に止められていた。


「これからだって言うのになんで止めるんだ」


 そう言ったのはしいと呼ばれた女生徒。ボクも同じ気持ちだった。


「なんか、止めたい気持ちになったから……」


 すごい曖昧な理由を口にする唯という女生徒。


「……はぁ、もうどうでもいいか」


 そんな唯の様子に毒気を抜かれたのか去ろうとするしい。


「なんでしいちゃんそんなにおこなの? なにかされたの?」


「別に。わたしはともかく唯を虫扱いした事にイラッとしただけだよ」


「しいちゃん虫扱いされたの?」


「された」


「ゆるざん!」


 止めに来た唯が牙を向いてボクに向き直る。


「いや、もういいから。私らを虫扱いしてそれと会話してるってことはアイツ、虫語が解る変なヤツってことだろ? ずっと虫と会話してればいいと思うだろ? 虫しか友達いないのに人間の社会に迷い込んできたのかな。私らを虫だと思う事で友達にでもなろうとしたのかもしれない事を考えると慈悲の心で許せるだろ?」


「そっかー! じゃ許す!」


 散々ボクを煽った結果、周りからは失笑が漏れている。ここまで虚仮にされて黙っていられるか……!


「そこまで言うからには覚悟は出来ているんだろうな?」


「わたし達と友達になりたいの?」


 唯が前に出てきて言う。


「そんなわけ……!」


「ならこれで友達だね!」


「!?」


 唯がボクの手を勝手につかみ一方的に握手してきた。


「本当に友達になるなよ……」


「だって虫しか友達いないなんてさみしいじゃん!」


 そんなやり取りをしながら二人は離れていった。


「一時はどうなるかとも思ったが、まぁ良かったな。友達が増えて」


「ふん……」


 ボクまで毒気を抜かれてはそう答えるしかなかった。だがあくまでも毒気を抜かれたのは唯に対してだけであり、しいに対しては怒りが沸々と後から再燃していた。あんな態度とられるのもまだボクに力が足りないからだ……! もっと圧倒的な力さえあれば、誰もがボクを畏れるような、そんな力が……!


 力を渇望するボクを卯月さんがじっと見つめていたが、この時のボクは気付いてないようだった。



 

 先生から貰った資料は素晴らしいものではあったが、一部分しか渡されていなかった。完全な物を貰うべくボクは先生の元へと訪れたのだが、魔法準備室には誰もいなかった。学校に関係する仕事がある時は教務室の方にいると言っていたからまだ仕事があるのだろう。データだけ勝手に持っていこうかと一瞬頭によぎったが、データは先生のノートパソコンの中にあるハズなので、先生がいなければどの道手に入れる事は出来なさそうだ。

 

 完全なデータがあればボクはもっと強くなれるのに……!


 気持ちだけが逸り、落ち着いて座っていられず準備室の中を忙しなく行ったり来たりしていると、ふと気になる魔力を感じた。準備室の中に資料室という扉があり、許可なく立ち入る事を禁ずる、なんて物々しい張り紙がしてある先から何かしらの魔力を感じる。立ち入り禁止だが、どうも気になるな……


 扉のノブに手を回してみるが、鍵がかかっているようで開かない。だがこのタイプは鍵を持っていなくても中からなら開けられる。ボクは扉の向こうにゾンビを召喚すると中から鍵を開けさせる。勝手に入っていいものか、いや立ち入り禁止なのだから入っていいわけがなく、見つかったら怒られるだろうが、それ以上にこの魔力の流れの方が気になった。


 資料室という名を掲げている割には資料の数は少なく、棚も二つ、申し訳程度に並べてあるだけで棚の中もスカスカだった。そしてすぐ目につく地下への階段。明らかに資料室ではない何かだ。入ってきた入口の鍵を中から閉め、地下への階段へと向かう。気になる魔力の流れも地下から感じられる。


 勝手に入っている後ろ暗さが爪の先程はあったのか電灯を点ける事によってなにかが発覚するのを嫌がったボクは、自分の携帯のライト機能で地下への階段を照らし、下って行った。


 階段を下りた先には頑丈そうな鉄の扉。閂が掛けられてあり、何かを封印しているかのような札が、扉のあちこちに貼られてあった。だが手入れされているのか、人の出入りがそこそこあるのか、閂が錆びついている事もなく動かそうと思えば簡単に動いたし、お札も封蝋のような役目をしているわけではなく、ただ扉に貼られているだけだ。


 ボクは扉を開け放つ。その先には開かれた空間。床に描かれた巨大な魔方陣。そこに魔力が流れている。気になったのはどうやらこれのようだ。何の魔方陣か解らないが、流れてくる魔力をボクは知っていた。これは異界への穴から流れてくる魔力だ。ほんのわずかな穴を開いてボクとバイパスを作っただけであれほどの力を得る事が出来たのだ。もっと大きな穴を開く事が出来たらどんなに素晴らしい力を得られるのだろうか。


 元々先生の資料を求めてここに来た。先生が不在で間が悪いとも思ったが、そうではなかった。先生がいたらボクはここに辿り着けなかったであろうから。これは運命。誰かがボクに強くなる事を運命づけているんだ……!


 ボクは早速この魔方陣から漏れ出ている魔力を調べる。もっとこの異界への穴を大きくするために……!

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