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Ⅱ 契約と秘零士

第二章に入ります!

 Ⅱ 契約と秘零士


「おい、博士。お客さん来ているぜ?」

 宣戦布告されるという重い出来事を引きずりながら、住処である城に返ってきた俺らを迎えたのは、そんな言葉だった。

 声の主の名はテイコ。城では、俺を含めた三人がメフィーに仕えており、彼女もその一人、唯一のメイドだった。ちなみにもう一人は本名不明の「爺や」という人物。一番の古株らしいが、メフィーも「爺や」についての細かいことは知らないらしい。

 爬虫類のような鱗を体中に纏わせる種族、有鱗族である彼女は、まるでその鱗を隠すように今日も袖の長いメイド服を着ていた。

「お客さん……え、今日もう無理。疲れた、帰る、じゃない、帰ってもらって」

 自分で列車に乗ると言いながらも、走り出した瞬間「やっぱ無理無理ッ」と半泣きになったメフィーはすっかりお疲れの様子だった。疲れたのはこっち、と言いかけるが、そこは大人の余裕で我慢。

 帰ったらおいしい紅茶を淹れてあげますからと、人目を気にせずに必死に彼女をあやした俺に褒美はないのだろうか。なんて、ありもしないことを考えたりする。

 何でも彼女曰く、列車は「鉄の檻」、ラジオは「鼓膜破り機」、写真は「魂剥奪機」なのだという。そんなこと言っているからいつまでたっても未開人なのだ。まあ、それらに対する恐怖は「食べ物」という最強兵器で消されるのだが。

「そんな身勝手なこと言ったら失礼じゃないですか」

「だって疲れたんだもん」

 唇を尖らせる。あまりにも子供な理由に、テイコと二人でため息を吐く。

「どーせ、源界からの使いのものだろう? また変なツボ買えとか言ってくるに決まっている」

「いや、博士。俺の知る限り、使者の方がツボの押し売りをしてきたことは一度もありませんよ」

「そういえばそうだね」

 何から発想を得てツボになったのか知らないが、とにかく、客がいるからには接待して貰わないと俺の恥だ。

 すると、やれやれ、と言わんばかりに肩をすくめるメフィーに、テイコがニヤリと笑いかけてきた。

「博士、後悔するぞ? 本当に帰ってもらっちゃっていいのか?」

 その言葉に、もしや、と嫌な予感がほとばしる。

 俺の予想が正しければ、今、応接間で俺らを待っているのは――俺の一番嫌いな、あいつだ。

「……やっぱ帰ってもらいましょうか。俺も疲れているし」

 正直逢いたくない。奴に逢うと面倒なことになるのはもう本能からわかっている。

「あー、悲しむだろうなぁ。大好きな博士に帰れって言われたら」

 大げさにテイコが額に手を当て嘆いた。やめろ、そんなことしなくていい。鈍感なメフィーが気づく前に帰らせろ。

「も、もしかして!」

 テイコの言葉で理解したのか、彼女の紅い目がキラキラと輝く。その表情をうかがうと、昨日、クッキーを買ってあげた時以上の笑顔がそこにあった。べ、別に嫉妬なんてしてないし! 勘違いしないでよねっ! おい待て、俺はこんなキャラじゃない。

「すぐ行く、すぐ行くから、帰さないでくれ! あー、オート。どうしよう、寝癖ひどいかもしれない!」

 先の疲れはもう吹っ飛んだのか。畜生、そのままの方が静かだったのに。

「大丈夫ですよ、いつも寝癖だらけじゃないですか」

 無理やり作った微笑みで答える。その笑みはいつも通りメフィーを怖がらせたようで、一瞬彼女の顔が引きつった。どこまでも失礼な奴である。こちとら、こんな優しい笑顔で接しているのに。という感じにちょっぴり拗ねてしまった心を押し殺し、俺はある決心をする。

 ………………逃げよう。精一杯気配を消し、かすかな音も立てずに退く。

 これ以上俺の疲労を増やさないでくれ。本心から願いながら、もう一歩、慎重に右足を後ろへ――

「っぎゃうぅ!」

 「思いっきり」の限界を超えるくらいの力で左足の脛を蹴られた。恥ずかしいほど情けない声が口から飛び出す。

 全身をほとばしる激痛。だらしなく涙が自然と出るくらいの痛みだ。メフィーにかけられた迷惑で痛む胃の辛さなんて比でもない。そのうち立っていられなくなり、その場に俺は倒れこんだ。メフィーの「何事か」とでも言いたそうな顔が視界に入る。ということは、犯人は一人しかいない。そう、仕事は丁寧なくせに性格は大雑把なあいつ。

「何しやがるんですかテイコさんっっ」

 すると、彼女は俺に視線を合わせるようにしゃがんで真顔で告げてきた。

「逃げる男は嫌いだ」

 くっ、何も言い返せない。

 特にテイコに好意を持っているわけでもないが、むしろ苦手だが、そう言われてしまうと言葉が出ない。男のプライドというやつだ。身体的ダメージに加えて精神的なダメージまで被せてきた。

「次、骨砕かれたくなかったら立ち上がって接客に励め」

「いつからあんたは俺の主人になったんですか」

「そうだ、オートのご主人様は私だぞ!」

 いまいち、流れを理解してはいないようなメフィーが、「主人」という言葉に反応して抗論する。ぷぅ、と膨れた俺のご主人様(鼻で笑っちまう)の髪を雑に撫でながらテイコは俺を見下ろした。

「頑張れよ、オート。応援しつつ、あたしは森でも散歩してくるよ!」

「結局あんたが逃げるんですかっ!」

 そういえば奴も客人のことが嫌いだったはず。どこまでもずるがしこい女だ。若干悔しさを覚えながら、何とか立って息を大きくつく。

「じゃあ、行きますか」

「そうだ、早くいかないと失礼だろうが!」

「あんたにゃ言われたくねぇんですが」

 俺の言葉を華麗にスルーし、マントについていたごみを払いながらメフィーはせっせと応接間に向かう。

 その小さな背中を、俺は嫌々ながらついていくのだった。

 ホント、憂鬱。

 

               ◆

 

 応接間の扉を開けると、やはり奴はいた。

 極上の甘い笑顔で。俺らを迎えるように両手を広げて。

 鮮やかな緋色の髪は肩よりも長く、人工品のような奇麗な面立ちとの相乗効果でどこか女性にも見える。髪色と同じ瞳は柔和に細められており、とてもうれしそうな表情がその双眸だけで読み取れた。

 控えめに柄のあるローブを羽織ったその男は、メフィーの契約者にして恋人。司揮、永炎のログアムだ。

「ひさしぶり、メフィフィル」

 俺とは対照的な柔らかな微笑みを浮かべながら、メフィーを愛称でなく本名で呼ぶ。

 優しく穏やかな声で名を呼ばれて、メフィーの顔は夕焼けのように赤く染まった。俺にもテイコにも「爺や」にも、彼にしか見せない乙女モードの彼女が俺の隣ではにかんでいる。

「逢いたかった、逢えてよかった」

「っログアム様!!」

 耐えきれなくなったように、恥じらう銀髪の乙女は愛しい人の胸に飛び込む。

 まるで物語のワンシーンのように二人は強く、お互いを確かめるように抱き合っていた。

「ああ、なんて愛おしいんだ、メフィフィル。私は君のためなら死ねるよッ」

「嬉しい、私もログアム様のためならこの首いくつでも捧げよう!」

 いやいや、色々とおかしいだろう。

 前者のログアムのセリフはよくあるものだが(……ないか)、メフィーの言葉は、うん。「あんた首一つしかないじゃん。ヒュドラかよ」となってしまう。

 お互いのためなら空まで飛べそうなこのバカップル、誰か、何とかしてくれないか? 暑苦しいし、どうしてか苛立ちも感じる。

「二年ぶりだろうか、君に逢うのは。もう、恋しくて仕方なかったよ」

「私もだ、ログアム様。あなたのことを考えると夜も眠れなかった」

「相思相愛だね」

「て、照れるじゃないか」

「そうだ、メフィフィル。今日は君にプレゼントを持ってきたよ」

「な、ログアム様は来るだけでいいのにっ。ありがとう」

「源界で採れた石で作られたピアスだ。美しい銀色は美しい君によく似合うと思って」

「ログアム様っ!」

 あ、やっぱ無理…………。

 俺の存在をさっぱり忘れたように、甘い愛の言葉を掛けあう二人。ダメだ、こういう空気は嫌いなんだよ。

 イライライライラ。

 そんな擬声語が口から洩れそうなほど、俺はイラついてしまった。何に対して? 何に対してだ? 全く見当がつかなかった。

 とりあえず、居場所をなくしてしまった俺は、音を立てずひっそりと応接間を去ることにする。

「やっぱり逃げたのか」

 何事もなく退散出来た俺を廊下で待っていたのは、特に目立つほどでもない胸を強調するように腕を組んだテイコだった。

 彼女の蒼く爬虫類のような瞳が笑いながらこちらを見てくる。

「森へ行かなかったんですか?」

「行こうとしたら、雨降って来たんだよ。しかも雷付き」

 不満そうに彼女は口を尖らせ窓を指さす。確かに外は天から降りる雫で溢れていた。よく耳を澄ますと、ゴロゴロという雷が鳴く音まで聞こえる。

「まるでお前の心を読み取ったようだな」

「は?」

「イライラしているんだろ、オート」

 図星なことを言われ、俺は正直に首を縦に振る。

「はっ、アレだな」

「嫉妬とかじゃないですよ」

「ちげぇよ、いや、ある意味嫉妬か」

 わけのわからないことを言う。怪訝そうに俺が顔をゆがめると、テイコは勝ち誇ったようにニヤリと口角を上げた。

「娘を彼氏にとられた父親の気分だろ、今」

「はぁぁあ?」

 確かにシュチュエーションは似ているが、俺が父親役? ん、言われてみればそうなのか?

「手塩にかけて育てた娘が、一丁前に男のもとへ行くんだもんなぁ。そりゃイライラするのもわかるぜ」

「別に俺、博士育てていませんけど」

 もしここに、後ろの扉の中でいちゃいちゃしているメフィーがいたら、「むしろ、育ててやったのは私だ!」と言い張るだろうか。

「いいから、いいから」

 ため息を吐きながら、テイコが俺の肩を数度叩く。その手は何だ、同情か? 俺はその手を払い、苛立ちに満ちた声で「放っておいてください」と力強く言う。自分でも、ここまで怒っている理由がわからなかった。

「ま、せいぜいがんばれや」

 行く場所のなくなった払われた手を空で振りながら、ムフフと意味ありげに笑うテイコ。

 ログアムに嫉妬しているわけではない、嫉妬なんかしていない。それはまるで自分を落ち着かせるための呪文。心の中で幾度も唱えながら、俺はテイコに踵を向けた。

 嫉妬なんか、嫉妬なんかするわけないだろ?

「あぁー、もうっ!」

 放つ所のないこのもやもやとした不安定な気持ちを、俺は髪を両手でくしゃくしゃにしながら言い放った。

 そうだ、こういう時はお菓子でも作ろう。心が波打っている時は手先を使うのに限る。こうして俺は何度もメフィーのワガママを乗り切ってきた。

 特に甘いものは好きでもないが、昔頻繁に妹に作っていたので、お菓子作りは得意っちゃあ得意なのだった。

 今日の気分はチョコレートクッキー。嗅覚があの深くて苦い香りを求めていた。

 メフィーのために甘く仕上げようか――って、俺は何故奴が満足するように考えているんだ。今日は俺のために作ろう、俺のために、思いっきり苦く作ってやる。

 

               ◆

 

「君のためなら死ねる」

 そんなログアムの言葉で昔のことを思い出した。

 きっとそれが彼の愛の形なら、俺は「イェナのためなら人も殺せる」という形になるだろう。

 何十年前か、俺が百十歳ちょっとのときだったから、イェナは七十くらいだろうか。

 母も父もいない生活に慣れ、元のようにまでは行かなくとも、平穏に暮らしていた。

 ある春の日、近所のガキ大将ケンちゃん(個人情報保護のため仮名)にイェナがいじめられたことがあった。いつもは心の傷を表に出すことの少ない強い子が泣きじゃくって家に帰ってきたのだから、よっぽどひどくいじめられたのだろう。

 許せなかった。

 全身に傷をつくって俺に泣き付いたイェナを強く抱きしめた後に、俺はケンちゃんを殴りに行った。

 全治二週間といったところか。夜真族は人間よりも体が強く出来ているので、人間にしたらどのくらいなのだろうか。ともかく、俺は人生の中で一番大きく「暴力」という手段を使った。

 俺はケンちゃんの両親、村の長老からこっぴどく怒られ、そしてイェナの周りからは友達がいなくなっていった。

 イェナは友達を強く欲しがっていた。でも、また何かが起こったら俺に迷惑がかかると思っていたのだろう。一人淋しく、読書をすることだけがイェナの遊びだった。

 幼いながらも、自分が身を置いている環境をわかっていたのだろう。小さいころから頭のいい子だった。

 そんな妹へのお詫びだった。俺は一週間に二回ほどの頻度で、イェナにお菓子を作ってやっていた。長老が子供たちに授業をする、人間でいう学校にも行かず、俺はイェナと二人で家の中にいた。

 そのころからだろうか、俺が他人に敬語を使うようになっていたのは。いつの間にか他人との距離を取るために、俺は敬語を口にしていた。

 当然、誰に倣ったわけでもないので雑で乱暴なものだったが、それで俺は相手と壁を創れた気がしていたのだ。

 生活の援助は長老が献身的にしてくれたが、それだけでは生きていけない場面も多々あった。そんな時はひとり、人間の街へ行って盗みや喧嘩に手を染めた時期もあった。人間と夜真族の俺では、体格的に不利があっても、体の「中身」、いわゆる腕力、筋力、俊敏さなどは俺の方が上回っていた。もちろん、そんなことを俺がしていたなんて、イェナは知らない。知っているのは、俺を何回も叱った長老ぐらいだ。

「ふぅ」

 生地をこねながら、俺はそんな感慨にふけっていた。

 メフィーだったら、「こんなのお菓子じゃない!」と叫ぶくらい苦いチョコクッキーが出来そうだ。

 長老は元気だろうか。

 実の親と変わらないくらい俺たちの面倒を見てくれた人物の顔が思い浮かぶ。俺が村を離れて、三十年。父と母のそれぞれの命日にひょろっとしか帰っていないので、彼の今はよくわからない。夜真族は人間の十倍は生きるが、それにしても俺の小さいころから長老は長老だった。生きているのだろうか。元気でいることを心の隅で祈る。

 生地をこね終え、作業順番を考えていると、厨房のドア越しから名前を呼ばれる。

「オート、おーい」

 テイコだった。

「あんたもよくちょくちょく出てきますね。何か用ですか?」

 手を洗い、彼女の方へ向かうと、「博士がお前を呼んでいるぜ」と告げられた。

「ログアム様は帰ったのですか?」

「いいや、何でもお前にも話があるってさ」

「ま、まさかついに二人が結婚……嫌ですよ、『お義父さん、娘さんを私に』なんて」

「おめぇ、すっかり父親気分じゃねぇか!」

 そういえばそうだ。

「ま、行ってきますよ。あ、クッキーの生地、いじらないでくださいね」

「よし、あたしに後は任せろ! ほっぺが奈落へ行くほど旨いもん作ってやらぁ!!」

「人の話聞いてます?」

 俺は急いでエプロンを脱ぎ、応接間へ足を運ぶ。

 ふと窓を見る。すると、通り雨だったのか、外はすっかり晴れていた。

 扉を開けると、テイコがいつのまにか淹れていたのか、あまりいいとは言えない紅茶の香りが鼻孔を貫いた。おかしいな、いい茶葉しか城にはないのに。

「お待たせしました」

「まあ、掛けたまえ、オート君」

 オート君だと? 気持ちの悪いことをさらっと言ったログアムに真顔で視線を向けてから、彼の向かいの椅子に座る。

 ちなみにメフィーは彼の膝の上に座っていた。どこまでいちゃつきを見せる気だ。うっとおしくてしょうがない。

「何でしょうか」

 なるたけ嫌な顔をしないように心がけながら、ログアムの言葉を待つ。

「オート君、君は今まで何度〝奇獣〟を見てきた?」

 いきなりの質問を怪訝に思いながらも、俺は素直な答えを返す。

「さあ……数えていないので。言えることは、『たくさん見てきた』ということですね。それが?」

「じゃあ、彼らの行動パターンも結構把握しているよね。私が言いたいのは一つ。今日見た〝奇獣〟、おかしかったでしょ」

 俺は頷いた。おかしかった、それどころか「〝奇獣〟の観察者」と名乗るふざけた奴まで現れた。どこから入手しているのか知らないが、ログアムはその情報を知ってこの城を訪れたのだろう。

「この頃変なんだよね」

 独り言のように呟くと、彼はメフィーの頭を優しく撫でた。撫でられて目を細めた奴は猫か何かだろうか。

「ここ一か月、現れた〝奇獣〟の九割、いや全部と言ってもいいかな。今までとは全く違う行動を見せてきたんだ。彼らが確認されてから、もう二千年以上たつけど、こんなの初めて。もちろん、放っておくわけにもいかない。そこで源界の方で調べてみたんだよ」

 一気にそう言ってから、彼は形のいい唇を舐める。異様なほど赤い舌でしたその仕草と、瞬時に真剣な光を帯びた瞳に俺は一瞬恐怖を覚えた。

 そうだ、今俺の目の前にいるのは、世界の保持者、つまり世界の主神である「界王」の子「司揮」なのだ。メフィーにデレデレな様子と、柔らかな口調で忘れていたが、彼は紛れもなくホンモノ。神と言っても過言ではない存在。

 無意識に震える拳を抑えつけて、視線を合わせてみる。緋色の双眸には息をのむ威圧感があった。

「調べてみたらどうだったんだ? ログアム様~」

 呑気な調子でメフィーがログアムを見上げる。すると彼は一瞬だけ優しげな笑みを浮かべた。

 字の如く神の子供である彼に、そんな無邪気に接しているメフィーも只者じゃないな、と心の底で思う。

「一人の人物が現在〝奇獣〟の背後にいることがわかったんだ」

「それがコールディマだったら笑えるよね、オート」

 いたずらっ子のような笑顔をしながらメフィーが言う。

 確かに。そうだったら、俺らとそいつはどれだけつながっているんだ。気色悪いのでやめて欲しい。

「ですね。感覚的に、なんかあんまり関わりたくない奴ですよね」

 緋色の髪の誰かさんほどではないけど。

「だよね~。もしこっちの件もコールディマが関わっていたら、もう奴と運命共同体になっちゃうよね」

「わー、気持ち悪い」

「っていうか、私コールディマからの宣戦布告忘れてたよ」

 いや、忘れるなよ。

「……はぁ」

 困ったようにログアムが上を向いて息を吐いた。……悪い予感がした。

「メフィフィル、オート君。その人物は、ああ、言いにくいけど、うん、コールディマなんだよね」

 本当に言いにくそうに、苦虫を噛みつぶしたような顔でログアムが告げた。

「…………」

 何とも言えない気持ちになり、俺は黙った。空気が気まずくなり、ふとメフィーの方へ顔を向けると、彼女は笑顔のまま固まっていた。瞬きだけがやたらと繰り返される。

「ま、まあ、二つの問題が一回で片づけられて、いいじゃないか」

 どんどん空気を重くする俺らをフォローするようにログアムが口を開いた。

「……よく考えれば、きじゅーのかんさつしゃ、なんて名乗る奴がコールディマの手下なんだから、〝奇獣〟の後ろについているのが奴でも納得いくね……したくないけど」

 はぁぁああ、と無駄に長い溜息を吐いてから、切り替えるようにメフィーは大きく手を叩いた。

「まとめると、ログアム様の言う通り、コールディマを倒して捕まえちゃえば全部終わるんだよね」

「そういうことですね、楽っちゃあ楽ですね」

 無理やり明るい方向に持っていこうとする俺らに、ログアムが今度は「むぅ」と唸り声をあげた。何かまだ問題がある、と言う風だ。

「いや、その通りなんだけど。君たちにコールディマを拿捕できるか。あ、力量を疑っているわけじゃないんだ。メフィフィルの秘零士としての能力は十二分。オート君も見ている限り戦闘慣れをしている。しかし。しかし、相手はあくまで司揮だ。〝奇獣〟相手とは全然違う」

 バカらしいほど真面目な顔だった。しかも一言一言が妙に重く感じる。

「ははっ」

 悩むログアムの頬に片手を当てて、メフィーは快活に笑う。その表情に彼も俺も驚いた。

「何を言っているんだい? その問題を私のもとへ持ってきたのだから、ログアム様、あなたは私たちに戦わせようとしているんじゃないか。なのに、今更そんなこと言わないでくれ」

「君たちに送られた宣戦布告のことと一石二鳥で解決できるかな、なんて軽い気持ちでここへ来たんだけど……結構簡単じゃないよ、この問題。私が君たちの手助けを出来るならいいのだけど。生憎司揮は創界で起きた問題には手を付けられない。下手に手を出したら、エレメンティアに異常が起こる可能性があるからね。……すまない」

 頭を下げるログアムに、メフィーは再び笑った。己に絶対の自信を持った、安心できる強い笑みだ。

「なぁに、ログアム様が謝ることじゃないさ。創界で起こったことは創界に住む私たちで解決してみせるよ。な、オート!」

「俺が嫌だと言っても、強引に引き込むんでしょう?」

「うん、そのつもりだ」

「だったら、はなっから戦いますよ。コールディマが何を企んでこんなことをしているのか知りませんが、色々と気に食わないですから」

 何が気に食わないのか。自分でも曖昧だが、きっとこう思っているはずだ。「亜族を守ろうとしているコールディマに対して、亜族には亜族のプライドがあって、それにそんなにやわじゃないということを示してやる」……奇妙な傲慢で歪な反発だ。俺一人が亜族の代表でもないのに、変な意地が出てしまっている。それでもいいのだ。俺の理由なんてどうでもいい、大事なのは主人であるメフィーがどう動くかだ。

「じゃあ、君たちに我が兄、コールディマの起こした問題をゆだねてもいいのかい?」

「もちろん!」

 銀髪の流れる頭が力強く縦に振られる。それを見て、俺も小さく頷いた。

「他の秘零士に応援を頼むのは……メフィフィル、嫌だろうか? やはり心配なんだよ、愛しい君を戦いに出向かせるのが」

「ありがとう。大丈夫だ。宣戦布告を受けたのは私たち、どっちにしろコールディマにはぎゃふんと言わせてやるんだ。そのついでだと思えば、こんな小さなこと気にならない」

 小さな胸を張って、メフィーが言った。

「そうだね……中途半端な私が悪かった。この永炎のログアム、君たちにすべてを託そうではないか」

「お任せあれ!」


 こうして、運命のように、俺らはコールディマと対峙することが決まったのだった。

 本当、運命ってなんなのだろう。


閲覧ありがとうございます、ホント、感謝しかできません!

まだ続くので、よろしくお願いします!

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