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20 不穏な気配


 授業が終わってすぐの休み時間、人気のない屋上に通じる階段の踊り場に、星姉妹が伊丹と雪音を呼び出していた。


「さっきの授業で何やら黒夜さんがおかしな様子に見えたのですが、普段からあんなにキレやすい人なんです?」


「普段の様子……私は学校で見かける黒夜くんの様子くらいしか知らないけど、キレやすいという印象はなかったかな。その機会がなかっただけかもしれないけど」


「オレもアイツが怒ったところなんてこの前の件と今回くらいでしか見てないな。それより、昨日オレがいなくなった後、また召喚獣との契約に行ったのか? なんか骸骨とか召喚してたし、あの鎌も。魔法道具も買いに行ったん?」


「伊丹さんがいなくなった後は解散したので解りませんが、何の役に立つのかあまりよく解らないコストが大きいだけの鱗の召喚獣を気に入っておられたようなので、あの後また別のと契約しに行ったとは考えにくいです」


「だよなぁ……なんでアイツ契約してないものを召喚出来るんだ?」


「そんな事わたし達に聞かれても。本人に聞けばいいんじゃないですか?」


「ですよね」


「と、普段なら言いたいところですが、わたし達もそこが気になっているのでお二方を呼んだのですよ。キレた後の魔法の使用が素人のそれではありません。先程の対戦もわたし達の予想では何も出来ない間に黒夜さんが負けるか、召喚出来たとしても、それ以外の打つ手がなく、そのまま押し切られて負けると思っていました。事実召喚された鱗は瞬殺されてましたしね。その後、どういうわけかキレて豹変した黒夜さんが使えるはずもない魔法を使って勝ったわけですが」


「あれは召喚獣が倒されてもまた呼べば元通りになることを教えてなかったから、本当に殺されたと思っちゃったんだろ。教えなくても、模擬戦でそういう光景見てるから解ると思ったんだが、ちゃんと教えておけばよかったな」


「そこですよ。そんな事も知らないのに、何故黒夜さんは契約してない召喚獣を使えると思います? もう一つ付け加えると、この前も今回も召喚した物、アンデッドですよ」


「つまり……どういうことなんだ……?」


「伊丹さんは別に呼ばなくても良かった気がしてきました」


 星姉妹がため息をつく。


「悪霊に憑りつかれている?」


 自信がなさそうに意見を言う雪音。


「わたし達もそれを考えましたが、黒夜さんには護符を渡してありますし、悪霊に憑りつかれていたとしたならわたし達が感知出来ます。悪霊は憑りついていません。卯月さんもこの前気にしていたと思ったのですが、この間の出来事、黒夜さん『覚えてない』とか言ってませんでしたか?」


「言ってたね。私もそこは気になっていた」


「つまり……どういうことなんだ……!?」


「伊丹さんはもう教室に戻られても結構ですよ」


 お帰りはあちらです、とばかりに手を階段の下へと向ける星姉妹。


「三人寄れば文殊の知恵って言うじゃん! オレにも聞かせた方がいいって!」


「もう三人いますので」


 雪音と自分達二人を指し示す星姉妹。


「一本の矢では容易く折れてしま」


「三人いますので」


「……」


「伊丹くん、余計な事言わないでいない振りしてなよ」


「雪音……!」


 助け船を出してくれた雪音に伊丹は感謝するが、その言葉の内容が優しくない事までは気付かない。


「余計な一言で話が逸れてしまいましたが、今回の件は黒夜さん自身覚えていると思いますか?」


「それこそ直接聞いた方が早いんだろうけど、先生に呼び出しもらってたからね。でもおそらくだけど今回のは覚えていると思う。すぐに元の黒夜くんに戻ったようだったし」


「やはり、あれは黒夜さんではない別の何かだと卯月さんも考えて?」


「そうでもなければ契約もしてない召喚をすることなんて出来るはずがない。黒夜くんが魔法使いになったのはつい最近なんだし、私達が知らないところで契約した、というのも考えにくい。スケイルちゃんだっけ? あの子の事をすごい大事にしてたみたいだしあれが最初だという反応にも見えた」


「なんかおかしな事になってるって言うなら石神井先生に知らせた方がいいんじゃないか?」


「知らせてどうなるものでもないと思います。わたし達が疑っているものの一つとして二重人格、解離性同一性障害というものがありますが、仮にそれだったとして石神井先生が治療出来ると思いますか? この前とは違って自身に呪詛をかけているといった魔法的要素が見つからないんですよ。だから伊丹さんはそれ以上喋らないでくださいね」


「うぐ……じゃこれ何の話し合いなん?」


「でも二重人格だと考えてもやっぱり契約してない召喚獣を使えるのはおかしいよ。悪霊に憑りつかれてないとしても、誰かが黒夜くんに干渉しているような気がする」


「そうですね。誰かが干渉している、魔法的要素があるのかないのか解らない、魔法だとしたらわたし達が感知できないレベルの高度な魔法って事になりますね。誰が何の目的で黒夜さんに干渉しているのか解りませんが」


「それって……」


 雪音と星姉妹が伊丹をスルーしながら話し合いをしていると誰かが階段を上ってくる音がした。


「ああー! こんなところにいた! もう探したんだから!」


「シヴさん」


「もう次の授業始まるのに、何してるの? いくわよ!」


「あ……」


 星姉妹は渋山に引きずられていってしまった。


「つまり……どういうことなんだ……?」


「黒夜くんの動向に気をつけてって話。それとちょっかいかけてる何者かがいるかも」


 どこか楽しそうに仄暗く微笑む雪音に、どういうリアクションをとればいいか解らず、伊丹は愛想笑いを浮かべるだけだった。

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