昔の夢
「わたし、おにいちゃんとけっこんする」
幼い少女は、兄に向けて宣言した。
しかし、兄からの返事は無い。
真っ白に統一された部屋。一つのベッドとよくわからない機械が並んでいる。
少女は兄がどこかに行ってしまいそうで怖かった。
「わたし、おにいちゃんとけっこんするから、おにいちゃん死なないで...」
目覚めたのは病室でもなく、自室だった。
「なんで、あんな昔の夢を見ちゃったんだろ」
私が見てしまった夢、お兄ちゃんが事故にあって入院している時の夢。
その時は怖くて、お兄ちゃんが遠くに行ってしまいそうな気がした。
「今さらこんな夢見るなんて」
その桃華のお兄ちゃんは今でもしっかり生きている。
今では桃華の彼女でもある。
「気にしなくてもいいや、ご飯作りに行かないと」
彼女はそう言って、布団の誘惑に勝ちリビングへと向かった。
「おはよう、桃華」
そこにはすでにお兄ちゃんがいた。
「お兄ちゃんおはよう」
朝の挨拶、あの夢を見た後だと挨拶という些細な事でも嬉しくなる。
「今日の当番は私じゃなかった?」
今日の朝ごはんの当番は私のはずなのだが、兄はそれより早く起きており、朝ごはんを作ってくれていた。
「ちょっと早く目が覚めてな、せっかくだし作ってあげようと」
優しい兄の姿は変わらない。
昔からずっとそうだった。
私が泣いている時は、ずっと頭を撫でてくれた。
何度も血が繋がってなければと思った。
「桃華、何か食べたいものあるか?」
「わたし、朝は魚が食べたいな」
「そう言うと思ってたぜ」
並べられた食事は、鮭の塩焼きとおひたし、味噌汁といかにも日本の朝食だった。
ほんとに私の事を分かってくれている。
しかし、桃華はそれが不安でもあった。
お兄ちゃんは、私のために私が好きと言ってくれているのではないか。
優しさが不安に繋がることもある。
「お兄ちゃん、私が彼女で良かった?」
その呟きはお兄ちゃんには聞こえていない。
「わたし、おにいちゃんとけっこんする」
彼は聞いたことない言葉を聞いていた。
目は開いていないが、音は聞こえる。
力を振り絞り目を開くと、そこには寝ている俺?がいた。
すぐにあの時の事だとわかった。
しかし、このような現象は初めてだ。
他人の目から自分を見る。
何が起こっているのか理解出来ない。
「わたし、おにいちゃんとけっこんするから、おにいちゃん死なないで...」
お兄ちゃんはそこで目が覚めた。
その時間は桃華の目覚める一時間前。
よく分からなく、気待ちがモヤモヤする。
そんな気持ちを振り払うために、朝ごはんを作りに向かった。
そこで桃華が起きてきて現在に至る。
「お兄ちゃん、私ちょっと用事あるから先に行くね」
私はお兄ちゃんに先に行く事を伝えて家を出た。
家から出てある程度歩いた所でため息が出る。
「はぁー、何で今になってあんな夢を見ちゃったんだろ」
当時は知らなかった。
兄妹では結婚出来ない。
「ダメだって分かってるけど、諦められないよ」
再びため息が出る。やっぱり葵さんと付き合うとか言われたら、諦められるのに。
お兄ちゃんが私を捨ててくれたらどれだけ楽か。
「わっ!」
「にゃーーー!!」
「あはは、桃華ちゃん驚きすぎなの〜」
「てか、にゃーって叫んでましたね」
ユキちゃんとサリナが私を驚かせてきた。
「桃華ちゃん今日は早いんだね」
「お兄ちゃんと喧嘩でもしたのですか?」
仲良しの二人にはお兄ちゃんとの関係を知られている。
「特に何も無いけど、何となくかな〜」
三人で学校に向かう事になる。
悩みながら登校してたのが嘘のように、三人で楽しく登校ができた。
二人は意識していないが、それが嬉しくもあった。
「今日の桃華は何か変だったな」
先に桃華が出ていったので、一人で片付けをして学校に向かう。
ある程度歩いた所で、今日の桃華の様子を考えてしまう。
何かあったのだろうか?学校でいじめられているのか?
様々な事が思いついてしまう。
そんな時だった。
「わっ!」
「にゃーーー!!」
「純平くん驚きすぎだよ」
「こいつ可愛くもないのに、にゃーって言ってたぞ」
勇気と葵が二人で俺を驚かせてきた。
「どうしたの純平くん?何だか悩んでるようだけど、桃華ちゃんと喧嘩でもした?」
「いや、そんな事はないんだけど、ちょっと様子が変だったから」
「純平、それは女性特有のせい...フギャ!」
葵のカバンが勇気の鳩尾にクリーンヒットした。
「勇気くん、それ以上言ったら怒るよ」
「葵ちゃんもう怒ってるような」
「そんな事ないよ(ニッコリ)」
俺と勇気は同じ事を思った。
女性って怖いな。
「それで、純平くん何か心当たりはないの?」
「特にない...あっ」
「何かあったの?」
「今日、変な夢を見てさ...」
今日の夢を葵に詳しく伝えた。
そのシーンは、葵も知っているようだった。
「何で今なんだろうね」
葵が少し悲しそうに呟いた。
当時は子供で知らない事も多かった。しかし、歳を重ね多くを知ってしまった。
兄妹では結婚は出来ない。
「だから、今日の桃華は変だったのか」
「で、純平はどうするんだ?」
「どうするって?」
勇気は声を強めた。
「だから、桃華ちゃんを幸せにする気はあるのかって聞いてるんだよ」
そんなの言うまでもない。
「当たり前だ」
「だったらやる事があるだろ?愛する人が不安になってるのに、授業受けてる場合かよ」
そこまで言われてやっと気がついた。俺はアホだ。
「ごめん二人とも、体調悪いから帰るわ」
「おうよ、しっかりと行ってこい」
二人に体調不良と伝えてくれと頼んで、違う方向に向かう。
「勇気、ありがとな」
勇気はグッと親指を立てて答えてくれた。
その後
「勇気くんて、あんなにカッコイイのに何で彼女居ないの?」
「葵ちゃん、それが分かるなら彼女出来てるって」
「なるほどね、確かにその通りなんだけど、不思議だよね」
「じゃあ、葵ちゃんが俺の彼女になる?」
「えー、お断りします。私の心は純平くんにしか向いてないから」
「そう言うと思ってたよ。はぁー俺も彼女欲しい」
勇気の心の声が漏れてしまっていた。
お待たせ致しました皆様。少し遅れましたが、モブ俺更新です。
後書きを書いている現在、15時ですが寒くないですか?
私は朝、自転車で駅前の駐輪場に向かうのですが、下り坂でして指とか耳とか感覚が無くなるほど寒いです。
もう、コタツやストーブが活躍する季節になったんですね。
一年が早すぎる!
あと、私事になりますが、昨日10月30日は私の誕生日です。
いらない情報でしたねすいません。
それでは、今回の内容を
今回はですね、多くを一人称視点で書きました。
今までは三人称的な書き方が多かったと思います。
上手くかけたかは分かりませんが、個人的には楽しくかけたので、満足です。
そして、いつものお礼を。
いつも読んで下さっている皆様、この回だけでも読んで下さった皆様本当にありがとうございます。
PVも100,000を超えまして、嬉しい事ばかりです。
本当にありがとうございます。
それでは、今回も楽しんでいってください。




