俺の意思
いつもと同じ教室。なのに、なぜかモヤモヤとした気分になっている。
いつでも俺のそばにあったものがない違和感。
俺が勇気と喋っている間、葵はほかの男子と女子から遊園地に誘われていた。
転校生である葵がみんなと仲良くなれることは、とても良いことだと思う。
実際、葵も楽しそうに話をしている。
良いことだし、嬉しい反面、俺はあまり良い気分にはなれなかった。
「何なんだろうな、この感覚は」
「どうした純平、まだ体調悪いのか?」
勇気が心配してくれた。風邪明けだし体調を気遣ってくれているのだろう。ほんとにいい友人に恵まれたよ。
しかし、体調はほぼ万全なのに、なぜか気分が悪い。
そんな時、葵が戻ってきた。
「ねえ、私遊園地に誘われたんだけど、どうしたらいいかな?」
「好きにしろよ」
葵は悪くないのに、ついこんな返事をしてしまう。嫌な感覚がどんどん俺の心を蝕んでくる。
「ねえ、良かったら一緒に行かない?」
「はあ?行くわけねーだろ」
「そ、そっかごめんね。じゃあ、私返事してくるね
」
いつもならふざけて、常に笑っている勇気が珍しく真剣な顔をしている 。いきなり頭をしばかれた。
「おい純平、さっきのはさすがに酷いだろ」
「何がだ?」
「さっきの態度だよ。葵ちゃんがお前の事を好きなのは知ってるだろ、だからお前に相談に来たってのに、なんだよあの意味不明な態度は。少しは葵ちゃんの事も考えてやれよ」
「別に俺はそんなつもりは...」
「そんなつもりが無くても、完全にやきもちにしか見えねーよ。これじゃ、絶対に葵ちゃん誘い断ってくるぞ」
葵が微笑みながら戻ってきた。
「私、行くことにしたの」
俺と勇気は2、3秒フリーズしてから。
「行くのかよ!」
「行くんかい!」
見事なはもりで叫んでしまった。葵はポカンとしてわけがわからないようでした。
とある日曜日、普段仕事や、学校がある人はこの日ぐらいは家でのんびりとか考える日である。
「あのさ、純平、なんでこんなところで俺達はストーカーみたいな行動してるんだ?」
俺達は、遊園地に来ていた。
別に葵が気になったからではない。ただ、俺も遊園地に行きたかったのだ。男二人で。
「なんでって、俺も遊園地に行きたかったんだよ。お前と二人でな。」
「やめとけ、その発言は世の中のマイノリティに誤解されるから。素直に葵ちゃんが気になるって言ったらどうなんだ?」
「はぁ?別に気になったわけじゃないし」
てか、なんだかんだ言いながら付き合ってくれる勇気も優しいよな。
入場してから、まずジェットコースターにむかうようだ。
俺達は気が付かれないように、一定の距離を保ちながら後ろをついて行く。
そこまで人の多くない地元の遊園地、どのアトラクションも待つ必要がなく、スムーズに乗ることが出来る。
ジェットコースターで、葵達は前に乗っている。
なので、俺達はほぼ最後尾に乗ることにして、スタートしてから思い出した。
「なあ勇気、今思い出したが、絶叫系めっちゃ苦手なんだ俺」
「ここまで来てから言うことかよ。だったら降りてくるのを待てばよかったじゃないか」
勇気の言う通り待っていたら良かったと、激しく後悔した。しかし、時すでに遅しだ。
「お前の苦手って、そういう意味だったんだな」
ジェットコースターを降りてグロッキーな俺に水を買ってきてくれた。
やばい、胃の中がリバースに入りそうになっている。
「おい、純平。あいつら移動するみたいだけど、どうする?、とりあえず休むか?」
「あほ、こんなところでくたばってたまるか。後ろをついて行くぞ」
そんなわけで、まだ治りきっていないが、次に移動するみたいなので、俺達はその後ろをついていく。
次に来たのは、カップルで定番の大観覧車だ。
やはり定番なのか、男女で乗るらしい。
そうなると、葵も誰か男子と乗るのか。
そんなところで襲われたりした、誰も助けられないじゃないか。
「あいつ、コ●シテヤル」
「おいおい、物騒なこと言うなよ。」
「勇気、あそこは密室だぞ。もし、襲われたりしたらどうするんだよ。」
「まず、ありえないから。純平はかわいいな(笑)」
「やめてくれ、俺はそっち系じゃないから。」
乗るみたいなので、俺達もついて行って観覧車に乗った。
降りてきた俺は、産まれたての子羊のように、足をぷるぷるとさせ立つのがおぼつかなくなっていた。
「まさか、高所恐怖症だったとは、純平今まで遊園地楽しかったこと無いだろ。」
「あるわけないよ、こんな所で楽しむとか無理だわ。」
胃の中がひっくり返りそうになったり、無駄に高所に行かされたりで、楽しいわけがないじゃないか。
そんなこんなで、陽が大分沈んできた。
皆は帰るようだ、助かった。これ以上恐怖体験はしたくないからありがたい。
「純平、俺達も帰るか。」
「そうだな、今日は結構な数の恐怖体験したから、もう休みたいぜ。」
今日一日、特に何事も起こらなかったし、とにかく疲れたので早く帰りたかった。
そして俺と勇気は帰路についたのである。
勇気と別れてから、駅から自宅までの見慣れた道。
後ろから見覚えのある人に話しかけられた。いや、見覚えのあるなんてもんじゃない、いつも一緒にいるあの子だ。
「純平くん、今日は楽しめた?」
俺は葵が何を言っているのか一瞬分からなかった。
「ごめん、何のことだ?」
天使のような笑顔、吸い込まれそうな大きな瞳で俺を見つめてくる。
「だって、今日勇気くんと遊園地に来てたでしょ?、私の思い出だと純平くんは、絶叫系とか無理じゃなかったかな?。しばらく会わなかった間に克服したの?」
「いや、相変わらず絶叫系は胃の中がひっくり返りそうになるし、高所恐怖症は治っていない。何度行ってもあまり楽しい所ではないな。」
「やっぱり来てたんだね…」
少しの沈黙が、それ以上の話をやりにくくする。
そんな沈黙の中、葵が気まずそうに話し出す。
「あの、私、今日の誘いを断わっておいたらよかったのかな?」
彼女の顔に浮かぶ後悔と罪悪感。俺の事を好きと言いながら、他の動画男子と遊びに行ったのを気にしているのか申し訳なさそうに聞いてくる。
そんな事は無い、クラスの友達と仲良くしていることは、悪い事なんかじゃない。でも何でだろうか俺の気持ちは晴れない。
「そんなわけないだろ、お前がクラスの皆と仲良くしてるのは良い事じゃないか」
俺はそう力無く呟くことしか出来なかった。
「そっか、ごめんね気が付かなくて」
葵は悪くない。なら俺のこの気持ちは何なんだ?
そうか、俺は……
皆さんこんにちは、まっさんです。
今回少し時間がかかってしまい、申し訳ございません。
なんせ、内容を考えていたらあっという間に時間が…
あれも入れたい、これも入れたいの欲張りはだめですね。
今回16話「俺の意思」いよいよ話が進むのか?、と言う所で次回に続くんです。
あとがき長くなってしまいましたが、今回も楽しんでいってください。