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13 説得出来ませんでした


「昇ぅ、ちょーっと付き合ってくれない?」


 昼休み。伊丹の言うもうすぐとボクの認識するもうすぐにそこまでの違いはなかった。違いはなかったとはいえ、それは歓迎すべきことではない。ボクにはこれといった対策は考え付いていないのだから。


「どこへ? なにしに? なんで?」


「来れば解る」


 詳細を正直に答えてもらえるとは思っていないけど、伊丹の言った言葉も確かに答えではある。


「そんな難しい顔するなよ。取って食ったりはしねーよ」


 渋るボクの様子を見て伊丹がいつも通りの顔で笑う。


 本当だろうか……もし本当であるならとりあえず命の保障だけはされている、ということなのか? 何か目的があるのは事実なのだろうけど、それはボクを殺すことではない? それとも言葉通りにただ食べない、というだけの事だろうか。殺した後でその肉を食べたりしない、と……


 そもそもボクを連れ出す目的はなんだ? 殺すなら今まさにここでやればいいだろう。どうせ殺す手段は魔法だ。そんなものこの世界では何の証拠にもならないハズ……死因は魔法による~~という検死がされたなんて聞いたこともない。


 ならば何故……それとも何か証拠が残るのか……? そういえば昨日の女子生徒も死体を残さないように後始末するのは面倒と言っていた。理由は解らないが、こいつ等は人目に付くのを嫌がっている……? だからボクをどこかに連れ出そうとしているのだろうか。だったらそれを逆手にとって、この人がたくさんいる中、今まさにコイツに机でもぶつけてメッタ打ちに……


「オマエ今オカシイ事考えてるだろ」


 ずばり言い当てられてボクのそれまでの思考が急停止する! そういえば心を読むという事を失念していた……! 何を思っているのは筒抜け……! これじゃ対策を思い付いていたとしても無駄……!


「知ってるだろ? オレは心が読めるって。信じてくれといっても無駄かもしれないが、とりあえずオマエの思っているような事はない」


 思っている事……? 色々考えられるものはあるが、具体的にどれを指しているんだ……?


「何も」


 伊丹が付け加えてくる。その表情は何時にもまして真剣で、真摯だ。何かを企み、ボクを陥れようとしているようには見えない。


 ……本当、だろうか……ボクだって本当は信じたい。


「……教室ではその用事は済ませられない?」


「ここじゃない場所で雪音が待ってる」


「卯月さんが……?」


 卯月さんが絡んでいるとなると、魔法使いに関する何か、ということでほぼ間違いないだろう。

 

 それは一体……何……?


 考えていても答えは出ない。


「断ったとしたら……?」


「ずっと待ってると思うぜ」


 強制ではなく、あくまでもボクの意思を尊重する、ということだろうか……卯月さんなら本当にいつまでも待ってそうだ、とも思った。


「解った。ついていくよ」




 ボクは伊丹の後を追う。特別棟の方、どうやら魔法の授業に使う教室に向かっているようだった。昼休みとは言えこっちに来る人は少ない。人目の少ないところに向かいつつある事実はボクの不安を徐々に大きくしていく。そして予想通りの教室の前に来ると、伊丹が中へと入り、ボクも続く。


 教室の中には卯月さんの他にも三人いた。初めて見る顔が二人、そして昨日の、ボクの命を狙った魔法使い……!


 やはりグルだった! 信じたボクがバカだった!


 信じていいかな、というボクの気持ちは裏切られた。少しでも早くここを逃げ出さなきゃいけないという思いとは裏腹にボクはどうしようもないやるせなさをぶつけずにはいられなかった。


「やっぱり昨日のヤツと繋がっていたのか! なんでだ!? どうしてボクを殺そうとするんだ!? 魔法はやめると言ったじゃないか! 何が気に入らないんだよ!」


「落ち着いて、黒夜くん。違うの」


「何が違うんだよ!? 実際ボクはそいつに殺されかけたんだよ! そこにいる魔女にだ!」


 ボクは昨日の女子生徒を憎しみを込めて魔女と呼び、指刺し睨みつける。


「そんなつもりじゃなかったの。渋山さんはちょっと黒夜くんをからかっただけなの。悪気も無かったし、今は反省している。だよね?」


 渋山と呼ばれた魔女はすまなそうな顔をしてこちらを見ている。


「うん……ホントに殺そうとなんて、思ってな……」


「嘘だっ! さっきもそれで騙されたッ! お前等は人を陥れ、欺き。蔑み、虐げる。だから魔女だなんて呼ばれるんだろう! 魔法を使うヤツは信じられない! もう信じない!!」


「そうは言うけどな、オマエだって魔法使いだろ?」


「伊丹くん!」


「お前達はそういう認識なのか! ボクが魔法を使えないという事を知っているにも関わらず! ボクが魔法使いだって!? お前達と同じ存在だと言うわけか! 同じ存在だからボクがお前達を陥れ、欺き、蔑み、虐げると思っているわけだ! やっと納得したよ! なんでボクの命が狙われているのか! 

いいだろう……! やってやる! お前達の大好きな魔法で抗ってやるよッ!!」


 ボクは流れ込んでくる黒い感情に身を任せると、世界は暗く闇に閉ざされた。

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