短編 探し物とサプライズ
遅くなりましたが明けましておめでとうございます。
相変わらずの亀更新ですが宜しくお願いします。
「お餅が食べたいな」
「どうしたんですか? リュートさん」
ぼそりとリュートが呟くとスライムという種族故か柔軟体操をしていたライムが聞き返す。
「お餅が食べたいと思ってな」
「主殿、お餅とはなんだ」
「ん、それ、おいしい?」
聞き覚えのない単語にフェリスは首を傾げて、大食いのニーナは涎を垂らしている。
「俺の故郷にはお餅という柔らかい食べ物があってな、ここの食べ物は歯ごたえがいいものばかりだからな」
異世界へと転生してから、肉肉肉と歯ごたえの良すぎる食べ物を食していたリュートは食べ物の中でも柔らかい部類のお餅を食したかった。
また、地球にいた時にはおせち等、作って貰えるはずもなく、街で配っていたお餅を食べるのが毎年の恒例だった。
「まぁ、この世界でお米なんて食べたことないからな、仕方ないか」
郷愁に耽けっているリュートは直ぐにお米を目にした事が無いことを思いだして諦める。
しかし、何処か気落ちしたようなリュートを見た三人はそうではなかった。
「主殿はお部屋に?」
「はい、何か訓練するみたいです」
「ん、ちゃんす」
リュートと別れてから一時間、三人は集まり一つの計画について話あっていた。
「では、決行するとしましょう」
「ああ、主殿にプレゼントだ」
それは、リュートが溢したお餅を本人には内緒で用意する、サプライズの計画だ。
「どんな反応するんですかね」
「きっと、喜んでくださるに決まっている」
「ん、えがおになる」
普段喜びを露にしないリュートもサプライズでプレゼントすれば喜んでくれるかもしれない。
三人のやる気は満ち溢れていた。
「ん、そういえば、お餅どんなあじ?」
「えっ、それはあれですよ、ね、フェリスさん」
「そ、そうだ、あれだ、あれなのだ」
意気込んでいた三人だが、早速問題にぶち当たった。
前提である、お餅とは何かという問題だ。
そもそも、モンスターであったライムとフェリスは料理の種類等、食ったことのあるものしか知らないし、奴隷として売られていたニーナもまた然りだ。
「えーと、確かもち米というものを蒸してから木の棒でつく......そんな、感じじゃありませんでしたっけ」
リュートが話していた事をライムは一つ一つ思い出しながら話す。
「もち米とはなんなのだ?」
「......さぁ?」
お餅を知らない三人がもち米を知らないのは当然の事だった。
サプライズプレゼントの作戦会議をはじめてから一分程、詰んだ瞬間だった。
「......おこめ、きいたことある」
「えっ、本当ですかニーナさん!」
「誠ですかニーナ殿!」
一筋の光明に顔を明るくする二人にニーナは頷く。
「......おこめ、しろくてふわふわしたかたまり」
「「それって......」」
ライムとフェリスは同時に声を上げた。
レイドタウンを南方にある大森林。
そこにライム達はやって来ていた。
「ここに、お米があるんですか、フェリスさん」
森林に行くという提案者にライムが問いかける。
「うむ、白くてふわふわした塊、ニーナ殿に聞いた時、ピーンと来たんです。私もお米を食べた事があるということに」
白くてフワフワした食べ物、かつて母と過ごしていた時にフェリスは食べた事があった。
「お二人ともそれが、これです」
フェリスは手にした物を二人の眼前に掲げる。
「これは......兎ですか?」
「うむ、白くてふわふわで、調理すれば柔らかくなる。間違いなくこれの事であろう」
どうだ正解だろとフェリスはニーナに兎を見せつける。
「......ちがう」
「なっ!」
自信満々だったフェリスはニーナの言葉に意気消沈とばかりに項垂れる。
「まったく、兎なわけないじゃないですか、そもそもリュートさん何度も食べてますし」
「はっ、そういえば」
暫く食べていない物という前提を忘れていたフェリスにライムはやれやれと顔を振る。
その、ライムの顔は笑顔を浮かべていた。
「いいですか、フェリスさん。白くてふわふわした物、私が何か教えてあげますよ」
場所は変わってレイドタウン。
街に戻ってきた三人は一つのお店の前に来ていた。
「白くてふわふわした食べ物、私にも心当たりがありました。それは甘く柔らく、美味しい食べ物。リュートさんとのデート____ごほんごほん、いつか皆で行こうと私が目をつけたお店にたまたまそれは売っていました」
「甘くて、柔らかい食べ物......」
「ん、おいしそう」
「ふふふふ、そうでしょう、そうでしょう」
自分の考えに自信のあるライムは不敵に笑う。
「これがお米です!」
ドーンと、擬音がつきそうな程勢いよくライムは『お米』を差し出す。
「これがお米......でも、ライム殿」
「......これ、お米じゃ」
「まぁ! お二人が言いたい事は分かります。ですが、その前に一度食してみてください」
何か言いたげな二人を制したライムは其々の口に『お米』を 入れる。
口に入れられたそれを二人はコロコロと口で転がし味わう。
「......ふわふわ、あまあま。おいしぃ」
「うむ、確かに美味ではある____が、ライム殿、それは『マシュマロ』ではないのか」
フェリスはライムではなくてその後ろのお店。
マシュマロと書かれた商品名らしき物を見て指摘する。
「ふふふふ、やはりそう言いましたね」
しかし、フェリスの指摘は予想通りだった。
「いいですか、フェリスさん。リュートさんはお餅を故郷の食べ物と言いました。しかも、レイドタウンでは聞いた事がないような言い方でした。すなわち、お餅とはレイドタウンでは聞き馴染みのある食べ物ではない。ならば、こうも考えられませんか、お餅とはリュートさんの故郷独自のの料理であり、そのもとになっているお米も独自の呼び名があると」
「いや、それは大分発想の飛躍のしすと思われるが」
「いえ、そうとしか考えられません。逆に聞きます。他に白くてふわふわした食べ物なんてありますか?」
「それは......」
ライムの問いにフェリスは口をつぐむ。
そもそも、お米を知らないからこうして探しているのだが、その事にはフェリスは気づかなかった。
「......違うとおもう」
「何を言いますかニーナさん。これしかあり得ませんよ」
「ん、ちがう、お餅、木の棒でつく」
「だがら、これをこうすれば」
木の棒でつく代わりに掌のマシュマロをライムは何度も殴打する。
ライムの掌のがぐちゃぐちゃになったマシュマロでまみれていたのは言うまでもない事だった。
「いえ、見た目はこうでも味が......そのままですね」
お餅がお米を変化させたものなら味がそのままなのはおかしい。ライムは項垂れる。
「いえ、そうか。これがお餅なんですよ!」
名称の違いという推理はお米に留まらず此れがお餅と言い換える事も出来る。
希望が見えたライムは顔を笑顔に染める。
「はぁ」
ライムの顔は絶望に覆われていた。
「ライム殿、元気を出してください」
発想の逆転によってお餅の正体にたどり着いたライムはお餅をリュートに見せにいった。
喜んで誉めてくれるのを期待していたライムだったが、熱により溶けたマシュマロの成れの果てを見たリュートの反応は僅かな戸惑いと「なんだこれ?」の一言だった。
喜ぶ所か困惑させてしまった事にライムは深く落ち込んでいた。
「......次はニーナのばん」
自分の番が回ってきたニーナは腰に手を当てて胸を反らしてやる気を露にする。
「ニーナ殿、心当たりはあるんですか?」
落ち込んで使い物にならなくなったライムの代わりにフェリスが問いかける。
「......ん、ない」
「えっ、ないんですか?」
「ん」
「では、ニーナ殿、何処に向かっているのです?」
知らないと言いつつも迷いのない足取りで何処に向かうニーナにフェリスは疑問を抱く。
「ここは、先ほどの」
ニーナが案内したのは先程のマシュマロのお店だった。
「......きて」
ニーナはフェリス達を連れて店内へと入る。
丸いテーブルと端に置かれた観葉植物が落ち着いた雰囲気を発する店内を進んでいき店員の元へと向かう。
「ニーナ殿、何を」
何を注文するのか、フェリスと落ち込んでいたライムは固唾を飲んで見守る。
スッとニーナは小さな口を開いて____
「......お餅、ください」
「「あっ!!」」
普通にお餅を注文した。
「......さがすのおもち」
当然の事のようにニーナは言う。
そう、ニーナ達の目的はあくまでもお餅。
お米から探すのは遠回りだし、何より知らない物を自分で探すなんて馬鹿げている。
知っている人に聞いた方が手っ取り早い。
「そんな、まさか......」
落ち込んでいたライムは顔を上げるがその表情は愕然としている。自分達がお餅よりもお米を優先的に探してしまったのは少ないながらも情報あったからだ。
白くてふわふわした食べ物だという情報が。
しかし、ライムは気づいた。
____お米の情報を漏らしたのが誰かを。
「まさか、ニーナさん。私達を誘導して!!」
「......?」
何を言っているのかとニーナは首を傾げる。
「そんなわけないですよね。リュートさんの為なのに」
一瞬とはいえ、ニーナを疑ってしまったがあり得ないとライムは頭をふって否定する。
リュートの為の作戦なのに遠回りするのうな誘導をするはずがないからだ。
......自分が一番褒められたいから。
「それこそないですね」
そんな、狡猾な事をそれこそ考えるはずがないと再度頭を振る。
「お餅ですか?」
ライムが思考を働かせている間に店員が注文を繰り返している。
「......ん、そう」
「すいません。此方にその様な商品は置いてありません」
知っている人に聞く作戦。一見有効だが、問題もある。
知っている人を聞く側は知らないのだ。
「......どおしよ」
「私に聞かれても、ライム殿!」
「くっ、いえ、ニーナさんの作戦事態はいいのです。ここは、他の方にも聞いてまわる事にしましょう」
聞き込み。物を探す上で初歩の初歩の事だが今さらそれを行おうとライム達は店を出ようとする。
そんな、三人の背に店員が声をかける。
「えっ、いまなんと?」
三人の代表としてライムが店員に聞き返す。
「はい、当店にはございませんが、餅事態は近くで売っています」
「ふぅ、まだまだだな」
動体視力を高める訓練をしていたリュートは一息つく。
体力面はもとより集中力を高めての訓練は精神的にも疲弊する。
「リュートさん。入っていいですか?」
リュートの部屋にノックの音と共にライムの声が響く。
「ああ、いいぞ」
「はい」
返事と共に扉が開かれ、ライム、フェリス、ニーナの順に部屋に入ってくる。
三人は背に手を回してもじもじとしている。
「何だ?」
三人の様子におかしな物を感じたリュートは訝しむ。
先程のライムのマシュマロもどきの件が訝しみを助長していたのもあった。
「リュートさん実はプレゼントがあって」
「プレゼント?」
「主殿はお餅という物を食べたいと言っていたであろう」
ライムに向けた問いにフェリスが答える。
「それがなんだ」
普通ならばここまで聞けば分かるものだが、ここまで聞いても頬を染めながら話す三人をリュートは訝しんでいた。
「......だから、よういした」
三人は同時にリュートに小さな袋を渡す。
「開けていいか?」
「どうぞ主殿、開けてくださいませ」
三人は恥ずかしそうに頷く。
「色が違うんだな」
中を見てみると、ライムは青色のラッピングを、フェリスは白いラッピングをニーナは赤いラッピングと其々色が違う包装紙で包んでくれていた。
包みを解いて中の物を取り出す。
「これは......確かにお餅だな」
買ってきたばかりなのか温かいそれを指で押すと弾力があり確かにお餅だと分かる。
「リュートさん、食べてください」
「ああ」
お餅を口に入れるとホクホクとしていて温かい。
「あっていますか?」
先程間違えたライムは不安そうに問いかける。
「どうですか主殿」
人間社会とは無縁だったフェリスは緊張した面持ちで尋ねる。
「......おいしい?」
喜んでくれているのか伺うように目を潤ませたニーナが聞いてくる。
不安そうな三人に見つめられたリュートは手にしたお餅に視線を落とす。
もちもちとした弾力とホクホクとした食感。
黄色の生地と程よく焼けた茶色が食欲をそそる『芋もち』を口に持っていき、三人がくれた全てのお餅を食べ終える。
「うん、美味しい。ありがとうな」
僅かに、本当に僅かに口角をつり上げてリュートはお礼を言う。
「はい、よかったです」
「もったいないお言葉です! 主殿ぉぉ!」
「......ニーナも、リュートとたべる」
ライム、フェリス、ニーナは異なる反応をしながらも同じように喜んでいた。
この三人に本当の事を言わなくて良かったとリュートは思った。ここで言うのはあまりに無粋だし、何より今食べた芋もちは、これまで食べてきた中で一番美味しかった。
____それだけは純然たる事実だった。
お餅は太りやすいみたいですね。
その割にはバンバン食べれてしまうから恐ろしいです((((;゜Д゜)))
一日に2,30個は食べれちゃいますし、
まぁ、お正月なんて皆そんなもんですよね(ーー;)




