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30 浸食


 ボクは先生に渡された資料、フラッシュメモリにコピーされた文書を自宅のパソコンで改めて読み返していた。先生の姉が何故異界への興味を示したのかが切々と書いてあり、また異界へと至ることによる恩恵等の研究が書かれてあった。ボクは自分に必要な部分だけを抜き出してまとめる。異界のエネルギーの活用方法、魔力についての資料に何度も目を通していく。この資料から読み取れた事は異界への穴を開いてそれを直接ボクに繋げば魔力を貯めるバイパスとして機能する、という事だ。それが出来れば今の何倍もの速さで魔力を貯める事が出来るはずだ。だけど肝心の異界への穴の開き方が修正され、黒く塗りつぶされていた。手っ取り早く強くなれる方法があるのに、何故先生はそこを読めないようにするのか。


 焦りとイラ立ちで、つい操作するマウスにも力が入る。意味もなく右クリックを連打してしまう。


 ……?

 

 するとどうした事か、黒く塗りつぶされていた所の文字が読めるようになった。


 ひょっとして文字を反転させると読めるようになるのか……?


 思った通り、修正され黒く塗りつぶされていたと思われてた所は背景が黒く塗られていただけで文字はそのままにしてあった。


 読める、読めるぞ……! こんな方法で異界への穴が開くのか……! 小さい穴なら今のボクにでも出来そうだ……!


 書かれてある事をはやる気持ちで実行していく。魔力を貯めるのとはまた違った感覚。異界への穴をボクの体を通して開く事による、向こうから勝手に流れてくる魔力。貯めようとしなくても勝手に魔力が溢れてくる……! ボクは力を手にしたんだ! もう誰にも負ける気がしないし、卯月さんにあんな思いをさせなくても済む!

 

 今までとは比べようもない程の高揚感にボクは包まれていった。意識にさえまるで別の何かが流れ込んでくるような……




 力を手にしてから初めての魔法授業。早く力を試したいという熱い気持ちとこの力を使えば勝てて当然というどこか冷めた二つの気持ちがボクの中にはあった。


「今日は作戦を考えてきたんだ!」


 伊丹が何か言っている。今日もチーム戦なのか。どちらでも構わないけど、チーム戦の方がより力を見せつけられるか……


「作戦? 一応聞いてみるけど、どういう作戦?」


 卯月さんが胡乱な眼差しを伊丹に向ける。


「聞いて驚けよ、オレは気付いてしまったんだ。対戦相手によって戦う方法を変えればいいんじゃないか? ってことを!」


「……はぁ?」


「相手が渋山チームみたいなのならこっちから攻めずに向こうが疲れるまで守りに専念するんだ! どうせ渋山のチームは渋山くらいしか攻めてこないしな! 相手が守備寄りの戦い方をするのならこっちも守備よりの戦い方をして相手が疲れるのを待つんだ! 守備に専念すればそうそうやられる事もないからな!」


「対戦相手によって戦い方変わってないんだけど。どっちも相手が疲れるのを待っているだけなんだけど」


 卯月さんが冷たくツッコミをいれる。


「……! つまり守備こそ最大の攻撃になるってことなんじゃないか!?」


 伊丹がわけのわからない結論を出した。


「大丈夫だよ伊丹。そんな心配しなくても昨日までのボクとは違うんだ。少し遊んでやるくらいの気持ちで丁度いい」


 ボクが自信ありげに言うと、伊丹はともかく卯月さんまでも驚いたような顔で伊丹と顔を見合わせていた。


 力を手にした後の授業は面白い程勝率が跳ね上がった。言ってしまえば負けなしだ。まぁこの力の前では当然とも言える。圧倒的に早く貯まる魔力を元に魔法を行使していくだけで、相手は地面に転がる以外能のない虫と化す。稀に抵抗出来たのもいたみたいだけど、ボクの攻撃を防ぐ事に掛かり切りになると卯月さんが横から倒していた。ふむ、虫以外の相手もまだいるか……


「スゲーじゃねーか昇! 昨日一日だけでコツをつかんだのか!? いやーオレは昇が魔法使えたら絶対才能あると思ってたんだよ!」


 伊丹が何故か嬉しそうにボクの肩を抱きながら喜んでいる。


「この程度の相手ならこんなものか。まだ調整が必要だな」


「まだまだ上を目指すってか? いいねーストイックだねぇ!」


 伊丹のテンションが高い。とりあえず放っておくことにする。そんな馴れ合いをしていると周りからコソコソとした声が聞こえてくる。『アイツいきなり強くなってねぇ?』『なんか魔力の貯まり方がおかしい、ズルしてるんじゃね』『アイツも攻めに回ってくると結局アレの攻撃が防げねーんだけど』『あの二人が攻撃で目立っているけど、守りの魔法が発動できないとか要所要所にいぶし銀な邪魔が入ってたんだぜ』といった具合のボクと卯月さんに対する陰口だ。コソコソとした弱いものの言葉なんて聞くに値するものでもないが、卯月さんが曇っている。そういうのはボクに全く気付かれないようにやってほしい。正直不愉快だ。


「どうした? 面と向かって文句を垂れることすら出来ない虫共が、寄せ集まって羽音を震わせていれば満足なのか? いつの世になっても虫のとる行動は大して変わらないな」


「お、おぃ昇!? なんで急に周りを煽るの!?」


 ボクの言葉で周りは静かになるも、敵意のある眼差しがいくつか浮かんでいた。静かになるなら、それはそれでいい。


「アンタこそなんなの? 虫って人を虫扱いしてんの? 模擬戦でちょっと勝ったくらいでいい気になって人見下してるなんて、鉄クズの方がまだ価値あるよね」


 そんな敵意ある眼差しの中から前にも見た事がある一人の女生徒が前に出てきた。



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