皆で逃げよう
「…まぁ、ぶっちゃけ俺達二人が悪いよな。ルスモ親方の工房に入り浸って、ほとんどあそこには帰らなかったもんな」
ウラヌにぺしぺしと顔を叩かれ、イム君はもう平気だよと言いながら、彼を自分から引き剥がす。
イサクとウラヌの二人は人懐こいというか、人に絡むのが好きみたいだね。
「…親方のとこにいれば、飯は食わせて貰えたし、火の番をしてれば、暖かい工房で寝れたしな」
「…いや、それはこっちも知ってたし、そもそも夜の番でもしなくちゃお前らだって雇ってもらえなかっただろ?」
俺達ばっかりごめんなと言うイサクに、レンが即答する。
ウラヌはふぅとため息をついて私を見る。
「…いや、ぶっちゃけ、俺ら逃げてたよね。…コルがさ、弱ってもう無理なのかなって思っちゃってたし…」
見てるの、辛かったし…と言いながらウラヌは私のそばにやって来ると、また私のほっぺたをぷにぷにとつつき始める…。
…うん、お前らは子どもを構いすぎて嫌われるな、確実に。
「そうそう、だからさ、バチがあたったんだよなぁ…」
イサクもあーあと声をあげた。
「…どうしてクビになった?」
レンが、スパッと本題に切り込んだ。
「いやぁ、ボギー・ビートがさ、ルモス親方のところに乗り込んできたんだよ」
「なんで?」
淡々と尋ねるレンに、はぁあっとウラヌも大きくため息をついた。
「俺達が親方の所に入り浸りすぎたんだ」
「ルモス親方に、俺達の面倒料金を払えって言ってきたんだ」
「面倒…料金?」
レンは意味が分からないというように、その言葉を繰り返した。
「……こじつけだよ。結局の所、ボギー・ビートはどうにかしてレンを自分のとこに入れたいんだ」
「…死んでも嫌だ」
知ってるよとウラヌは苦笑する。
「…ボギー・ビート本人も知ってるよ。…だから、あいつはお前じゃなくて、コルや俺達を標的にするんだ」
お前をひとりぼっちにして手に入れたいんだろうなというウラヌの言葉に、レンはただ黙っていた。
でも、レンの隣に座ってた私だけはは気がついた。
その時、一瞬だけ、レンの身体は震えていた。
…そうだよね。
と私はレンをじっと見る。
顔つきは、凄く整っているし、皆のリーダーだし、体格だって皆の中では一番しっかりしてる。
それでも、彼はまだ子供なんだと思う。
多分、若くて13とかかなぁ…。
とにかく、もとの世界の私にしてみたら、本当に子供って言っても平気な位の年なんだろうと思う。
今の私では、何もしてあげることはできないけど。
…とりあえず、微かに震えるレンの拳に、自分の小さな手を重ねた。
レンは、私の手に気がつくと、ピタッと震えを止めて大丈夫とわらった。
うお、イケメンスマイル!!眩しいっっ!
「…レン、やっぱり、もう商店街に戻るのはやめようよ!俺、レンがあいつのモノにされるなんて、絶対嫌だ!」
イム君が、再び叫ぶようにそう訴えていた。
…ボギー・ビート…とりあえず、敵として自分の中にメモをしておこうっと。
「…それでも、ヨグ婆の所はやっぱりダメだ。また、あいつが、あの息子が、万が一帰ってきたら面倒な事になる」
レンの言葉にイム君はわかってるよと頷く。
「…あー。悪いけど、俺達は別の町には行けないぞ」
一応、親を待ってるからなとウラヌが言い、イサクも頷いた。
…へぇ、この二人は親が居るんだね。
「…俺さ、ちょっと思ったんだけど…里山の中に行けば、俺達…暮らせるんじゃないかな」
イム君の言葉にええっとウラヌとイサクが声をあげた。
「マジでかよ?!」
「おいおい、狩人がいなくなって!どんな獣が下りてるか分かんないって言ってただろ?」
恐すぎるだろうと言われて、イム君はぶんぶんと首を横にふった。
「それはそうだけど、でも、大丈夫だよ!この二日間、コルと二人で里山に入ったけど、全然何の獣の気配もなかった」
…いやいやいや、先に言っておいて!!
読んでいただきありがとうございました!