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27 さらりと過去話


「と言っても何から話せばいいのかしらね。私と卯月さんは10年以上前から知り合いな事は知っているかしら?」


「全然知らなかったぜ」


「わたしは知ってました。何年前からという詳しい情報はありませんでしたが」


「星さんも何かと家と付き合いがありますからね。では私に姉がいる事は?」


「えぇ。家を飛び出していったきり音沙汰がない、と伺ってます」


 明の言葉に頷く石神井。


「卯月さんとはいとこでね、家同士の付き合いもあって家族連れでよく家に来ていたの。姉も面倒見の良い人だから卯月さんによく構っていたわ。それだからか姉に、卯月さん大層懐いていたんだけど……」


「わかった! 先生の姉ちゃんが雪音に取られたと思って嫉妬した先生が何かと雪音に意地悪とかしたんだ!」


 伊丹の話の腰を折る一言にも腹を立てたりせず、冷静に首を横に振って答える石神井。


「していません」


「そっか。そうだよな。10年前と言えばオレ達は小学生の低学年だけど、先生は高校生くらいか? さすがに高校生が小学生相手に意地悪とかしないよな」


「伊丹さん、それ以上はいけません」


 石神井の年齢を知っている明はそれとなく伊丹を諭すも、伊丹にはそれが通じない。


「だとすると先生の姉ちゃんってその時いくつだ? 大学生くらい?」


「10年前ですと、中学生になるかならないかくらいですね」


「え? 先生が?」


「姉がです」


「でもそうなると先生も10年前小学生っていうなんだかおかしな事になるぜ? あっ、ひょっとして年下の姉ってやつなのかな?」


「伊丹君が何を言っているのか解りませんが、姉は年上であるものですし、10年前私は小学生です」


 温和な表情を浮かべている石神井であったが、嵐はもうすぐそこまで迫っていた。


「嘘だろ、先生って20代半ばを超えて」


「インペールメント!」


 突如石神井の口から呪が紡がれ、発動した魔法が空中に杭を生み高速で伊丹に突き刺さった。


「うぐっ……!」


「まぁそうなりますよね。伊丹さんも静かになったことですし、先生続きを」


 杭を伊丹に突き刺し、気が晴れたのか石神井は何事もなかったかのように話を再開した。


「卯月さんは今でこそ大人しそうにしていますが、子供の頃はかなりワガママで自分の思い通りにならないとよく癇癪を起こしていました。今も根っこはあまり変わってないようだけど……」


 さっきのやり取りを思い出しため息をつく石神井。


「癇癪で済めばよかったんだけど、卯月さんは子供の頃から魔力が高くて暴走する事もしばしばあったの。先程黒夜君を子供に刃物と例えましたが、卯月さんの場合は子供に爆弾持たせたようなものでしょうか。刃物は取り上げれば済みますが、爆弾は取り上げた後、処理しないといずれ爆発します。大人でも手にあまる厄介な魔法が使われていたの。だからか大抵の大人が腫物を触るように卯月さんを扱いました。ご両親も含めて、ね」


「ワガママな子供を叱る大人がいないとどんどん増長していきそうなものですが、その叱る役を先生のお姉さんが?」


「そう、ね。そうなるのかしらね」


 当時の事を思い出し、目を伏せる石神井。その様子を見てなんとなく明も言葉を続ける事が出来なかった。


「ちょ、ちょっと待って……オレの体に杭が刺さってるその横で平然と話が続いているけど……このままだとオレ死んじゃうんじゃ……」


 そんな空気に水を差す男伊丹。


「大丈夫ですよ。その杭何本刺しても絶対に死にませんから」


「死ぬような魔法を先生が使うわけないでしょう。ちょっと瀕死にしただけよ」


「ちょっと瀕死ってどういうこと……!?」


「特別姉に懐いていた卯月さんなんだけど、それでも姉の言う事を素直に聞く子じゃなくて、気に入らない事があるとよく魔法を使っていたわ。姉もその事でよく悩んでいたみたい。そして何年か悩んだ末、姉が解決するべく取った方法が卯月さんの魔法を封じる事だったの」


「今まで魔法を使ってワガママを通してきたのに、急に魔法が使えなくなって周りの人達の態度も変わったんですね」


「えぇ、それからの卯月さんは普通の子供として大人は接するようになりました。ご両親とも上手くいっていると思います。ワガママや横暴な振舞いも影を潜めました。多少荒療治だったとは思いますが、姉の目論見は上手くいきました。ですが……」


「卯月さんからしてみれば、信頼していた人に裏切られた、と感じたのかもしれませんね」


「そうですね。姉が家出したのも同じ時期でしたし、卯月さんの為とは言え、魔法を封じたらどうなるか解っていたでしょうし、後ろめたい思いもあったのかもしれませんね」


「ちょっと待ってくれ、先生が嫌われてる理由が出てきてないんだが……」


「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、で姉の縁者である私の事も嫌いなんだと思います」


「そんな理由で? いまいち納得出来ないところではあるけど……」


「落ち着いたら直接卯月さんに聞いてみたらどうですか?」


 納得出来ない伊丹に明が提案する。


「うーん、直接聞くのもなんだか聞き辛いものではある……しかし先生の姉もちょっと無責任なんじゃないか? 魔法を封じてそのまま家出なんて。側にいて話をしてやればそこまで嫌われる事もなかったんじゃ」


「私もそう思いますよ。姉さえいてもらえば、と」


 いなくなった石神井の姉に言いたい事があってもそれを石神井に聞かせてもどうしようもないと、心では解っている伊丹だがそれでも口に出さずにはいられなかった。

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