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作りたい部活はボードゲーム部です!

「新入生、起立!」


「礼!」


「着席!」


 教頭と思わしき先生が場を進行させる。

あーあ、暇すぎる……。

口に出すのはさすがに憚られたので、俺、稲葉亮介いなば りょうすけは心の中でそう

呟いた。あくびをしつつ、早く入学式は終わらないのかと待ちわび

ていた。しかし入学式が終わってもまだ三時間ほどは学校に束縛さ

れてしまう。

 一年一組。そこが俺がこれから一年間お世話になるという教室だ

った。黒板には『入学おめでとう』と色チョークをふんだんに使っ

て書かれた文字、整頓されたイスと机。二階というだけあって、窓

からは広々とした校庭が見渡せる。天気がいいこともあってか富士

山を望むこともできた。しばらくすると、

「それじゃあみんな席につけー!」

と、先生が教室に入ってきた。

「――と、申し遅れたが、この一年一組の担任を務めさせてもらう

 ことになった、橋本明はしもと あきらだ。皆まだ慣れないようだが、よろしく

 頼むよ!それじゃあ出席番号順に自己紹介してもらえるかな?名

 前と出身中学と、入りたい部活と……あとは適当に言ってくれ。

 じゃあまず安藤から!」

 名前の通り、明るい先生だった。順番はすぐに回ってきた。前の

奴が終わって、ガラッと椅子を引いて重い腰を上げる。

「稲葉亮介……出身中学は市立四葉大中学で――


 

 作りたい部活はボードゲーム部です!」



 何を隠そう、俺が自宅から一時間半もかかるこの学校に入ったわ

けは、この学校の『好きな部活動を設立できる』っていう点にある

わけだ。俺はこの高校生活を青春しようと、ずっと考えていたわけ

だが、昔から運動がダメだった俺は、女子の脚光を浴びれる運動部

には入りづらかった。かといって帰宅部になろうにも、ここはその

ルールゆえの部活動強制参加の学校だ。だから俺は、自分好みの部

活動を友人と設立して、気楽に過ごそうと思ったわけだ。これでも

将棋の腕は伊達じゃない。

 そしてその友人というのがあいつだ。

松浦雄一まつうら ゆういち、元市立四葉台中学校で、ボー

 ドゲーム部を作りたいと思ってます。よろしくッス」

 松浦は俺と中学校が同じ、親友である。ちなみにオセロでは地元

の奴に負けたことはないそうだ。

 休み時間に入り、松浦が声をかけてきた。

「うぃっす稲葉!同じクラスでよかったわぁ~マジで。」

「また松浦か。……よろしく」

 口ではそう言いつつも、内心ほっとしているのだが。

「素っ気ないな~なんだ?クールキャラで行くつもりなのか?」

 松浦が茶化してきたので俺は一発頭をたたいてやった。と、

「ユウイチいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい

 い!!!」

と、ものすごく騒がしい声が教室に飛び込んできた。

「げ、絵里がきたぞ」

「聞こえてるぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

 お!!!」

 声の主は浦沢絵里うらさわ えり。俺らの中一からの腐れ縁だ。かなり気が強く

行動の一つ一つが積極的だが、普段自分からはあまり動かない俺に

とっては良い意味でも悪い意味でも相性が良いのかもしれない。し

かし、松浦に対してのあいつの態度は、まさしく凶暴そのもので、

俺と違って人付き合いの得意な松浦とはいつも衝突し合っている。

……一方的に。

「なんでアンタと違うクラスなのよ!アンタに会うために教室一つ

 またがないといけないなんて!!」

「じゃあ来なければいいだろ~!!お前どうせクラスで絡む奴いな

 いんだろ~!」

「ユーイチだって、リョースケとしか喋ってないじゃない!今だっ

 て!」

 相変わらず賑やかな二人だなあ。もう少し静かにしてほしいなと

思いつつ、心の中では中学の時と変わらないメンツに少し安心して

いる自分がいる。

 ――しかしふと周りを見ると、安心が不安へ移ろっていく。

「おい、二人とも、みんな見てるぞ」

「え?」

「マジ?」

 二人の声はクラス中に届いていた。クラスメートの奇異な視線が

体に突き刺さる。あんまり目立ちたくなかったんだけどな、俺。

「そういやユーイチ達は部活名に入るか決めた?」

松浦がさっきのがきたらしくそっぽを向いていたので、代わりに俺

が答える。

「ボードゲーム部を作ろうと思ってる」

「えー何それ?囲碁将棋部みたいなモン?まーた地味なチョイスだ

 ね~」

 全国の囲碁将棋部の人たちに謝れ。今すぐに。

「そういう絵里はもう決めたのか?」

「アタシはね~バレーボール部!ここの学校バレーそこそこ強いっ

 て言ってたし」

「男子バレー部か」

「ユーイチは黙ってろ!」

 松浦が復活した。絵里は運動神経いいからなあ。俺が五段の跳び

箱に苦戦してた時、あいつは六段のやつを軽々と跳んでた。ドッジ

ボールはよく俺と二人で残ってた。あいつはボールを当てまくって

る上に、自分に来たボールは全部取っていた。休み時間も男子に交

じって遊んでいたし。一方俺はボールを避けてばかり。

 そんな俺は、昔から親父からボードゲームを教わってきた。オセ

ロ、将棋から囲碁、チェスまで、実に様々であった。俺が初めて興

味を持ったのは囲碁だったか。

 和室の畳に無造作に置いてあった白黒の丸い物体を、俺はひたす

ら畳にパチパチと打ち続けていた。そこまで詳しくは覚えてないけ

ど、多分幼稚園に通っていたころからだと思う。

 そんなことを思い出しつつ、じゃれあっている二人を尻目に俺は

もらった学年便りのクロスワードを考えていた。


 放課後、俺と松浦は教室で唸っていた。あの後、職員室に部活動作成願いを取り

に行ったまでは良かったものの、部活動を作る条件にこんなものがあったのだ。


1、学校の風紀を乱さない部活であること。


そして、


2、部員は五人以上であること。


 そう、部員が集まらないのだ。しかも、仮入部終了期間までに入

部届か部活作成願いを提出しないと、生徒会から呼び出しがかかる

のだ。

「参ったな~俺らまだこの学校に部活は言ってくれとか頼めるよう

 な知り合いなんていないぞ」

「いや~本当に弱った……あ、一人いるじゃん頼めるやつ」

「え、まさか絵里に頼むのか?マジか俺は勘弁だぞ」

 松浦はいつも絵里のことを怖がっている。でも手段は選んでいら

れない。

「でも今の俺らじゃ三つの枠を埋めるのは厳しいもんがあるだろ」

「でも俺は嫌だ!絶対嫌だかんな!」

 松浦はかたくなに拒否し続ける。どうやら一歩も譲る気はないよ

うだ。

「というわけで稲葉!俺と二人で勧誘行くぞ!」

 この学校では部活の仮入部期間である二週間は、まだ正式な部活

となっていない部でも大っぴらに勧誘活動ができるようになってい

る。ただし学校の備品は使えないわけだが。

 仮入部期間一日目。帰りのホームルームが終わると、俺らは速攻

で昇降口まで階段を駆け下りる。

 まだこの学校の構造とかはあまり把握してないが、階段を下りれ

ば下に行けることくらいは誰でもわかる。まだ慣れない学校の景色

に鼓動が速くなるのを感じる。

 昇降口を出たすぐ先。大きなクヌギの木の下に、ブルーシートが

敷いてあり、その上に碁盤、将棋盤、オセロ台、さらにはすごろく

まで所狭しと並べられている。

「おいおい、すごろくまでボードゲーム扱いかよ?」

「いいだろいいだろ、人っていうのは楽しいものに寄って来るもん

 よ」

それを言ったら何でもありな気もしてくるが……。

 ブルーシートに腰を下ろす。地面が固いせいか、座り心地は悪い

が妥協する。まだ他の人の姿はほとんど見受けられない。たかって

くる虫を手で振り払いながら勧誘の具体的な方法について聞く。

「さっきも言ったが、人は楽しそうなものに寄って来るもんだ。だ

 から、楽しそうにしてれば当然興味を持ってくれるはずだ」

「だから、結局何をするわけ?もったいぶらなくてもいいからさ」

「簡単なことさ。俺らで楽しそうにこれらで対決するだけだ」

「そんなんで本当に勧誘できるかねえ」

「おいおい俺を信じられないっていうのか?長い付き合いじゃねえ

 か俺ら。あ、人が下りてきたぞ。始めるか」

 そういって俺らはオセロを始めた。チェスとかだとルールを知ら

ない人もいるし、この中ではいい選択だろう。

 『部員募集中』と書かれた段ボールを囲碁盤とチェス盤に立てか

け、俺らは一局興じることとなった。

 対局中盤、人の流れが激しくなってくる。角付近での駒のせめぎ

あいが続く。風が段々と強くなってくる。これからの波乱を予感す

るかのように。

 と、重い空気の中を爽やかな風が駆け抜けた。

「あの、ちょっといいですか?」

 横から漂う甘い香りに、勝負の熱が一時的に冷める。見上げてみ

ると、一人の女子生徒がいた。しわ一つない制服から察するに、俺

らと同じ一年生だろう。

「私と将棋で一局お願いしたいんですけど、どうです?」

 予想外の提案に一瞬戸惑う。

「ちょ、ちょっと待ってください」

少々パニクりながらも俺と松浦の耳打ち会議が始まる。

「どうする?松浦」

「どうするもこうするもねえよ、やるに決まってんだろ。部員を獲

 得するチャンスだし、何より可愛い」

「ふむふむ、なるほど納得した」

我ながら低俗な理由だ。

「勝負を受けるとしたらどっちがするべきかな?」

「お前が行け、稲葉。相手が誰であろうともここは確実に勝ちに行

 く。将棋はお前の専売特許だろ?」

「了解!」

「あの……」

相手を待たせてしまった。早速駒を並べ始める。

「いいでしょう、俺がやります」

パチンと駒が心地よい音を奏でている。さあ、対局開始だ。

受験生なんで受験終わるまで更新できるかどうかわかりません。

前書いてたものをアップしてみました。

気が向いたら続きも投稿しようと思ってます。

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