第一歩 村
二作目ですどうぞ
「うっ・・・」
目を覚ますと、目の前は広大な青空だった。
やけにうるさい蝉の声で暑さも増し、
そこに存在するだけで体力が擦り削られているようだ。
そんな中、僕は木々に囲まれた空間に一人寝そべっていた。
僕は立ち上がって辺りを見回してみた。
誰もいる気配は感じない。
まるでこの世界には僕だけが生存しているかのように。
そんな空間にいてもなお考えなければならないことがある。
何故、ここに僕がいるということだ。
確か、僕は昨日、しっかりと家で寝ていたはずなのだ。
しかし、今、こうして全く検討のつかない村と思われしき場所で
目を覚まし一人でいることは事実だ。
少し不自然すぎるが深追いはしないでおこう。
いずれは答えが見つかるであろう。
どんな奇妙なミステリーでも解決できない物語なんてない。
解決できない物語などそれは物語として成立することはできない。
今はその解決の時を待とう。
僕はそう心の中で決め、村と思われしき中を歩き始めた。
こんな道中、暇だし僕の自己紹介を一応しておこう。
僕の名は最上 龍一。
将来は推理小説を書きたいと思うくらいミステリーが大好きな高校三年生。
まぁ自分から自己紹介しておいてなんだけど
こんなくだらない僕のことはさて置き、少し歩いていると民家が見えてきた。
これで物事は解決しそうだ。
そう確信したのが僕の見直すべき所だ。
どの家にも人影は一切なかった。
某ドラゴンもののRPGゲームで
やっと次の村に着いて期待して家に入ったのになにもないというような感じだ。
「ったく・・・どうなんってんだ僕の状況。」
僕の言葉も虚しく消えて、返ってくる言葉もない。
もう一度、頭を整理することにしよう。
目を覚ますと人気のない村の中で一人。
その足取りで民家に到着したが人影はない。
少し待てよ。この中では矛盾が生じているではないか。
家で寝たはずが村の中で目を覚ます時点で、
僕はとんでもない立ち位置に立ってるではないか。
どうしてそんなことも考えずのこのことここまできたんだ僕。
これじゃぁ推理小説家なんて無理にも程がある。
と心の中で嘆いているとどこからか女性の声が聞こえてくる。
その声のする方向に振り返ってみると、
黒くて長い髪のまるで絵に書いたような清楚な女の子が僕の方へ走ってきている。
「やっと見つけた私以外の人間。ここはどこなんですか?」
と彼女は僕に尋ねてきた。
しかしここで僕はきっぱりと言わせてもらいたい。
それは僕のセリフだよと。
しかし初対面でさらに女の子に向かって取る態度がそれでは
僕は人間失格、いや男として最低だ。
「それが僕も分からないのです。目を覚ますとこの村に。」
至って真摯な態度で僕は答えた。
これなら好感度も上がるであろう。
僕が発した答えを聞き彼女は膝から崩れ落ちた。
「せっかく何時間も走って見つけた人が同じ立場なんて。」
と僕を見るなり残念そうな表情で言ってきたが、
僕も言わせてもらいたい。
それは僕のセリフだよと。
しかし時間的な面に関しては彼女は数時間、僕は数分という大差があったので、僕は言い返さなかった。
「あなたもここで目を覚ましたのですか?」
真面目を装いつつも僕は彼女に尋ねた。
もちろん返ってくる返答は考えなくてもわかっていた。
「私は昨日の夜、私の部屋で寝たはずなのに目を覚ますとこんな村の中。
出口を探してみたけどどの方向に行ってもこの村に戻ってくるの。」
そうそう僕はこのような返答を・・・
少し僕は耳を疑った。
たぶん僕じゃない誰かが僕の状況下に置かれていたら全ての人が耳を疑うと思う。
「この村のなかに戻ってくるの。」
どの方向に行っても村に戻ってくる。
そんなこと普通なら存在し得ない。
でも僕が目を覚ましたこの場所ならば、それが正当化することは可能でもある。
しかしその答えが本当ならば、今の僕たちにとっては最悪の状況だ。
僕は少し撮り乱れそうになった心を冷静にして、
まずは彼女の名前を聞くことにした。
「私は比叡 寿菜。あなたは?」
今まで紳士的な態度をとってきたがやはり心が乱れているらしい。
普通ならこういう場合自分から名を名乗るべきではないのだろうか。
しかし僕の状況は最悪だ。
慌ててしまっているのも仕方がない。
「僕は最上 龍一。」
僕は自分の名をいった。
寿菜は僕と違い冷静に見える。
全く素性の分からない人とふたりっきりの空間で、
もう逃げ道もないというのに寿菜の顔には余裕があった。
比叡 寿菜。
それはもう冷静すぎて気色が悪い奴だ。
まぁまだ序盤だがね