お山に帰ろう
気づかぬうちに、未知の森に連れていかれていた事に、ぶるりと身体が震える。
「…コル、寒いか?」
レンはそういうと、私の肩を抱き寄せて、暖めようとしてくれる。
ええお兄ちゃんだよなぁ…。
うちのバカ兄も昔は凄く優しかったんだよなぁ…。
優しくされたというのに、何故か寂しさを感じてしまった。
…あ、ヤバイ、メンタル…落ちてきたかも。
「とにかく、何処か落ち着ける場所に行こう」
ここじゃぁコルが、寒過ぎるとレンが言う。
皆でなんやかんや話している間に、どんどんお日様は
傾いていく。
もうすぐ夜が来る時間だ。
「まかせてよ!俺、今日いい場所見つけておいたから」
イム君は言いながら、ヨグ婆が貸してくれたらしい、背負子を担いで、本日芋掘りをした里山の方に向かう。
…うーむ。どうしよう、わたしってばスッゴク眠いというかだるくなってきたんだけど…。
あの山まで行けるかなぁ?
動き出す皆を見ながら、私がぐずぐすとしていると。
ウラヌが私の側まで来て、背中を向けてしゃがんでくれた。
「…ほら、コル。おぶってやるから背中で寝ておけ」
「いや、俺が…」
レンが変わろうとするけれど、ウラヌは譲るつもりはないらしく、ホラこいと私に促す。
…まぁこの際どっちゃでも私はええですとよ。
メンタルが落ちてきたなぁと思ってたら、どうやら私の体力の活動限界も来てしまったようだ。
眠気でぽわぽわしながら、ウラヌの背中によじ登った。
「…へへ、軽いなぁコルは…」
ウラヌがなにかをいっている間に、私の瞼はすうっとおりていった。
次に意識が戻ったのは、ぱちぱちと燃える火の前だった。
前と同じように、イサクが私の頭を膝枕していた。
今回足を抱えているのは、レンだった。
「…イムはすげーな。やっぱり、山の方が生き生きしてるな」
イサクが話ながら口をモグモグしてるけど、口から出てるのは木の枝だった。
あれって、やっぱり木の枝だよねぇ…。
なんか、味でもするのかなぁ?
すっかり辺りは暗くなっているけれど、ぱちぱちと燃えるたき火のお陰で温かい。
それに、私の身体は二人に抱えて貰ってるから、地面からの寒さも感じない。
何よりも、あの隙間で暮らしてた時に感じてた悪臭は全然ないし、なんだか安心感がすごくある。
まあ、ここが何処かは余りわかってないけれど、昼間に来た里山の何処かではあると思う。
「父さんが生きてた頃は、何日も泊まってたからな」
割りと知ってるんだと、イム君が話している。
ふぅむ、ということは、イム君はお父さんと山に行くお仕事をしてたってことかなぁ。
だったら、楽勝だねぇ。
山暮らし、やっほうだね。
安心したら、私の眠気はまたしてもぶり返してきた。
…うん、色々考えるのは明日にして、今日はもう眠ってしまおう…。
「…ただ、ここは魔狼の棲み家だからな。あまり、騒ぐと見つかって喰われる…」
…安心できない言葉が聞こえた気がするんだが…ぐぅ…。
読んでいただき、ありがとうございます。