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生徒指導室へ来い、そこでゆっくり話をしてやる

 翌日、俺はオセロと将棋盤、そして松浦が何故かあの某有名なす

ごろくを持ってきた。

「おい……なんでお前人生ゲーム持ってきてんだ」

学校で松浦の机の上にあるそれを指さしながらそう問い詰めようと

したところ、

「え?いくらなんでもその二つだと飽きね?どうせならもっと楽し

 いほうがいいと思うな俺は」

と、松浦は論理的かつ横着な答えを返してくるだけだった。

 放課後、俺と松浦は昨日と同じように部室に向かう。クラスの他

の奴らは数人を連れだっておしゃべりしながら部室やら更衣室やら

下駄箱やらに向かう。しかし俺らは人気のない場所を走り抜けつつ

持ってきたボードゲーム類を部室に持っていく。なにしろ、いくら

部活とはいえ学校に人生ゲームを持ってくるのはさすがに危ないか

らだ。一応袋に入れてあるが、大きさが足りなくて箱上部が見えて

しまっている。『人生ゲーム』の『生』の字の半分くらいまでは露

出している。

 しかし二階、職員室前で悲劇は起こる。

『ビリリッ』

人生ゲームを隠していた(?)紙袋の底が裂けてしまったのだ。ど

うしよう、絶望的だ。

「おいどうするんだよ松浦!?」

「どうするも何も、隠れるしかないだろ」

「隠れるって……どこへ?」

俺がそこまで行ったところで、松浦は後ろを指さす。そこにあるの

は、職員用トイレであった。俺と松浦は急いでトイレに入る。扉を

閉める瞬間、職員室の扉を開ける音が聞こえた。コツコツコツ……

と良い小気味よい足音が床を鳴らす。

 そして――ギイイッと、トイレの扉が開こうとする。俺らは先生が

トイレに入ってくることまでは予想できていなかった。しまったと

思い、半目で扉の方に目をやる。しかし、扉の後ろから現れたのは、

「おや、どうしたんだ二人ともこんなところで」

担任である、橋本先生だった。

「ん、なんだその紙袋?あ?人生ゲーム……?」

マズい、と思った。しかし、彼の反応は予想とは違うものであった。

「何で学校に全く関係ないものを持ってきてるんだ!……と言いた

 いところだが、懐かしいな~これ。最後にやったの何年振りだろ

 うな~。……おっと、失礼」

 そう言って橋本先生は咳ばらいをした。

「今回だけは見逃してやるが、その代わり俺のことを『かっこよく

 てサイコーな教師』ってみんなに広めてくれよー!」

「は、はい」

 そうとしか返事できなかった。

 こうして、彼は出て行ってしまった。トイレどうした。

 何はともあれとほっとして溜息をつく。しかし、こうしてはいら

れない。いつ誰がトイレに入ってくるか分からないからだ。

「出るか?」

「おう!」

 短く言葉をかけあい、二人で一斉にトイレを出る。しかし、それが

運のつきだった。

 二人の体がちょうどすべて廊下から出た瞬間、勢いよく職員室の扉

が開いた。出てきたのは、生徒指導の鬼、虎鉄四郎こてつ しろうである。虎鉄は二人

を一瞥してから、すうっと息を吸い込み、それからすごい剣幕で言う。

「お前らぁ!学校になんてもん持って来てやがるんだぁ!!!」

硬直して体が動かない。逃げたら、命はない――二人が本能でそう察

したからだ。

「生徒指導室へ来い、そこでゆっくり話をしてやる」

虎鉄はそう言うと二人の襟首をつかみ、どこで鍛えたかもわからな

い筋肉を駆使し、そのまま俺らを生徒指導室へと連れて行った。

 そこから、俺らは小一時間ずっと説教され続けた。

 最初は人生ゲームを持ってきたことについて、理由だとかいろい

ろ質問攻めされ、途中から『そもそも学校というのはな、勉強する

ためにあるもんでな……』などと話し始めたからたまったもんじゃ

ない。

 一応クーラーが聞いてるはずだが、やけに暑苦しく感じた。

 ヘロヘロになりながら、ようやく部室へ到着した。窓から見える

空は、既に燃えるような橙色を帯びてきていた。

 俺のオセロと将棋盤は、バッグに入れておいたのでバレなかった。

「失礼しまーす」

 そっと扉を開けて中に入ると、中では部員全員が、自分のやりた

いことに打ち込んでいた。すると、『春によく見える星座特集』と

書かれた天文雑誌を読んでいた坂本先輩が、俺らがやってきたのに

横目で気づいたようで、

「やあ、君たち。今日はやけに遅いじゃないか」

と声をかけてきた。

「ちょっと、先生に捕まっちゃって。なあ、松浦?」

「あ、ああ……そうだよな。稲葉」

「それにしてはやけに疲れているようだけど……」

二人はぎくりとした。すると藤堂が

「ははーん。この時間になるまで叱られてたってことは……虎鉄ち

 ゃんに捕まってたね?」

 図星だ。虎鉄先生の説教は名物にでもなっているのだろうか。

「ところでその手に持っているものは何だい?」

「オセロと将棋です」

松浦が答える。それを聞いた藤堂が反応し、

「いいもの持ってきてんじゃん!ねえねえ二人とも、私とオセロで

 勝負しない?」

「「もちろんです」」

「じゃあ、まず稲葉君から!」

 俺の名前が呼ばれる。俺vs藤堂先輩、スタート。


○ ○ ○


「くうううううぅぅ負けた~~~!悔しい~~」

そう嘆くは、俺の方だった。

 何て先輩だ。次の手が全く予想できない。いい意味でも、悪い意

味でも。

「じゃあ、次は松浦クンだよ。このまま連勝行くぞー!」

松浦の名前が呼ばれる。松浦はおれの座っていた椅子に腰をおろす。

松浦vs藤堂先輩、スタートだ。

 先輩が先攻で、松浦が後攻となった。ぱちん。先輩が白の駒で松

浦の駒を一枚ひっくり返す。序盤はそれの繰り返しだった。しかし、

しばらくすると戦局に変化が訪れる。

「やったー!角とったよー!」

先輩が先に一か所角をとる。さらに、二か所、三か所、そしてすべ

ての端という端に白い駒が置かれていく。

 しかしまだ勝負は終わっていない、むしろここからだ。ここから

が松浦の真骨頂だ。端をとられたらもう何も怖くない。自分の番が

くるごとに、白い駒を六個、五個、十個……とひっくり返していく。

その様子はまるで、雪がわかめになったような感じだ。いや、全く

意味が分からない。虎鉄先生の説教で頭がおかしくなったのだろう

か。

 終わるころには盤上をほぼ黒の駒が支配していた。

「よっしゃぁ!」

 松浦は子供みたく喜んでいた。しかし、藤堂先輩は、微笑みなが

ら、

「いやあ、負けちゃった。松浦クン強いね。今度さ、強くなる秘訣

と かあったら教えてくれない?」

と言った。顔にかかった長い髪を手でさっとどける仕草に、松浦の

顔が少し火照ったような気がした。


○ ○ ○


「そういえば、この部活って、顧問の先生とかいないんですか?」

とある日の放課後、俺は坂本先輩と将棋を指しながら質問を投げか

けた。先輩はまず一言返す、と同時に飛車を稲葉の陣地まで動かし、

竜に成らせる。

「いないよ」

「え?どうしてですか」

 すかさず銀を前に出して飛車の動きを食い止める。

「まあ一応いるにはいるよ。普段は来ないけど」

 飛車が5段目まで下がる。

「どっちですか、てかどうして来ないんですか?」

「さあなー。なんでだろうなー。まあいないならいないで活動に支

 障はないんだけどな」

そういって坂本は軽く笑いだす。それと同時に稲葉は角を坂本の飛

車のところまで動かし、自分のものにする。

「あ!嘘だろ……」

「ごっつあんです、先輩」

 そしてこのあと、先輩の角もとり、俺は勝利を収めた。これで今

日は三戦三勝だ。

「さすがに強いね、なかなか勝てないよ」

 坂本先輩は初めて稲葉と戦った時から新たに将棋の本を購入し、

勉強をしていた。しかし何べんやってもこちらの王はおろか角以上

の大駒すら取れていない。取将棋盤を片付けようとしていると、

「二人とも、カメラ見てくだ~い」

杉内が一眼レフカメラを持ったまま二人に呼びかけた。

「撮りますよ~」

と、先輩が俺と肩を組んできた。俺もそっと組み返す。

「はい、チーズ!」

パシャリ。

「今度現像したら見せますね」

そう言って杉内は、今度はグレープページに読みふけっている不知

火の方へカメラを向けた。

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