閑話 憎みたくて憎んでいるのではない、憎まなければいけないのだ。
ちょっとした、彼の話。
閑話 憎みたくて憎んでいるのではない、憎まなければいけないのだ。
彼女は、僕にとって「純白」そのものであった。
人間がうまれる、前の前のこと。
異常なほどの零力を抱えて生まれた彼女は、幼い時から忌み嫌われていた。
だから、僕が拾ったんだ。
おぞましいほどの力とは正反対に、彼女は無垢で。もともと孤独だった僕は彼女に溺れて、さらに周囲に拒絶を示した。
彼女さえいればいい、なんて。狂っているか? 愛おしくて殺したい、なんて。嗤えるか?
心のどこかで愚かだと呟く自分もいた。だけど、そいつも彼女の笑顔を見たら消えていった。
彼女は大きくなって、綺麗になって。
自分の道を築いていった。強く、気高く、無双の道を。
僕は彼女を守ろう、僕が彼女を守ろう、その道も、守ろう。
変な使命感を背負って、僕は時を過ごした。
彼女が、死んだ後も。
僕みたいな存在と違って、彼女はただの亜族。創界で生まれた、そんな生き物だ。
あっけなく、掌から零れ落ちる水のように簡単に。僕との契約で不老不死になることを拒んだ彼女は若くして、僕のもとを去った。
虚ろ――世界のすべてをぐちゃぐちゃにしてやろうかと思った。でも出来なかった。彼女の道が、あの道がまだ続いていたから。
想像していたよりも彼女の道は美しく、荘厳で。その魅力に、誰かが手を染めだした。
そのぐらいなら、よかった。独占欲が邪魔をしても、彼女の生きた証がどんどん世に広まっていくのが、嬉しくて、嬉しくて。
なのに。
なのに。
人間が道を知ったら。
人間。二千年近く前に生まれた、特異種族。命を司る母なる大地の気まぐれで生まれた、高度文明を築く力を持った、生き物。
彼らは、生まれた当時、少なからず零力を持っていた。それを、彼らは使いたくて、欲が出て、彼女の道に足を踏み込んだ。
一気に穢れた。
黒く、暗く、汚泥を撒き散らし、人間は道を穢していった。
許せない、許せない、許さない、許さない。
僕に芽生えたその感情は、悲しみでも絶望でもなく、復讐だった。
僕の彼女を、彼らは冒涜したのだ。
純白の、処女雪が降った後のような、芸術的なほどに美しいその道を、彼らは侮辱した。
彼女がいないこの世界で、僕しか道を守る者はいない。
ならば、僕が守り抜こう。
もう一度、純白に染めよう。
彼女が遺した、大切な大切な宝物を穢した奴らに、もう意味はない。存在の意義はない。
消してやる、消してやろう。
「コールディマ!」
そして、もう一度名を呼んでもらうために、彼女の魂を再生しよう。
彼女が死に際に放った、世界を守るための獣たちは、道が穢れたことによって汚れてしまった。世界に害をなす、〝奇獣〟となった。
彼女のすべてを、人間が壊した。
「今度は、お前らが壊れる番だ」
僕のすべてをかけて、人間を壊そう。
さあ、時は来た! 彼女のための宴が始まる!
エルシャミット=ドルチェ、純白の彼女を、「戻そう」ではないか。
――世界なんて、ひっくり返してしまえ。
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