生きているから
俺は最愛の人を喪ってしまった。
紅葉を失って、俺はもはや人間のような生活はしていなかった。
彼女が死に、俺が生き残った。
死んでしまった人間は無責任だ。
なぜなら、残されてしまった人の事を考えなくても良いから。
「お兄ちゃん、なにか食べないと死んじゃうよ。もう、3日も食べてないでしょ?」
妹の桃華が話しかけてくる。
それでも、俺はもう死んでしまったように返事もしない。
「ここにご飯置いておくから、ちゃんと食べてね」
そう言って、机にご飯を置いて桃華は部屋を出る。
そんな日々が続き、ついに俺は意識を失った。
目の前には綺麗な川がある。
「ここはどこだ?」
自分が意識を失ったまでは覚えている。
しかし、その後はわからない。
「これが、三途の川なのかな?」
目の前に見える綺麗な川は、おそらくこの世とあの世を繋ぐ川。
すると、向こう岸に紅葉が手招きをしている。
あぁ、紅葉が迎えに来てくれたのか。
そう思い、ゆっくりと川に入る。
川の水はそこまで冷たくなかった。
「紅葉、今からそっちに行くから、そっちで幸せになろう......」
ちょうど真ん中ぐらいまで来た時だった。
「そっちに行っちゃダメ!!」
歩いてきた方向から叫び声が聞こえた。
ビックリして振り返ると、そこに紅葉が立っていた。
「そっちに行っちゃダメ!!早く戻ってきて」
紅葉が二人いる。
再び前を見ると、先程まで手招きしていた紅葉は、顔が溶けて恐ろしい形相の老婆へと変わっていた。
俺は慌てて戻った。
戻るなり、紅葉に怒られた。でも、幸せだった。
やっと会えた。
これで、2人で幸せになれる。
そう思った。
「純平くん、何でここに居るの?」
「何でって、紅葉に会いに来たんだ」
「私がそんな事を望んでると思ったの!!ここは、死んだ人間が来る場所なんだよ、純平くんはもっと生きててよ!!私の分まで幸せに生きてよ!!」
「で、でも、俺は紅葉に会いたかったんだ。紅葉がいないと幸せになれる気がしないんだ……」
「私だって純平くんに会いたいよ!!私だって、純平くんと幸せになりたかったよ」
「だったらさ......」
「純平くん、幸せになれるのは、生きているからなんだよ。笑ったり、泣いたり、怒ったりしても、幸せなのは、生きているからなんだよ。私はこんなに早く純平くんにこっちに来て欲しくない!!」
「あの時、俺が紅葉を守っていれば......」
紅葉を殺して、守れなくて、そして死のうとしたなんて俺は何てバカなんだ。
「辛い思いをさせちゃってごめんね。自分を責めないで」
悔しくて涙が出てくる。
「純平くんは、よく頑張ってるよ。でも、私が迎えに来るのはもっと後がいいな......」
「俺は紅葉が居てくれないとダメなんだよ......」
「ダメなんかじゃないよ。桃華ちゃんも、葵も、純平くんのことが大好きだよ。じゃないと、あんなに心配してくれないよ」
「だからね純平くん、今すぐ戻って」
「戻ったら紅葉が」
「私はずっと見守っているから、幸せになって最期にまた迎えに来るから」
「ごめん紅葉。本当にごめん……」
「純平くん」
チュッ♡
「私からのプレゼントだよ。もう1回欲しかったら、しっかりと幸せになってね。私はいつまでも待っているから」
その言葉を最後に、目の前が真っ暗になる。
目を覚ますと、病室のベッドの上だった。
あれは幻想なのか、本物だったのか分からない。
でも、たしかにキスの感覚は残っていた。
「お兄ちゃん生きてた、良かった」
涙で目を真っ赤にした桃華が俺の手を握っていた。
「純平くん、生きてて本当に良かった」
同じように、目を赤くした葵もいた。
紅葉が言っていた事がやっと分かった。
死んでもいい人間なんて、この世に1人も居ないんだ。
みんな、親が育ててくれて、幸せを願って、愛する人のことを想って。
何で紅葉に言われるまで気が付かなかったんだろう。
「みんな心配かけてごめん....」
2人とも怒ってはいなかった。
俺が無事である事を祈ってくれていた。
「絶対に幸せになるから、迎えに来る約束忘れるなよ。あとキスしてくれよな」
そっとつぶやいた。
「幸せになったら、次はこっちで私を幸せにしてね」
どこからか紅葉の声が聞こえた。
しかし、2人には聞こえていないようだ。
絶対に幸せになるから。
あの世で紅葉が羨ましがるぐらいに、幸せになるから。
そして、俺は今日も生きている事に感謝した。
皆様大変お待たせ致しました。
遂に新章開始です。
ここに辿り着くまでに大変悩みました。
死んでないことにするか、死んだことにするのかだけは、最後まで悩みましたね。
最終的にはこちらになりましたが(詳しくは本編で)
後書きから読む方もいるかもしれないので、一応どっちかは伏せておきますね。
なので、どちらのプロットもありますよ。
ボツにした理由としては、変化が無さすぎるって事ですね。
お時間があれば、ボツの方も書くかもです。
一応内容に合わせた自分の話を少しだけしますね。
唐突ですが、皆様は死にたいと思った事はありますか?
人間生きていれば死にたいと思う事もありますよね。
私も何度もありました。
でも、私には自ら死ぬ勇気がありませんでした。
必ず、親の顔や祖父母の顔が浮かんで、あと1週間頑張ろうと思ったのです。
友達と喧嘩したとか、親に怒られた、上司に怒られた。
嫌な事なんて数え切れないほどありますよ。
でも、嫌な事数えるよりも楽しい事を数える方が心に負担がかからないと気がついたのですよ。
週末は呑みに行こうとか、アニメ録画しようとか、そっちの方が心に余裕が出来たのです。
本編とかぶりますが、死んでもいい人間なんていないですよ。
嫌な事があれば、後1週間頑張りましょう。楽しい事を数えていると、気持ちも楽になりますよ。
それでは、この辺で失礼致します。
今回もお読みいただいてありがとうございます。