住み処の決め方
薪を持ち帰った私とイム君は、ヨグ婆に断って外にある窯を借りた。
この辺りの農家は、収穫した作物を調理する外の窯がある。
作物や荷物を置いておくために、雨避けなんかもついていてちょっとしたキャンプ場の調理場みたいな感じになってる。
イム君が早く山芋の調理をしたそうなのは分かっていたけど、とりあえず、昨日使った大鍋で洗濯の為にお湯を沸かしてもらう。
イム君にあらかじめ運んできてもらっていた皆の布切れを、どんどん鍋に投入していく。
…私の布は板切れだったけど、皆は一応多少の手入れはしていたみたいで、薄汚れた布ていどのレベルではある。
コルちゃん…一体どんな子だったのやら…。
「…な、なぁコル?もう、この芋、焼いていい?」
イム君は、律儀に私のオッケーを待っていてくれたようだ。
勿論いいよと頷くと、イム君は即座に長い芋をポキポキと折って、釜の外側の石肌にそのままくっつける。
前世ならアルミホイルなんかを使うとこだけど、無いものはしょうがないね。
芋を焼いて布を煮沸する間に、イム君はヨグ婆の手伝いのために井戸から水を汲んだり、ヨグ婆が一人で育ててる小さな畑を一緒に耕したり、とっても働き者だった。
私も微力ながらぶちぶちと雑草を抜いたりする。
…それにしても、どう考えてもこのまま、ヨグ婆の側で暮らす方が生活的に楽なんじゃなかろうか?
昨日初めて連れてきてもらったけれど、このヨグ婆とイム君は前からの知り合いみたいだ。
イム君は、ちゃんと色々ヨグ婆に断りを入れつつも、作業をする時はなれた感じで婆の家の道工を使ったり、しまったりする。
「…ちびっ子や、そら、小さい蕪があるぞ、お前にやろうね」
ヨグ婆も、一人で寂しいのか、小さい子どもが好きなのかこんな感じで私やイム君にニコニコと接してくれる。
…ただ、相当高齢のようで、時々時が止まっていたり、もごもごと何か一人でお話をしている事もある。
…私たちのグループ全員を養ったりするのは無理だろう。
それでも、たとえばこの農家の付近で暮らす方がどう考えたって、あの商店街の隙間で暮らすよりは断然マシなはずだった。
…レンはどうして、あそこにいるのだろう?
ヨグ婆に貰った小さな赤い蕪を眺めながら、私はふうっとため息をついた。
「…コル?どうした?疲れたか?」
心配そうなイム君に、私はふるふると首をふり、そろそろだよと釜の方を指差す。
イム君は、そうだなとにっこり笑って、ヨグ婆に断りを入れ釜に向かって走っていった。
私も、ヨグ婆にペコッと頭を下げてからその後に続いた。
釜場に行くと、イム君が煮沸した布を鍋から木の棒ですくっ板の上に広げていた。
更に木の棒で叩いたりする方が綺麗になりそうだけど、イム君一人でさせるのは申し訳ないので、やむ無し。
とりあえず、広げることで水気を抜くので、暫く放置。
「コル、もういいかな?」
イム君がそわそわと私に聞いてくる。
私がどれどれと山芋を細い木の棒でさすと、すっと奥の方まで通った。
うむ。食べ頃だ。
食べたくてしょうがないという顔のイム君に頷くと、熱いのも気にせずに、彼は山芋にかぶりついた。
「あっつ…うま…あっ、うまひー」
どっちやねん(笑)と思いながらも、嬉しそうなイム君の顔に私は満足する。
…うん、やはり私たちの住む場所としてはここが第一候補になるなと私は頭にメモを取る。
それにしても、…レンがここを選ばなかった理由が気になるなぁ。
読んでいただきありがとうございます。