28 理解されない理解者
「ところで先生、さっき雪音の魔法が封じられたとか言ってたけど、ひょっとして今も封じられたままなのか……?」
「どうしてそう思ったのですか?」
真剣な面持ちで尋ねた伊丹に肯定も否定もしない石神井。
「先生も知っての通り、オレは相手の魔法を読んで打ち消したり、魔力をかき乱す事を主とした戦法をとっているけど、雪音の魔法がいつ発動してるのか解らないし、魔力の流れも感じる事が出来ないんだ。今までは魔力の流れを隠蔽する技術に優れているんだろうと思ってたんだけど、魔法をそもそも使っていないというなら、納得できる」
「今頃気付いたんですか。相手の魔法に干渉する戦い方をしているのなら2、3戦もすれば普通気付くのでは? もう冬も近いんですが、今まで何を見て戦っていたんですか?」
得意げに語る伊丹になにを今更と明がツッコミを入れる。
「なん……だと……オマエは雪音が魔法を使ってないことに気付いていたっていうのかよ……! そうか、オマエも話には出てこなかったけど、雪音と幼馴染だったりするんだな!? その関係で知ってたんだろ……!」
「違います。模擬戦に参加している人の大半は気付いていますよ。だからほとんどの人は卯月さんとの勝負になると試合を投げるか棄権するんです。種目が違いますからね。真面目に戦っているのは気付いてない人か、それでも勝とうとしている人のどちらかですね」
「雪音との模擬戦になるとすぐ諦めるようなヤツがたくさんいたのは雪音が強すぎるから戦意を喪失していたんじゃなかったのか……!」
「確かに強いといえば強いですが、魔法使いとしての強さではないですよね。MP0の魔法使いがMPを回復させるところから試合が始まるのに対し、近接物理職がいきなり襲い掛かってくるわけですから」
伊丹と明のやり取りに石神井は困った顔で話に割り込む。
「それについては他の生徒からの不満もあがっているのよね。星さんは気付いているようだし、話の流れもそうなっているけど、確かに卯月さんは魔法を使っていませんが、私が卯月さんの戦い方を他の生徒に言うのも公平ではありませんし、魔法を使わないで戦ってはいけないルールもありません。魔法で身体強化して戦う人もいますしね」
「その身体強化の魔法がノーウェイトで発動しているものだと思えばそこまで理不尽というわけでも……」
「自分で言っててそれがものすごいアドバンテージになる事解ってますよね? 模擬戦でなんでもいいから魔法を一つ使っていい、その間こっちは何もしない。というくらいのハンデですよ?」
心情的に雪音のフォローをしたい伊丹だが、ばっさりと明に切って捨てれられた。
「魔法を使わない魔法使いが一番強い……?」
「それが他の方達の不満なんでしょうね」
明の呟きに黙る事で肯定する石神井。そのまま誰も喋らず、少しの間沈黙の空間が訪れるも静かな刻が耐えられないのか伊丹が口を開く。
「……先生はどうするつもりなんだ?」
「どうって言われても、どうもしませんよ。不満を言いに来た生徒には対策を考えてあげてますし、卯月さんの戦い方を否定するつもりはありません」
「対策教えてくれるの!? オレにも教えて欲しいんだけど!」
「伊丹さんの手首ってモーターついてます?」
「ついてないよ!」
「卯月さんへの対策ですが、同等の体術を身に着ければすぐに負けてしまう事はなくなりますよ」
「それ対策!? そんなの言われなくても解るよ!?」
明の対策に全力でツッコミをいれる伊丹。
「物理に耐性をつけるとか」
「筋肉鍛えろってこと!?」
「星さんが身もふたもないような言い方をしていますが、先生から言える対策もそれを遠まわしにオブラートに包んだような事を言うのが精々ですね。魔力をなるべく早く貯めて、相手の攻撃に備える、ですね」
「それが出来れば苦労はしねぇ……」
「何が来るのか解っている相手の攻撃を防げないようでは一流の魔法使いとは言えません。物理攻撃しか来ないと解っていれば自ずと道は見えてくるはずです」
「ぐぬぬ……」
ぼやく伊丹を教師らしくたしなめる石神井。
「稀にですが星さん達は卯月さんに勝つ事がありますよ?」
すぐ近くに答えを持っている人がいるではないですかとばかりに石神井は明の名を挙げる。
「見た事ある! どうやって勝っているんだ!?」
はっと思い出したかのように顔を上げ、期待の眼差しで伊丹は明を見つめると、明はあっさりと答える。
「秘密です」
一方その頃、人気のない屋上に通じる階段の踊り場では、落ち着きを取り戻した雪音が、眠らされ教室に運ばれた黒夜を見張っていた。目を覚ました様子はない。
「黒夜くんは絶対何者かに干渉されてる、私には解るんだから……魔法が使えない私の魔法を信じてくれた、あの純粋で素直な黒夜くんが、人を傷つけたり、騙したりするわけがない……黒夜くんが私を信じてくれたんだから私はそれに応えないと……」
暗い階段で呟く卯月の独り言を聞く者はいない。




