17 目が合った子供と勝負
公園で召喚獣を呼んでみるため、皆でぞろぞろと移動する。近くにあった公園に着いたけど、小学生くらいの小さい子が遊具で遊んだり、はしゃいで走り回っていた。渋山さんも何を思ったのかブランコに向かって駆けだして行ってしまった。それの後を追う星さん姉妹。純粋に公園で遊びたかったのかな?
「契約した時点でどうやって呼び出せばいいかは自然と理解出来ているだろ? 呼んでみようぜ」
確かに召喚する方法は、頭で理解ではなく心で感じているという状態だった。
「周りに小さい子とかいるけど大丈夫? 騒ぎにならない?」
「見えるヤツにとっては日常だし、見えないヤツには見えないから大丈夫だ」
そういうものなのかと納得して早速呼び出してみる。魔力を貯めるという行為に若干時間がかかったけど、呼び出せるくらい魔力を蓄え、呼び出してみる。
公園に龍が降臨した。
描かれていた絵と同じ、いや実際はもっと神々しく、流麗な鱗のラインは見るもの全てを魅了するだろう。大きさも人とは比べ物にならないくらい大きい。いきなりこんなのが公園に現れたら子供達はさぞ驚くのではないかと思い、周りを見回してみるが、子供達は自分達の遊びに夢中でこっちを見たのは一人か二人くらいだった。
龍はボクを一口で丸のみに出来そうな頭を近付けてくるとフンフン匂いを嗅いだ後、頭をボクの体にこすりつけてきた。懐いてくれるのは嬉しいけど、この大きさでそれをやられると足を踏ん張っても耐えられず、ボクは地面に転がってしまった。すると龍は尻尾でボクをつかみ上げると背中に乗せてくれた。
「なんか最初からスゲー懐かれてんな」
「おー兄ちゃんたち、こんなとこでなにしてんの? 対戦すんの? おれともしようぜ!」
そんなボク達の様子を見ていた子供が二人程駆け寄ってきて、子供特有の馴れ馴れしさで声をかけてきた。こっちが返事をしてないというのに子供の一人はドラゴンを呼び出した。手と足がある西洋風ドラゴンだ。大きさはボクの龍より二回りくらい小さい。
子供が呼ぶ召喚獣と言ったら虫と相場は決まってそうなものなのに。子供なのにドラゴン呼べるの? ドラゴンって別に珍しくないの?
「どうしよう伊丹……?」
「対戦してやれば? 向こうはもう呼び出して対戦する気満々みたいだし。ただ、授業と違ってこれ召喚獣同士だけの戦いで、召喚者は魔法で援護とか攻撃しちゃダメだからな。子供に魔法で攻撃するなよ。それでも練習には丁度いいだろ」
子供に魔法で攻撃とか鬼畜すぎる所業思いもしなかったよ。
「対戦って何すればいいの? 召喚獣に指示だけ出してればいいの?」
「概ねそんな感じだな」
そういうわけで子供と対戦する事になった。初めての事で勝手が解らず適切な指示を出せたとも思えなかったけど、ボクの召喚獣の地力が強かったのか、なんとか勝った。子供は泣きそうだった。あれ、勝っちゃダメな流れだったのかな……
「子供相手に何やってるのよ。泣きそうになってるじゃない。かわいそうに」
ブランコから飛び降りてくると、渋山さんがそんな事を言い出した。
「泣いてねぇし!」
子供は目をこすりながら言い返してくる。
「見たところそっちの子も魔法使いっぽいし、2体1でやってみたら? 力を合わせれば子供だって大人に勝てるわ!」
子供達を煽る渋山さん。馴れ馴れしい子供の影に隠れた大人しそうな子が頷くと、何かを召喚する。馴れ馴れしそうな子のドラゴンとは違って、鎖に手足を縛られた包帯だらけの人型っぽい何かだった。子供がこんなの召喚するとか、何か心に闇を感じるんだけど……
「よっし、今度は負けないぜ!」
かくして始まってしまった2回戦目。元々1対1の時でも接戦だったのだ。2対1で勝てるわけもなく。というか包帯のヤツが自分もろともボクの龍をその鎖でがんじがらめにするので身動き取れないまま何も出来ずに負けてしまった。
「っしゃ! 見たか!」
すごい嬉しそうな馴れ馴れしい方の子供。
「まぁこんな感じでな。一体だけだとどうしてもな。戦いに幅を持たせるには複数いた方がいいんだ」
運命的な出会いを果たした龍とは言え、それだけじゃその力を十全に発揮できない事を子供との対戦でボクに教えてくれたのか。
「ちなみにオレならその2対1でも余裕で勝てるぜ」
大人げない事を言う伊丹。
「へぇ、じゃ対戦する? 絶対おれたちの方が強いって!」
ボクに勝って自信が着いたのか、やる気を出している馴れ馴れしい方の子。大人しそうな子はおろおろしている。
「負けても泣くなよ?」
そう言うと伊丹はカニと不定形な霧のようなものを召喚した。
「2対1じゃなくて2対2になってるけど……」
「召喚した本人は一人だろ!?」
まぁそうなんだけど……どこか納得いかない。
「そんなカニとわけわかんないのなんかに負けないね!」
子供はやる気が先行してドラゴンをカニにけしかける。
「おっと、ドラゴンの相手は霧に任せる。その間に包帯へカニマシンガンだ!」
霧がドラゴンに絡みつき、カニのハサミからマシンガンの様に弾が放出され、おびただしい数の弾をぶち当てられ包帯は倒れた。
「っく! なんだこれ!?」
ドラゴンは爪で霧を裂こうとするも、その爪は霧を素通りするばかり。
「その霧に物理攻撃は効かない。そしてカニマシンガンがドラゴンを貫くぜ!」
言葉の通り、霧ごとカニがマシンガンを噴く。倒れるまで撃つのをやめないカニの弾によってドラゴンは倒されしまうが、物理攻撃の効かない霧はその場でふよふよと漂っていた。
「完全勝利!」
「う……!」
馴れ馴れしい方の子供は泣きそうだった。
「せっかく子供泣き止ませたのになんで泣かすの? バカなの?」
「人間としての心を持ち合わせていないんですよね。わかります」
渋山さんと星さんが伊丹を責める。ボクもその意見に賛成だった。
「い、いや、戦いってものを真面目に教えてやろうとだな……」
「こんな子供相手に戦いを教えてどうするの。そのうち習う事になるのに。この年代は楽しい召喚獣同士の戦いでいいのに」
「きっと伊丹さんは子供の頃から搦め手を使うイヤな子供だったんでしょうね」
搦め手を使うとイヤな子供になるのならそこの大人しそうな子もあてはまってしまうけど……
「坊主! オマエ、強かったぜ!」
「うわああああああああ!!!!」
子供は泣きながら走リ去った。大人しそうな子もその後に続く。
「これっぽっちもいいところなかったのに、そんな事言ってもウソだって子供でも解るでしょ」
「女の子の方は知っているのでフォローしておきますけど、男の子の方の親が伊丹さんの家に『いい年してうちの子いじめた者がいるんだが?』みたいに乗り込まれても知りませんよ」
「うおおおおやべぇ! 今の内に謝ってくる!」
伊丹は子供を追いかけていってしまった。伊丹もいなくなってしまったし、召喚の練習もとりあえず出来たので、その日はそれでお開きとなった。




