6話:出逢いと呪い
新ヒロインの登場、今までで一番の長さかなまだ8話だけど。
※メッセージがあり修正しました。
誤字脱字の発見や文章のアドバイスなど、自分では気付きにくい事を指摘してくださりとても助かりました。
これからも精進致します。
感想などあったら作者的にはどんな内容でも嬉しいです。
誤字脱字などでも構わないので感想などあったらどうぞどしどし送ってください。
精霊契約を終えた、リュートとライムはリュートの寝室に戻っていた。
『じゃあライム俺は家事の手伝いにいくから、もしワルドの配下の者が来ても見つからないようにちゃんと隠れておけよ』
腕の怪我も何回もの回復魔法により、傷が目立たなくなったリュートはこれから、家事を手伝いに行くところだった。
『大丈夫ですよベッドの裏に張り付いときますから』
『そうかなら安心だな』
『ハイ、ではいってらっしゃいリュートさん』
『ああ、いってくる……でも、やっぱ使えるなこれ』
万が一この時扉の前で盗み聞きをしている者がいたとしても、念話を使っているリュートの声は外には聞こえない。
誰にも聞こえず会話できるとは便利だな。そう思いながらリュートは部屋をでていく。
部屋を出たリュートが向かうのはキッチンだ。
「おう今日も早いなボウズ」
リュートがキッチンにつくと家事使用人達のボスである男、名前をガイドが声をかける。
リュートはガイドのステータスもをもちろん見た。そのステータスはワルドとそう変わらない低めの数字だった。戦闘タイプではないからだ。
ただガイドは家事スキルというものを持っている。スキルは何も戦うためのものではなく、あくまでその人が持つ技能のことである。家事スキル、このスキルはその名前の通り家事が上手くなるスキルだ。使用人等に持つものが多いスキルでもある。
「何か今日は早く目覚めて」
リュートがそう伝えるとガイドはニヤリと笑う。
「おう、お前あれだろ。あの爆発音で起きたんだろ」
「爆発音とは?」
もちろんそれはリュートが精霊契約をする時に響いた轟音の事だ。
それが分かっていながらリュートは素知らぬ顔でガイドに話しの続きを促す。
「一時間位前にな爆発音が聞こえたんだよ、もしかしたら柵を越えたモンスターの仕業かもしれないからバルトさんたちが確認に向かったんだ」
「そうですか、ならあまり外に出ない方がいいですね」
「だな!」
もちろんリュートの仕業なのだからモンスターはいないし、この事でリュートに疑いが向く事はないだろう。
疑いをあたえるであろうモンスターの死体も何でも消化できるスライムにより、既に跡形もなく隠滅されている。
「じゃあ俺はなにをすればいいですか?」
「とりあえずもうすぐ料理が終わるから食卓に持っていってくれ」
「あっ、分かりました」
リュートは料理ができるのを待つ間、椅子に座り、昨夜得た知識である、この世界の大まかな歴史についてを思い浮かべる。
異世界ガイア―――この世界はそれは、それは、大昔に世界中で争いが起きていた。いろんな種族がお互いに殺しあい、また同種族でさえも殺しあっていた。
そんな時突如魔王と名乗る者を筆頭に魔族という種族が現れた。
魔族は肉体的にも魔力的にも優れていた。そして何よりその当時、誰も見たことのない闇魔法というものを使ってきた。
これにより、他の種族達はあっという間にそのまま領土を侵略されていった。
このままではただ殺されるだけだと、人族、海人族、獣人、ドワーフ、エルフ、竜人族の六種族は結託し魔族を倒す事にする。
しかし、魔王のカリスマ性と他を圧倒する実力によってなかなか魔族を滅ぼせずにいた。
そして、魔族討伐が遅々として進まない中、魔王が動き出す。
そして、魔族の軍勢が最初に狙ったのは人間族だった。魔族に進行されあわや絶滅かというときに天から光と共に神が降りてきた。
その神は龍の姿をしており、人々に魔族の闇魔法と対になる光魔法を与えた。
光魔法を手にした人々は魔族の進行を押さえる事ができた。その事に感謝した人間はその神を崇めて王国の名前を神の名前にする。その名前は神龍王国ユグドラシル。そのあとも争いが絶えることはなかったが神が現れる事はなかった。
リュートが考え事をしていると美味しそうな香ばしい臭いが鼻腔をついてくる。料理が完成したようだ。
運ばなければとリュートは立ち上がる。
「うん? あれはワルド」
料理を食卓に運び終わったリュートが次の指示をガイドに聞きに戻る通路の途中でワルドを見かける。
ワルドは手に食べ物をもち、人目を避けるかのように端っこをこそこそと歩いている。
怪しいと思ったリュートはあとをつけることにした。できる限り気配を消す。バルトには見抜かれるであろうが、ワルドが気づく事はなかった。
食べ物をもったワルドは自分の執務室の方に向かう。なんだただ部屋で食べようと思っただけか。
ならなんであんなこそこそとしてたんだ。リュートがそう思った時だった。部屋に戻ると思ったワルドは執務室を通り過ぎて、なにもない壁の前に止まったのは。
壁に向かい鍵を差し込む。すると小さくカチリという音が鳴る。どうやら小さな鍵穴があったようだ。
スドドド、壁が重低音で開いていく。壁に手を当てたワルドはそのまま壁を押し、中に消える。
リュートは急いで後を追いかける。しかし、中から鍵をかけられたのか壁は開かない。
「チッ」
一度したうちしたリュートは念話でライムに呼ぶ。
『ライム聞こえているかライム!』
『早く帰って来ないかなリュートさん……ってリュートさん! 聞こえてますけど、何かあったんですか』
一瞬慌てたライムだが、リュートの慌てた様子に気を引き締める。
『今から急いで戻るから移動する準備をしといてくれ』
リュートは走りながらライムに説明する。
部屋に着いたリュートはライムを連れて壁の前まで来ていた。
『あそこからはいって中の様子を見て欲しいんだ』
『開けなくていいんですか?』
ライムの声が頭に響く。しかし、その姿は外からは見ることができない。現在ライムはリュートの服の下に潜んでいた。
『できるのか!』
『ハイ、私達スライムはある程度なら硬化できるんです、鍵穴に入り硬化すれば恐らく平気かと』
『何だか助けてもらってばっかだな』
『よし……じゃあ頼めるか、ワルドが出てきたら俺が気を引くからその間に入ってくれ』
『ハイ、分かりましたあのそれで帰りもこの方法で?』
リュートの服の下に隠れて帰るのかということだ。
『まぁそうだな』
見つからないようにするにはそうするしかないとリュートは言う。
すると、リュートの体に巻き付いているライムがくねくねと動く。
『ええ! やっぱり。う~でもでも、急な事で全然くっついた気しないし、恥ずかしいけどもう一回だけくっつきたいし~。う~緊張するよ~~』
お馴染みになりつつあるライムの独り言を、リュートはもう気にしなくなってきている。
それから数分でワルドが出てきた。リュートはさもいまきたように声をかける。
「あれ? ワルドさん食べ物なんて持ってなにやってるんですか」
リュートが後ろから声をかける。するとワルドは明らかに狼狽える。
「りゅっリュート君か、なんだい急に話しかけたりして
驚いてしまったよ。それでなんだったかな、ああ、そうかこの料理の事だったね、執務室に持っていって食べようと思ったけど結局食べれなくてねハハハ」
リュートに疑問は持たせないとワルドは矢継ぎ早に捲し立てる。
「料理なら頼めば僕が持っていきましたのに」
「ハハハこのくらい事くらい平気さたまにはやんないとねそれでリュート君はどうしてここに」
「いえ食卓に食事を置きにいったら、ワルドさんがいなかったので探してたのです」
「ああ、リュート君は知らなかったね、私が食卓にいない時は先に食べ始めていいことになっているんだよ、私も忙しくて起きれない時や手が空かない時もあってね」
リュートがワルドと話している間にライムは服から抜け出し、床を這いずり、壁に到達する。
ライムはそのまま、ズルズルと這いずり上がって鍵穴まで行く。
リュートがワルドと話ながらもライムを見ていると、ズブズブとライムの体が小さな鍵穴に入っていく。
「そうだったんですか、なら僕はもう戻りますね、ワルドさんも食事はちゃんととった方がいいですよ」
「ああ、そうだね、じゃあ今から食べにいくかな、リュート君は家事頑張りたまえよ」
食事を取りに去っていったワルドを見届けてから、リュートはライムに念話をする。
『ライム俺が合図したら開けてくれ』
今直ぐに扉を開ける訳にはいかない。中々に大きい開閉音を先ずはどうにかしなければならない。
リュートは走って台所に入っていく。
「どうしたリュート、随分遅かったじゃ……って危ねぇ!」
リュートは疾走したままわざと転んで近くの皿を割ろうとする。
『今だ!』
リュートの手が幾重にも積まれた皿に触れた瞬間―――――――――館中に破砕音が響きわたる。
伏せたら体勢のリュートにガイドは近づいていく。
「ばか野郎!走って来るばかがどこにいる!いっぽ間違えてたら大怪我してたぞ」
リュートは初めて何十分と説教をされた。
『で、ライム成功か? 成功したよな』
『ハイ、成功しましたけど、どうかしたんですか?』
何処か疲弊した様子のリュートの声にライムは不思議がる。
『いや、あんなに説教が疲れるとは思わなかった』
あのあと怒られていたリュートを見回りから戻ってきたバルトが今回だけはとガイドを宥めて説教は終わった。
念話をしているうちにリュートは壁を模した扉にたどり着く。見た目からは鍵が開いたか分からないが押すと開けられる。
リュートがそのまま中に入るとなかは真っ暗だった。
『あれ、ライムどこだ』
『はい~、わたしならここです』
鍵穴からムニューとライムが出てくる。
『それ、近くで見るとちょっとキモいな』
『なっ!? キモい……むにゅう。酷いですリュートさん! 私リュートさんのために頑張ったのに……』
ライムが泣きそうな声音でいう、見た目からは全く分からないがリュートにはそう感じていた。
『悪かったよ、それに感謝はしてるんだありがとうライム』
『まぁ、分かればいいんですけど……うふ』
『そういえば、暗いけどライムは見えるか』
『私達スライムは、実際に目で見るとかじゃありませんから、自分から見ないようにしない限り平気ですよ』
『スライムには不意うちは通じないってことだな』
ここまで見た感じ、スライムはステータスさえ高ければ最強なんじゃないかと思えてくる。
『でもリュートさんも普通に歩いてますよね?』
『あぁ、さすがに昼間みたいにとはいかないが普通に見えてるよ』
リュートの新しい肉体は特殊だ。意識さえすれば暗闇でも薄暗く見えるくらいで歩くのに不自由はない。
さすが神が与えた肉体なだけはある。
『じゃあ降りるとするか』
壁の内側は地下に降りる構造になっていて、降りるための階段が螺旋状になっており地下に続いている。
『それにしても、そのワルドという者はなにを隠しているんでしょうね』
『食べ物を持っていっていたし生き物だと思うんだけどな。でもどういう事なんだろうな』
『何がですか?』
リュートは何か気になる事があるらしいがライムにはそれがわからなかった。
『いや、あいつは奴隷商人だから地下に牢屋なんてあっても別に驚かない。けど、何であいつが食事を持っていったのか不思議でな』
リュートはワルドが直接食料を届けた事に不自然さを覚えていた。
リュートが呼んだ書物によると、この世界には奴隷制度があるがモンスターは奴隷にできないと書いてあった。
ライムのような知性を持つ者は別にモンスターには死の恐怖というものがない。そのためいくら調教を施しても言うことを聞かない。それだけではなく、理由は分かっていないが、モンスターに調教しようとすると、モンスターは心臓である魔核を自ら破壊してしまう。
では知性を持つモンスターならと思うが、その答えはできるだ。
しかし、知性を持つモンスターは、魔獣と呼ばれる別の生き物して扱われるために、正確に言うとモンスターは不可能と言われている。
もちろんライムはそんな事を知らないが、ライムもカテゴリーでは魔獣ということになる。
モンスターを仲間にするには主従契約みたいな特殊なスキルを持つものにしかできない。
リュートの神眼で見ても、ワルドに調教を施すようなスキルはなかった。ワルドが持つ奴隷契約スキルは、奴隷商人に必須のスキルでその効果は意志疎通ができる人型の生き物と奴隷契約できるという物で、知性がないモンスターを奴隷にはできない。
つまり地下にいるのは人型の生き物で、意思疏通ができる程の知能を持つ生き物ということになる。
ならなんでリュートとは違い地下に置いておくのか、ワルドがリュートのことを過去最高の売り上げになると言っていることから、地下にいる者を特別に隔離する必要がないはずだ。
『ならその地下にいる何かがとても強くて逃げ出さないための確認に行ったとかじゃないですか?』
『いや、多分それはないな、さっき俺が皿を割った時、ワルドは来なくてなバルトが来たんだよ。それでここに来るときワルドにも謝りにいったらキースや他の護衛の男がいたからな』
『何でそれで無いんですか? 普通に警戒してただけじゃ』
『つまりちゃんと警戒するような奴が一人でそんな奴のところに食事なんて持っていかないって事だ』
『……なるほど。それもそうですね。では本当になんなんでしょうね』
『さあな直接見れば分かるだろちょうど階段が終わりだ』
階段を降りた先に扉がある。その扉は分厚く重々しい雰囲気を持つ頑丈そうな扉だった。リュートは重く開きにくい扉を開ける。
その中はリュートが思った通りいくつもの牢屋があった。
だが、殆どの牢屋は使われている様子がない。
『リュートさんあれって』
『ああ、あれは』
リュートは数ある檻の中、唯一使用されている牢屋の中にいる人物に目を止める。
檻にいたのは、絹糸のような金髪を緩やかに流している少女、その容姿は人目を引き付ける可憐さをもっている。
しかし、リュートが真っ先に注目したのは、少女の髪から突き出ている先端に行くに連れて細くなっていく長い耳だった。
『エルフだな』
年は13歳位だろうか、胸はまだ発達し始めたくらいで、まだまだあどけない。しかし、幼いながらも種族がそうさせるのか、どこか品のようなものを出すエルフの少女が牢屋で倒れていた。
「……ん、あなた達誰?」
足音で人の入来を感じ取った少女はそっと目を開ける。
「あなた達ってお前この暗さのなか見えるのか?」
リュートとライムは普通に見えているが、もちろん異世界でも人は暗闇では目が見えない。
「ん、私は普通じゃないから」
少女は深紅の瞳を自嘲気味にうっすらと笑いながら押さえる。
「そうか。見えるのか、んで一応確認するけどお前は何でこんな場所に?」
「……多分、一週間位前に変なおじさんに捕まった」
「ワルドに捕まったのは一週間前、俺が来る4日ほどまえか」
この少女は何故かリュートとは違い牢屋に入れられてた。何か理由があるはすだ。リュートは少女との会話を続けることにする。
「……あなたも捕まった?」
「いや、俺は今ここに住んでるんだ」
「……なら、逃げた方がいいここにいると」
「ああ、奴隷として売られるんだろ」
リュートがあっさりと答えると少女はちょっと戸惑う。
「……ならなんで逃げない?」
「まぁ、逃げても俺はどこに逃げればいいかすら、しらないからな。なぁ、俺もおまえに聞きたいことがあるんだけど」
「……聞きたい事?」
「お前売られたんだろ」
リュートの断言に少女は僅かに目に力を込める。
この少女もまた、感情は変わっても表情が全然変わらないタイプのようだ。ライムよりはまだ分かりやすいが。
「……どうして分かった?」
少女がリュートに問いかける。
「お前、さっき俺に捕まったと聞いたな。普通、牢屋の外にいる俺を見たらワルドの関係者だと思うだろ。おれ自身も住んでいると言ったしなおさらだ。それに奴隷商人なんて普通に家庭を持っている奴がやってる職業なんだし」
先程モンスターの奴隷制度について説明したが、もちろん人間やそれ以外の種族も売られている。
奴隷は借金を返せない者を救済する側面も持つ。
奴隷は質素なものだか、衣食住を確保できるわけだ。
もちろん奴隷商人は買い手から金銭を貰うし、買う方としても、従順な労働者を確保できるのだから、誰も損をしない仕組みにはなっている。
そのため奴隷商人自体は別にそこまで忌避されているわけではない。家族でやっているところもあるくらいだ。だが、もちろんどんな商売にも闇はある。違法だが、そういう目的のための性奴隷や、中には無理矢理拐って売る者も存在する。ワルドは拐った者を性奴隷として売る、闇奴隷商人だ。
「ましてや俺の格好見て労働奴隷じゃないのは明白だ。お前はワルドが俺を性奴隷として売ろうとしてる事を知っていた。つまりお前はあいつの正体を知っているわけだ。にも関わらずお前は俺に助けての一言も言わない、ないんだろ帰る所が」
リュートがそう言うと少女は素直に頷く。
「……そう私は売られた、……私は呪われてるからって、かあさまが亡くなったから、私の味方はいなくなった……逃げても私は生きられない」
「ふ~ん、呪われてるね」
リュートはスキル【神眼】を使う。
少女のステータスは衝撃のものだった。
ニーナ(ハーフエルフ)
Lv:10 HP800 MP500
力200、 耐久700、敏捷500、器用500
スキル:闇魔法、:重力魔法、風魔法、光魔法、MP回復、超回復
(※状態???の呪い、効果???、???、???、ステータスが1/5になる。スキルの制限)
(成る程コレが呪いか、神眼を使っても完全に視きれない)
「お前この呪い誰にかけられたんだ」
リュートが少女に聞くと、少女は不思議そうに答える。
「……呪いをかけられたってどういう意味?」
「どういう事ってこれの事にって……あぁ、そうか」
リュートは鑑定スキルがめずらしい事を思い出す。
「お前自分のステータス見たことないのか」
「……ん、ステータスプレートで一度だけあるレベルの割りにステータスが低かった、スキルも……その時から呪われてるって言われ始めた」
「成る程ね」
レベルの割りに低かったということは、1/5引かれた状態でステータスプレートに写ったということだ。
少女のステータスはレベルの割りには圧倒的に高い。
にもかかわらず、1/5の状態で表示されるということはステータスプレートの精度は神眼よりも低いということだ。
(じゃあ呪いについては知らない可能性がある。でも、その時から呪われた言ったのは……スキル、そうか闇魔法)
「お前もしかして闇魔法が使えるのか」
リュートが聞くと、少女は初めて声を平坦なものから変えた。
「……っどうしてそれを……まさか鑑定!?」
ここまで当てられてはさすがにリュートが何かしらの方法で自分をみたのだと少女は気づいた。
「まぁ、そうだな。俺は鑑定スキルを持っている。でっ、答えろよ。お前が持っているのは闇魔法か」
「……わかってるのに聞くなんて……そう私はエルフなのに闇魔法しかスキルを持っていない」
これで少女は自分が本当に呪いをかけられているのを知らないということが確定した。
「お前自分がハーフエルフだって知らないのか」
「……えっ」
少女は呆然とした声を上げる。リュートの予想通り知らなかったようだ。
「さっき、かあさまはって言ってたな? じゃあ父親はどうだったんだ」
「……とうさまは、わたしが生まれる前に死んだって、かあさまが……それにあまり聞いてほしくなさそうだったから詳しくは」
「なんだ良かったじゃん。もし魔族が父親ならお前が闇魔法を使えるのは遺伝って事だ。だとしたら別になんの不思議もないだろう」
リュートが謎がとけてよかったなと言うと、少女の頬を一筋の涙が伝っていく。
「……最初からわたしの居場所なんてなかった」
いきなり泣き出した少女に、リュートは意味がわからなかった。そんな時先程から静かにしてたライムが念話を送ってくる。
『なにいっているんですかリュートさん!? 魔族は全種族の憎しみの対象ですよ。『…聞いてほしくなさそうだった。』恐らく彼女のお母さんは魔族に犯されたんですよ。そして生まれたのがあのこです。どうやらお母さんは平気だったけど村の人達は違ったのでしょう。だからお母さんが死んだとたんにわざわざ性奴隷として売ったんです』
魔族という種族はリュートの想像よりも遥かに人々から憎まれている。
「いや、でも正直そんなの別によくないか、それに……」
リュートはライムと少女二人に伝えるために念話を使わずに肉声で話す。
「別に俺は魔族なんて知らないし」
リュートが本気でそう言うと少女が動きを止める。
「……それ本気」
「はっ?」
リュートの言葉が少女の何かに触れたのか、声の大きさは変わらないが少女から怒りの雰囲気が伝わってくる。
「 ……別によくなくない ……もしかしたらかあさまも、わたし嫌いだったかもしれない……てきとう言わないで」
その声はやはり起伏が感じられないものの確かに怒りと悲しみの感情が宿っていた。
少女の心の叫びを聞いたリュートはしかし。
「そんなの俺が知るわけないだろ。俺はお前の事なんて何も知らないし、昔に起きた事を引きずる気持ちも分からないし、結局どうしたいんだ? お前ここから出してほしいのか?」
少女が結局何をしたいのかを理解できないでいた。
「……ひくっ、わたしに居場所、ない、逃げても闇魔法、利用されるだけ」
少女は涙も拭わずにそう言う。
「なら、俺が殺してあげようか?」
『リュートさんなにいっているんですか!?』
リュートのあまりの発言にライムが怒鳴る。
『ハハハもちろん冗談だよ』
リュートとしては、少女が望むならそれでもいいと思っている。
『リュートさん! 彼女をだして一緒に逃げましょう。このままじゃ彼女、本当に自殺しちゃいますよ』
『いや、信用できない奴を仲間にしたくないんだが』
ライムの時は死ぬかもしれないのに助けてくれたからまだしも、初対面の少女を仲間にするのは得策ではないとリュートは考えている。
『彼女なら平気ですよ、きっと簡単にリュートさんに依存してくれますから』
『いやライムもひどいと思うぞ』
『いいんですよ、時には何かに依存するのも大切なことです』
ライムがスライムとは思えない発言をする。
「なぁ、もしよければ俺達と一緒に行くか?」
仕方がないと、リュートはエルフの少女を仲間に誘う。
「……何で」
「いや俺は別にどうで……いや、正直人手が増えた方が俺も嬉しいし何よりお前が気になる」
リュートが本音を出そうとすると、ライムが念話を送ってきたため、リュートは無難な理由を付け足した。
しかし、リュートのある意味告白にとれる言葉に少女は頬を赤くする。
ライムが隣で怒りを体の伸び縮みで表しているがリュートは気づかない。
「……ん、何か困るそんな急に……それに私魔族の血が入っているかも知れないし」
「さっきも言ったけど本当に俺はそんな事気にしない」
リュートにとってどの種族も信用できない。
「それに、もしお前が死にたいならその呪いを解いてからでもいいんじゃねぇの」
「……さっきも言ってたけどなんの事」
リュートは少女に神眼で見た呪いの事を伝える。
あくまでスキル鑑定を使ってと言ってはあるが、神眼についてはどんなに信用できる人でも言わないとリュートは決めている。
「……わたしもしかして本当は強い」
「最初に聞くのそこなんだな」
「ん、かあさまはとても強くて、でもわたしは弱かったから、……いつもかあさまに憧れてた」
「なら、とりあえずそれを生きる糧にしたらどうだ。俺達は旅の目標とかないし、鑑定でも視きれない呪いを解く旅ってのも楽しそうだし」
「……本当に一緒に行ってくれるの?」
少女はもしかしたら嘘なんじゃないかと、心配そうな雰囲気でリュートに確認する。
「まぁ、とりあえずはな、で、どうする」
リュートが問うと少女は覚悟を決めて、そして答える。
「……わたし、知りたい。自分は誰に呪いをかけられたのか、もしかしたらとうさまかも知れないし」
そう、リュートも少女もその可能性を真っ先に考えていた。少女の父親が死んだというのは母親がいったことでしかない。
呪いがかけられている以上生存している可能性はある。
「……ん、一ついい?」
「なんだ?」
「……さっきからいるそのスライム何」
暗闇の中でも見ることができる少女がずっとリュートの側から離れないモンスターに指を指す。
「俺の仲間のライムだ。ライム一応あいさつするか?」
『はい、します』
ライムは体をぐにゅっ、とまえにたおし、お辞儀をする。
リュートとしか話せない以上、ジェスチャーで伝えるしかない。
少女も驚きながらも、同じくお辞儀しかえす。体を直立に戻した少女はモジモジと頬を染めながら恥ずかしそうにする。
「……これからよろしく…………あの、名前」
お互い自己紹介を済ませていないため、少女はリュートの名前を知らない。
「ああ、リュートだよろしくニーナ」
少女いや、ニーナはリュートに名前を当てられた事に目を見張る。すぐに鑑定スキル持ちと思い出したのか、ニーナは納得と頷く。
「……ん、よろしく………リュート」
少女はうっすらとだが嬉しそうな笑みを浮かべた。
そんなニーナを見て、リュートは運がいいと感じていた。
リュートの仲間になるのは何かを抱えている者だ。
ライムはその他の仲間とは違う事で一人になり、ニーナは全種族から憎まれている種族の血を引くかも知れない。それを自分は呪われてるからとニーナ自信も思っている節さえある。
そして二人は良くも悪くも純真だ。彼女らは純真だからこそ一人でいることに人一倍怯える。だからすぐに信用してくれるし、リュートも悪意がない彼女らを信用できるし、歩み寄って行ける。
……でも俺はどこかで恐れている。彼女らに近くなりすぎた時裏切られる事を、彼女らと深く繋がりすぎてしまった時を、そしてそんな彼女らを簡単に切り捨ててしまえそうな自分の事を。
俺はだれも信用できない。信用するためにはきっと他の人よりも時間がかかるだろうし、何かその人の本質が見えないと無理なのだろう。
俺を命懸けで助けてくれたライムみたいに。だから俺はこれからニーナの事を試すのだろう……リュートはそう分析しながらも、ニーナとなら本当の仲間になれるかもしれないと感じていた。
そう誰しもがするように、時間をかけて少しずつ絆を深めてリュート達は仲間になるのだろう。
きっとリュート達はそれぞれの思いがあり、仲間になろうとする。
一人は自分は他と違うから一緒に話してくれる仲間がほしいと、一人は自分は呪われているからそんなの気にしない仲間が、そして一人は自分は今度こそ世界を楽しみたいと、
リュート達はそんな、誰しもが持つ当たり前のものを求めている。
何か無理矢理感があるのでいつか修正したい。
誤字脱字や感想などがあったらどんどん送ってください。