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ここが、マイナー部だよ

「――で、どうするんだよ?」

俺は顔をとある部屋のドアに向けたまま、横目で松浦を見つつ聞い

た。部員は集まらなかった。一人も。

「……入るっきゃねーだろ。ここまで来たんだし」

 俺たちがいるのは、校舎の三階にある、生徒会室である。ためら

う俺をよそに、松浦が扉をノックする。すると、

「どうぞーー!」

想像とは違い、明るい声が中から響いてきた。

 俺が、戸惑いつつも扉を開けると、中には二人の生徒会役員と思

われる人物がいた。一人は背が高く、すらっとした体躯を持ち、黒

縁の眼鏡をかけたいかにもインテリといった感じの男子だったが、

もう一人は……何というか、清楚とは程遠い女子だった。背は低く、

髪を茶色に染めており、ピンクの髪留めが少しだけ自己主張してい

る。

「君たちが、ボードゲーム部を作ろうとした稲葉君……そして、松

浦君だね」

「はい、そうですけど」

 流石に生徒会長を前にすると緊張するなあ。

「ハハハ、そんなに固くなることはないよ一年生君達。ところで、

 部活の件だけど、この学校が部活強制参加であることは知ってい

 るね?」

「もちろんっス!」

松浦がハキハキと答える。

「そこでなんだけど……」

と、長身の先輩が言いかけたところで、

「ウチにも喋らせろーーい!」

背の低いほうの先輩が会話に割って入ってきた。

「要するにね、君たちに部活に入ってもらおう、っていうわけ」

「でも、部活は五人以上じゃないと……」

「とにかく、部室に案内するからついてきて!」

「でも俺ら、部室なんて持ってないっスよ?」

「そうですよ!俺たちをどこに連れて行く気です?」

「だから、部室よ」

 そういってやや強引に連れてこられたのは、旧校舎の同じ階にあ

る『部室C』であった。

「さあ、入って!」

 言われるがままに俺たちは扉のノックし、失礼しますといいつつ

扉を開けた。部屋の広さは大体教室を半分にしたくらい、窓からは

本校舎がでかでかと見える。しかし中にいる人たちを見てみると、

明らかにやっていることがばらばらだった。

 ある人は漫画を描いており、ある人は料理本を眺めており、また

ある人はカメラを手に外の風景をとっていた。

 俺たちが頭の中に?マークを浮かべていると、それを察したかの

ように長身の先輩が、

「ここが、マイナー部だよ」

と告げた。え?と思わず俺は聞き返してしまった。

「ここはね、部活を作りたくても作れなかった人が自分のやりたい

 ことをやるための部活だよ。いつからできたかとかは僕もよく知

 らないんだけどね」

「私たちが入ってきたときにはあったわよね」

 思った以上に歴史は古いらしい。そっか。やりたいことをやる、

か。

「まあそんなわけだからよろしくね。入部届は必要ないからね」

「あ、言い忘れたけど、私の名前は高槻春菜たかつき はるな。生徒会長でーす!」

「僕が副会長の村野雅彦むらの まさひこ。今後もよろしく」

 普通逆だと思うな……と思ったが、口には出さず、社交辞令とし

てよろしくお願いしますと言ったところで、

「じゃあ、あとのことは部長に任せてあるんで、よろしくね」

そう言い残して二人は部屋を出て行ってしまった。

 え、どうすればいいの、俺ら。とりあえず部長に挨拶するところ

から始めるべきか。

「あのー、ここの部長って誰ですか?」

辺りを見回す。メガネをかけた長身の先輩が、部長は僕だよと言っ

て立ち上がり、皆を部屋の中央の長机に集めた。

「じゃあ、まず自己紹介から行こうか」

俺たちは机の周りの適当な椅子に座る。

「僕は、三年四組の坂本柊羽さかもと しゅうだよ。入ってた天文部が廃部になっち

 ゃってね。この部活の……一応部長ってことになっているんだけ

 ど、まあよろしく頼むよ、三人共」

 言い終わった後の周りからのささやかな拍手の音が、俺の緊張し

た顔をかすめる。ん、三人?俺ら以外にも一年生がいるのだろうか。

「じゃあ、僕から時計回りに行こうか。じゃあ次は……」

と言いかけたところで、

「はーーーーい!!わたしわたし!!」

と、一人の、女の先輩がガラッと立ち上がる。ふわふわとした髪が、

羽のごとく揺れる。

「私は、三組の藤堂とうどうこのみって言います!漫画研究部作ろうと思っ

 たけど部員が集まらなかったんで、ここに来ちゃいました!よろ

 しく!あ!三年だよ!」

「こう見えても、ね」

「それは余計だ!!」

坂本先輩からの鋭い突っ込みが入る。

 二人とも楽しそうな先輩でよかった。次は……メガネをかけたお

となしそうな先輩だ。

「僕は……二年二組……水内浩太みずうち こうた……読書部作ろうと思ったけど…

 …無理でした……その……よろしく……」

 かなり話すのに慣れていない様子。クラスで浮いてんじゃないか

って、後輩ながらちょっと心配だ。

 次は、雲のない夜空のような黒髪を持った、ショートヘアの先輩

だ。

「アタシの名前は不知火綾乃しらぬい あやのよ。料理部を作ろうと思ったんだけど、

 あいにく人数がそろわなくてね。二年一組所属です。よろしく」

 不知火なんて名字の人に会ったのはこの十五年間で初めてだ。ち

ょっとした感動に浸っていると、

「あのー先輩、この学校には家庭科部があるらしいですけど、なん

でそっちに入らなかったんですか?」

松浦が質問を投げかける。が、彼女は素っ気なく、

「アタシ、裁縫とかに興味ないのよ。昔は入ってたんだけどね」

とだけ言って切り捨てた。二年生は曲者ぞろいといったところか。

 そして次は一年組の番。まずは俺たちとは違うクラスの女子から

だ。

杉内真由美すぎうち まゆみ、一年二組所属です。カメラが大好きで、写真部を作

 ろうと思ったけど、人数が集まらなくて……そしたら、この部屋

 を紹介されて……。みなさん、こんな私ですが、これからどうぞ

 よろしくお願いします!」

お辞儀をするとともに、彼女のロングヘアが顔をベールのように包

む。そんな姿に見とれていると、

「じゃあ、次は君ね」

と、俺を指さし、坂本先輩が言う。

「えっと……一年一組稲葉亮介。ボードゲーム部作ろうと思ってま

 した……よろしく」

素っ気ない挨拶になってしまった。先輩たちの目線が顔に突き刺さ

る。

「じゃ、じゃあ……最後は君!」

場が進行していく。

「俺の名前は、松浦雄一です。稲葉とはクラスメートで、一緒にボ

 ードゲーム部作ろうぜ、的な感じになったんですけど、部員が集

 まらなくてここに来ました。いやあ、部活作るのって、思ったほ

 ど簡単じゃないんですね、まあとりあえずこれからよろしくお願

 いします。終わりまーす!」

 俺とは対照に、周囲に明るいイメージを振りまいた松浦を見て、

俺は少しばかり嫉妬めいた気持ちを覚えた。

「それじゃあ、さっそく活動を始めるか」

 坂本先輩が再び場を取り仕切る。

 しかし松浦は再び手を挙げ質問した。

「あの、活動って言っても、具体的に何をすればいいのか分からな

 いんですが」

「なに、そんな不安にならなくてもいいよ。この部活の活動内容は

 ね、〝ただひたすら自分のやりたいことをやる〟ことだけだから」

「なるほどね」

 松浦が、納得した様子でそう言うと、坂本先輩はみんなに向かっ

て言う。

「新入生たち、道具は持ってきたかい?無いなら今日は帰っていい

 よーー!」

先輩二人が俺ら一年組に声をかける。

 俺たちは今日は何も持ってきていなかったので、帰宅することに

した。


 焼けるような夕暮れを望む帰り道、俺は徒歩で、松浦は自転車を

押しながら、横並びになって今日のことを話していた。

「なんて言うか……不思議な部活だったよな」

と松浦。

「でも、校長室行きとかじゃなくてよかったじゃん」

「おいおい物騒なこと言うなよ」

「でもさ、楽そうでよかったわ、本当」

「まあな」

と会話を続けていると、交差点に出た。いつも二人が分かれる場所

だ。俺が左の商店街のほう、松浦はまっすぐ行って大きな川にかか

る橋を渡ってさらに向こうの方角だ。

 じゃあなと慣れたように手を振り、お互い違った道を歩き始めた。

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