22 理不尽ではない暴力
「なぁなぁ昇」
「なに?」
「オマエ、スケイルちゃん以外の召喚獣と契約してんの?」
「してないけど……なんで?」
「いや、じゃなんでゾンビとかスケルトン召喚出来るのかなって思って」
「ん……? いや、召喚出来ないよ……?」
「召喚してたじゃん、前の模擬戦の時も。覚えてないのか?」
「覚えている……けど、あの時はなんだか自分でも良く解らない間に召喚されてて、ボクが召喚したんだけど何だかボクじゃないような……」
「ちょっと伊丹くん」
そんな二人の会話を中断させるように雪音が伊丹を引っ張っていく。やがて黒夜には会話を聞かれないくらいの距離で内緒話を始める。
「なんだよ」
「何いきなり話しかけてきてるわけ?」
「そっちから話しかけてきたのにそれは酷くない!?」
「そうじゃなくて、私にじゃなくて黒夜くんに。どこまで喋るつもり? 何者かに狙われてるかもしれない、なんてことまで言うつもり?」
「ダメなのか……?」
「当たり前でしょ。まだ狙われていると決まったわけでもないのに悪戯に不安を煽ってどうするの? それがキッカケでまた黒夜くんがおかしくなっちゃったらどうするの?」
「それはそれで一理あるが、可能性を視野に入れて傾向と対策を考えておくのも手じゃないか? 昇から直接心当たりがあるかどうか聞く事も出来るし」
「怪しいヤツは私達が探す。最近接触した人物は、狙われているとは言わずにさりげなく聞き出す。いいね?」
いいね? と疑問形ではあるが有無を言わせぬ物言いに、伊丹は発言を許されていない事を知る。
「オレに選択権なんてなかった……!」
狙われているかもしれない、と知らされるよりもこのように二人で内緒話をしている方が余程黒夜の心をかき乱し、もやもやさせる事になっているのだが、二人はそれに気付かない。
「狙われているとしたら最近接触した人を調べれば、アタリがつくはず。心に干渉する魔法なんて至近距離で何かしら会話を交わすか、身体に直接触れるような魔法道具のどちらか。魔法道具については聞くけど、接触した人物については考えがあるから、迂闊な事は言わないでね」
「解ったよ」
内緒話を終え、二人は黒夜の元へとやってくる。
何の話してたの? そう問いたい衝動を黒夜はかろうじて抑える。わざわざ向こうに行っての内緒話なのだ。当然黒夜には聞かれたくないからそうしたのであって、何の話をしていたのか問うても困らせてしまうだけだと頭では理解していた。
「昇、オマエ最近怪しいヤツと話したことなっ!?」
伊丹は最後まで言葉を口に出来ずその場にすとんと腰から落ちた。雪音が伊丹の膝裏を蹴ったのだ。
「卯月さん!? 何故伊丹をそんな目に!?」
「伊丹くんの膝裏が蹴ってって私に囁きかけてきてたから。黒夜くん、魔法道具って何か持っている?」
「魔法道具? 星さんから貰った護符くらいかな」
「そっか。召喚獣だけじゃなく、魔法道具も色々面白いものあるから、今度見に行かない?」
「行く! 行くよ!」
雪音に誘われ、さっきまで黒夜の胸にあった暗雲は簡単に晴れ、気分は高揚していた。
「黒夜くんはその護符以外に魔法道具は見た事ある?」
「見た事あるのかもしれないけど、どんなものが魔法道具なのか解らないから……」
「なるほどね。魔法で動いていたり、魔力を感じる物がそうなんだけど、見分けるの難しいかな? 見分け方とかも今度教えるね」
「ありがとう……!」
「怪しいヤツ聞き出してないけどいいのか?」
黒夜との会話を適当に切り上げ、雪音が人気のない屋上へ通じる階段の踊り場で考え事をしていると、どこからか伊丹がやってきた。
「はぁ。本気で言ってるの?」
雪音は深いため息をついて伊丹を面倒くさそうに見る。
「最近怪しいヤツと話さなかったか、なんて聞いたら『なんで? 何かあったの?』って思うでしょ。それ聞かれたらどう答えるの?」
「オマエを狙ってるヤツがいるかもしれないんだ! って言う」
「それ知らせない事になってるよね? なんなの? 伊丹くんは邪魔がしたい……そうか、そういう事だったんだ……」
一人納得をする雪音。
「なんだ? なにか解ったのか?」
「怪しいヤツ解ったよ」
「なに!? 本当か!?」
伊丹の言葉と同時に雪音は動く。伊丹の手を取り引っ張ると同時に足をかけ、引き倒す。そのまま伊丹の手を背に回し体重をかけて制圧した。
「ぐえええ! な、なんだ!?」
潰れた蛙のような呻き声を漏らす伊丹。
「怪しいヤツは伊丹くんだよ。今も黒夜くんを不安にさせるような事を言おうとするし、私の邪魔しかしてない。思えば一番黒夜くんの近くにいて、ほんの少しずつ魔法をかけてたんだ。精神に関係する魔法が多い『絶対零度の瑠璃』を得意とするのにも符合する。動機もある。黒夜くんをおかしな状態にさせる事によって孤立させ、影から自分だけは味方だ、みたいな顔をして更に伊丹くんに依存させるように仕組もうとした。違う?」
「ち、違う……」
「これだけ状況証拠が揃ってるのにまだ何か言い逃れするの?」
「昇をオレに依存させてどうするんだよ!? 何が目的なの!? それ!? それに精神に関係する魔法って『深淵の災禍』もそうじゃん! なんで『絶対零度の瑠璃』って決めつけてるの!?」
「そんな事は知らないよ。私は怪しいヤツを捕まえただけだから。本当の事を話したくなるように指を一本一本折っていこうか?」
「ひいいい! ホントにオレじゃないよ! ちょっとふざけたのは謝る! だから誤解を解いて!」
「なんだか聞き覚えのある声が上で騒いでいると思ったら、こんなところで何してるんです?」
人気のない階段だから余計に騒がしくすると下まで響く。そんな音を聞きつけて現れたのは星姉妹の姉、明だった。




