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プロローグ lonely  crazy  moon

こんにちは、ヒコサクです。

始めて仕上げた長編小説のプロローグです。

出来たら連載風味にちょびちょびと載せていきたいです! 

よろしくお願いします!

「運命、ですか?」


「ああ。で、オートはあると思う?」


「あってほしくないですね。面倒じゃないですか、博士みたいに」


「ねぇ、お前がそういう風に答えるのも運命なのかなぁ?」


「運命の基準って何でしょうね」


「うーん…………めぇ確じゃないね」


「つまらないですけど」


「そうさせるのが、運命じゃないかい?」


「結論が出ませんね。っていうか時間の無駄でした」


「そうなる運命なんだよ、きっと」



プロローグ  lonely  crazy  moon


午前八時三十――七分か。

 近くの塀に寄りかかりながら、俺は懐中時計が示す時刻を確かめた。

父の形見であるそれは、よっぽど質がいいものなのか、あるいは何か不可思議な術でもかかっているのか、彼是百年以上しっかりと動いている。ある意味異常である。

 午前八時三十七分……いつの間にか家を飛び出てからほぼ五時間が経過している。日の出を六時だとすると、ああ、二時間は日光を浴びっぱなしなのだった。身体がだるいのは当然だ。

 夜真族だからといって、別に太陽が毒なわけでもなんでもないのだが、ただ、いきなり長く日光を浴びてしまっては、それに慣れていない身体が混乱を起こす。先祖代々、月と夜と共に生きる者たちにとって、それほどその光や熱は強烈なものらしい。

 意識が朦朧としてくるのも時間の問題だ。自分の命の危機にしてはやけに冷静な己に多少腹が立ちながら、額の汗を拭う。暑さだけで出てきたものと違う、と本能が悟った。

 早くしなければ、早くしなければ、早くしなければ早くしなければ早くしなければ早く早く早く早く見つけなければ助けなければ探さなければ捜さなければそう、早く早く早く早く早く早く!

 イェナは俺のたった一人の肉親で、かけがえのない妹なのだ。いつも大人しくて、ちょっと泣き虫で、でも怒り出すと饒舌になる、そんな愛すべき妹なのだ。

 あいつは二週間ごとに一度ほど、夕焼けが見え始める頃俺に内緒で近くの街に出掛ける。俺が今いる、この人間の街に、だ。まだまだ子供であるイェナにとって、後で俺に怒られてしまうことよりも、騒ぐ好奇心に従う方が大事だったのだろう。嫌われてもよかった、もっと厳しく注意しとけばよかった。

 彼女は日が変わっても帰ってくることがなく、いつもより街を探索しているのかと思い待っていても、帰ってこない。ぞくりと嫌な予感だけが心に溢れ、俺は躊躇しながらも森に囲まれた村を慌てて出てここに来た。

 公園、酒場、路地裏、見るのも吐き気のする店、全速力で駆け巡ったがイェナの姿は見当たらなかった。

 もちろん土地勘があるわけでもないし、知り合いがいるわけでもない。そんな中で見つけられるとは思いもしないが、きっとどこかで自信があったのだ。「俺なら」と。

「クソッ!」

 怒りと後悔で握り締めた拳で、何年も人の手が加えられていなさそうな古い塀を力任せに殴りつける。いつもの体調であったならば、こんなもの一発で粉砕できたのだろうが、どうやら本当に力が抜けているらしい。音はしても拳が痛むだけで、塀はびくともしない。

 情けない。いつからオート・ガルフトはこんな奴になってしまったんだろう。悔し涙が頬を伝った。

「イェナ……大丈夫だよな?」

 まさか、誘拐? だとしたら、そいつは人間だと勘違いして攫っていったのだろうか。それとも、夜真族だと知っていて攫ったのか。どちらにしても許せないし、許さない。

 一度目を瞑って憤りを無理やり抑えつけると、俺は再び走り出した。

 太陽の熱で熱くなっている石畳を強く蹴って

 走り出した、が――


 足がもつれた


 格好悪く転倒した


 倒れこんだ石畳は予想以上に熱く、目を見開く。

 立ち上がろうとするが、身体に全く力が入らない。四肢が重い、胴体が動かない。

 人間が周囲によってくる気配はない。むしろ、いきなり地に伏した俺から遠ざかっていっている。

 そう、それでいい。俺に近付くな、寄るな、触れるな。

 俺はこのまま死ぬのだろうか。満足に生きていないのに死ぬのだろうか。死にたくない、それもこんな人間に囲まれた環境で死ぬなど絶対に嫌だ。

 しかし身体は自由に動いてくれない。村へ帰らせようとしてくれない。

 熱い、暑い。太陽がどんどん俺の生命力を奪っていくようだ。

 起き上がらなければ……。

 

 身体を尋常じゃないだるさが襲う。

 眠りに入る瞬間のように、意識が蕩けていく。

 それがどうしてか心地よいと感じた。

「イェナ…………ッ!」

 力を振り絞り、大切な大切な家族の名を呼ぶ。

 ごめんな、守ってやれなくて。ごめんな、さような――

 

「いやいやいやいや、勝手にぽっくりしないでよ」


 ら?

 俺にかかってきた声なのだろうか。聞き覚えのない、幼さの中に落ち着きを備えた少女の声。人間か?

「七月だよ、わかってる? 夜行性が日中歩くなんて、自殺中としか思えないね。おーろか♪」

 愚かで悪かったな。

 最後にそう思った。

「暇だし、助けてあげよっか?」

 そんな声が薄れいく意識で聞こえてくる。

 

 お願いだから、ほっといて、くれ…………



ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!

楽しんでいただけたでしょうか……? これからも続けていきたいと思います、愛読していただけると嬉しいです。

お目汚し失礼しました。またお会いできる日を!

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