25 気付かれた見張り
「伊丹くん、はい、コレ」
雪音が伊丹に包みを渡す。
「プレゼント? オレ誕生日には遠いんだけどな。でも気持ちは嬉しい。ありがたく……」
「何勘違いしているの。ただのセキュリティシールだから」
「セキュリティシール?」
「黒夜くんの見張りと言っても24時間体制で見張れるわけじゃないからね。黒夜くんが夜外出したり、誰かが訪ねてくるとも限らない。そこで伊丹くんにはこのシールを黒夜くんが寝静まったあたりに張ってもらって、朝一で確認、そのまま一緒に登校という流れになるかな」
「なるかな、じゃねーよ!? 寝静まったあたりにこのシール張って朝一で確認とか、それストーカーとか言われたりしない!?」
「その後一緒に登校すれば大丈夫」
「ストーカーと言われるのも今更じゃないですか? 生来からのストーカーですよね?」
「そんなん言われた事ないよ!?」
「とにかくよろしく頼むよ」
「くっ、そう言われたら断ることなんてできない……!」
そんなやり取りがあってから三日程経った頃、取り立てて何も起こる事などなく、雪音と星姉妹による見張りが続いていた。現在位置は校舎内だが人気のない所で、特定の人物に熱視線を送っていても気付かれる心配もない。
休み時間教室でぼんやりしている黒夜を星姉妹の姉、明が見張っていた。
「どう調子は?」
交代の時間になったので雪音が明の場所を訪ねる。
「交代の時間ですか。そうですね。接触している魔法使いは石神井先生くらいですね」
「伊丹くんの方は?」
見張りのローテーションには組まれていないが伊丹もたまにこの場所を訪れていた。今も見張り場所にいて明の気を散らしていた。
「朝一で迎えに行くようになってから若干昇が引いているような気がするんだが」
「そんな感想を聞いているんじゃなくて、シールの事を聞いているんだけど」
「この三日間剥がされた形跡はなかったな」
「となると今のところ怪しい最有力候補は石神井先生か」
「先生を疑うのか?」
「伊丹くんは脳みその代わりに白子でも詰まってるの? 状況証拠で一番怪しいのを洗い出してるだけじゃない? 疑う事すらしないなんて怠慢なんじゃないの」
「また状況証拠……! オレはいつまで状況証拠に躍らせられればいいんだ……!」
「というか伊丹くんが教室にいないと黒夜くんぼっちなんだけど。普段の状況にしておく為にもあまりここには来ないでくれる?」
「なんと冷たい言葉。オレは見張りの最中ヒマだと思ったからこうしてヒマを潰しにあげてきてるのに!」
「頼んでいませんが」
明から吐き出される更に冷たい言葉。
「うっ……そこまで冷たくされるとオレ泣いちゃうよ?」
「上から目線でものを言うのが悪いんですよ」
「ほら早く行かないと昼休み終わっちゃうよ」
「へーへ。んじゃ昇のところにでも行ってこようかな」
「では私はこれで」
そう言って二人は各々の場所に向かった。そしてこの場には雪音だけが残る。雪音は見張りする前に買ってきた豆乳のパックにストローを突き刺し、口へと運ぶ。
(確かに見張りだけで決定的証拠をつかむのは難しいだろう。だけどこういうのは地道に当たりをつけてからやっていかないと解決の糸口も見出せない。実は干渉してきている者なんて存在せず、黒夜くんが中二病で、別の自分を演じているという可能性だってあるのだから)
そんな考えを雪音が巡らせながら黒夜のいる教室に目を向ける。そこには伊丹が手を振って黒夜が何処に行ったのか聞いているようなジェスチャーをしていた。
(……! いない!? 少し視線を切った間にどこへ!? トイレだろうか? 待つ……? それとも探しに? なんのための見張りだ! バカなのか私は!?)
「卯 月 さん」
「うわっ!?」
雪音が自分を追い詰めていると、人気のないこの場所で声をかけられるとは思っていなかったのか悲鳴をあげて驚いた。雪音が振り向けばそこには遠くから見ているべき者が立っていた。
「こんな人気のない所で何しているのかなぁ?」
「黒夜くん……なに、かな」
「質問をしているのはこっちなんだけど?」
黒夜が普段とは明らかに違う雰囲気をまとっているのが雪音には理解できた。
(だけど何故今この場所このタイミングで? さっきまで一人で教室にいたはずなのに、干渉している者がいるとするなら何が目的なのか……?)
「私は、たまたま、ここにいるだけだよ。人気のないところが落ち着くしね」
「へぇ、そうなんだ。ボクもたまたま視線を感じてね。視線の主を探していたらここに辿り着いたってわけだ」
(監視されてる事に気付いて……!?)
「黒夜くんには隠れたファンがいるのかな?」
「卯月さんがその隠れたファンなんだろ?」
(どうする……? 監視している事をバラしてもいいものか……? 気付かれているなら隠した所で意味はないけど、鎌をかけているかもしれない……! いや、監視に気付いていなければ真っ直ぐにここには来ない……!)
「……そうだね。私がファンだね」
「ファンなら大切にしないとだな……」
黒夜が雪音の退路を断ち、プレッシャーをかけながらゆっくりと近づいていった。




