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第八章

第八章



 七月九日・午後〇時


 この日、桧山と川田は香月瑠璃子の告別式に参列していた。香月瑠璃子の告別式は香月瑠璃子の自宅で行われていたが、参列者が五百人以上いたため香月瑠璃子の自宅前の道路には参列者の長蛇の列が出来ていた。

「それにしても凄い数の人ですね」川田が桧山に言った。

「ああ、そうだな」

「香月瑠璃子は相当人気のある占い師だったんですね」

「そうみたいだな」

 桧山と川田がそんな会話をしていると、僧侶の読経が始まった。そしてその後、焼香が始まり、焼香が始まってから四十分後に、桧山と川田に焼香する順番が回ってきた。桧山と川田は焼香台を置いてある縁側に歩を進め、焼香台の前に立つと香月瑠璃子の遺影を見た。だがその瞬間、桧山は愕然とした。

「違う・・・」桧山がボソッと呟いた。

「えっ、何が違うんですか?」

「顔だよ・・・」

「顔?」

「俺が会っていた占い師と顔が違うんだよ」

「えっ、本当ですか?」

「ああ」

「でも人の写真は、写真写りによって実物とは全く別人に見える事があるから、この遺影もきっとそうなんじゃないですか?」

「いや、そういう問題じゃないよ。俺が会っていた占い師と香月瑠璃子は顔の系統が全く違う」

「そうですか」

「ああ、間違いなく俺が会っていた占い師と香月瑠璃子は別人だ」

 桧山と川田は焼香台の前でそんな会話をしていたが、桧山達の後には焼香する順番を待つ人が沢山並んでいるので、桧山と川田は急いで焼香を済ませ、香月瑠璃子の自宅を後にした。

「桧山さんが会っていた占い師が香月瑠璃子じゃないとしたら、その占い師はどこの誰なんですかね」

「いや、全く分からんよ」

「ピリリリリリリ・・・、ピリリリリリリ」

 川田の携帯電話が鳴り、川田は急いで携帯電話を取った。

「はい、川田です。・・・・・・・・・・・・・・・本当ですか!・・・・・・・・分かりました。失礼します」

「ピッ」川田は電話を切った。

「桧山さん。『連続白骨化事件』の被害者がまた出たそうです」

「本当か?」

「はい」

「そうか・・・。じゃあやっぱり、香月瑠璃子は『連続白骨化事件』の占い師ではなかったという事だな」

「そうですね」

「じゃあ俺は何故、助かる事が出来たんだ」

「そうですよね・・・・・。あっ!もしかすると映画の『リング』みたいな事を桧山さんもしたんじゃないですか?」

「映画の『リング』みたいな事?」

「ええ。映画の『リング』では、呪いのビデオを観て呪いにかかっても、観たビデオをダビングして他の人に観せれば、呪いが解けて助かったでしょ。桧山さんも『リング』と同じ様に何かをしたから助かったんじゃないですか」

「そうかな・・・。特に何かした憶えはないけどな」

「いや、きっと何かやってるはずですよ。そうじゃないと、桧山さんだけ助かるはずがないですから」

「そうだよな」

「桧山さんが何をやって助かったかを思い出せば、『連続白骨化事件』を食い止める事が出来るはずです」

「そうだな。じゃあ、よく考えて何をやったか思い出してみるよ」

「ええ、お願いします」



 七月十日・午前十一時三十分


 桧山は昨日からずっと、自分は何をやって助かったのかを考えていた。だが、いくら考えても桧山には答えは見つからなかった。そして何気なくつけていたテレビを観ていると、ニュース番組が始まった。そのニュース番組のトップニュースで、群馬県のある町で、陶芸家の男が陶芸用の窯の中に女性を入れて、生きたまま焼き殺したという事件を報道していた。そして、その事件の被害者の女性の顔写真がテレビに映し出された時、桧山は驚愕した。

 ――― この女だ。俺が会っていた占い師は。

 桧山はすぐに川田に電話を掛けた。

「はい。川田です」

「川田。すまないが、すぐに調べてもらいたい事があるんだ」

「はい。何を調べればいいんですか?」

「陶芸家の男が陶芸用の窯の中に女性を入れて、生きたまま焼き殺したという事件の事を詳しく知りたいんだ。この事件がどういう事件なのか、詳細を調べて教えてくれ」

「はい、分かりました。でもどうして、そんな事件の事を知りたいんですか?」

「この事件の被害者の女は、俺が会っていた占い師なんだ」

「えっ!本当ですか?」

「ああ、間違いない。だから早急に調べてくれ」

「分かりました。では失礼します」


「ピリリリリリリ・・・、ピリリリリリリ」

 桧山が川田に電話を掛けてから三十分後に桧山の携帯電話が鳴った。

「はい。桧山です」

「桧山さん、川田ですけど」

「おう、お疲れさん。さっきの事件の事、詳しく分かった?」

「ええ、分かりました。被害者は三上依江、二十五歳、職業は占い師です」

「やっぱり、占い師か」

「はい。そして加害者は山田道夫、六十歳、陶芸家です。ですが山田道夫の供述によると、知人の男に脅されて仕方なく三上依江を焼き殺したらしいです」

「知人の男?」

「はい。山田道夫の知人の川内博史という男が、「三上依江を焼き殺さないとお前を殺す」と言いながら、山田道夫の頭に銃を突きつけて脅したらしいです」

「そうか。じゃあ、川内博史という男は何故、三上依江に尋常じゃない殺意を持っていたんだ?生きている人間を陶芸用の窯の中に入れて焼き殺すなんて普通じゃないよな」

「ええ。実は川内博史が三上依江に殺意を抱いたのは占いが外れた事が原因らしいんですよ」

「えっ。どんな占いが外れたんだ?」

「ええ、それがですね。川内博史は玩具会社の社長をしていたのですが、川内博史の会社から発売された玩具で売れた商品は殆んどなくて、川内博史の会社は倒産寸前だったそうです。そんな時に川内博史は、凄く当たる占い師と評判だった三上依江に、どんな玩具を創れば売れるのかを占ってもらい、助言を聞いて、その助言通りの玩具を創ったんです。そしてその玩具を発売すると、かなりのヒット商品となって川内博史の会社は持ち直す事が出来たそうです。それで川内博史は三上依江の占いは絶対に当たるものだと信じ込み、三上依江に次はどんな玩具を創れば売れるのかを占ってもらい、助言してもらった通りの玩具をまた創りました。でも、この時創った玩具は開発費用がかなり掛かった上に、製造費用もかなり掛かる商品でした。ですが、絶対に売れると確信していた川内博史はこの玩具を百万個製造し発売しました。しかし、この玩具は全然売れず、これが原因で会社は倒産したそうです」

「なるほど。三上依江の占いが外れてしまったから、玩具が売れず会社が倒産したんだな」

「ええ。ですからその後、川内博史は何度も三上依江の所に行き、『俺の代わりに借金を返せ』とか『占いが外れた事を謝れ』とか言っていたらしいんですけど、三上依江は謝ったりせず、『占いは百パーセント当たるものではありません』と言って、川内博史の事を相手にしなかったそうです」

「そうか。川内博史は、占いを外したのにそういう態度を取る三上依江に腹を立てたって訳か」

「ええ。そしてその後、川内博史が三上依江に対して強い殺意を抱く出来事が起こってしまったんです」

「何が起こったんだ?」

「実は川内博史には、ガンと闘病中の妻がいたんです。川内博史には子供が居なかったため、妻だけが家族であり、最愛の人でした。でも、その妻が自殺したんです。夫の川内博史には、会社が倒産して莫大な借金があるのに、自分のガンの高額な治療費を払ってもらう事によって、夫の借金が増えてしまうのを申し訳なく思い、川内博史の妻は自殺したそうです。川内博史は会社が倒産した上に、最愛の人まで亡くしてしまい、完全に生きる希望を失いました。それと共に、こうなってしまったのは三上依江が占いを外したせいだと考えて、三上依江に対して異常なほどの憎悪と殺意を抱くようになりました」

「なるほど。そういう事だったのか」

「ええ。そして川内博史は、今から約一ヶ月前の六月四日に殺しを実行する事にしたんです。六月四日の深夜、三上依江が占いの仕事を終えて帰宅している所を川内博史は襲い、クロロホルムを使って眠らせました。そして眠っている三上依江を群馬県にある山田道夫の自宅に連れて行き、陶芸用の窯の中に三上依江を入れました。しかし、すぐには殺しませんでした。何故なら、眠っている状態よりも目覚めている状態の方が、恐怖と焼け死ぬ苦しみを味あわせる事が出来ると考えたからです。そして午前八時二十分に三上依江は目を覚まし、窯の中で『ここから出して』、『助けて』という声を上げていたそうです。山田道夫は川内博史に『こんな事は止めよう』と言ったそうですが、川内博史は『三上依江は魔女だ。魔女は焼き殺さなければならない』と言い、更に『三上依江を焼き殺さないのならお前を殺す』と言いながら、山田道夫の頭に銃を突きつけて脅したそうです」

「だから、山田道夫は仕方なく殺したって訳か」

「はい。三上依江は窯の中で焼かれながら『熱い』、『助けて』と何度も叫んでいたそうですが、最後に『この怨みは必ず晴らしてやる』という言葉を残して、何も喋らなくなったそうです。この時に三上依江は死んだと思われますが、証拠をなくすために丸一日、三上依江の遺体を焼いて灰にしようとしたらしいです。ですが、丸一日経って窯を開けたら、三上依江の遺体は灰になっておらず、学校の理科室に置いてある骸骨の模型の様にキレイに骨が残っていたそうです。そして、川内博史は三上依江の白骨死体を見ながら『ざまぁみろ、バカヤロー』と言い、すぐに自らの頭を銃で撃って自殺したそうです。それを見ていた山田道夫は、この後、どうしたらいいのか分からなくなり、とりあえず都内に逃亡し、カプセルホテルに泊まって生活をしていたのですが、お金が尽きてしまったため、昨日、警視庁管轄の警察署に自首して来たそうです」

「なるほど。これが事件の全容って訳だ。この事件の話を聞いて『連続白骨化事件』の占い師が三上依江だという事を確信したよ。三上依江は、怨霊となり川内博史に復讐するつもりだったんだろうが、その川内博史が自殺していなくなってしまった。行き場をなくした三上依江の怨霊は、街に出て来て怨みをぶつける相手を探し出し、『連続白骨化事件』を起こしているんだろうな」

「ええ、そうでしょうね。それと、少し補足があるんですけど、三上依江は街頭占い師なのですが、同じ場所にずっと居る訳ではないらしく、ある一定の期間が過ぎると場所を変えて街頭占いをしていたようです。そして次に、街頭占いをしようといていた場所は栄道商店街だったそうです」

「そうか。だから俺や岡島和義は栄道商店街で三上依江と会ったのか」

「ええ」

「とにかく早く三上依江の怨霊を成仏させるか、俺が何をやって助かったかを思い出さなければ『連続白骨化事件』の被害者は増えるばかりだな」

「ええ。ですから、桧山さん。今は三上依江の怨霊をどうすれば成仏させる事が出来るのか分からないですから、桧山さんが何をやって助かったかを思い出す事が『連続白骨化事件』を食い止める唯一の方法です。ですから出来るだけ早く、何をやって助かったかを思い出して下さい」

「ああ、分かったよ」



 七月十一日・午前二時


 眠っていた桧山が息苦しさを感じ、目を覚ました。すると身体が硬直し、手足を動かす事も、声を出す事も出来ない金縛り状態になっていた。しかし、目だけは動かす事が出来たので、目を動かして辺りを見回していると、桧山のベッドの左横に黒装束を着て、うつむいて黒のロングヘヤーで顔が隠れた女が立っていた。

 ――― この女は誰だ。まさか、三上依江か?

「そうです」女は小さな声で淡々と言った。

 ――― 俺は声を出してないのに、この女は「そうです」と答えた。この女は俺の考えている事が分かるのか?

「分かります」

 ――― やはりそうか。でも、どうしてお前が俺の所に来ているんだ?

「あなたの死を見届けるためです」

 ――― 俺の死を見届ける?いったいどういう事だ?

「私は七月三日の午前二時に、あなたが今日死ぬという事を言ったはずです」

 ――― えっ。お前は七月三日の午前二時に「お前は四日後に死ぬ」と俺に言っていたから、俺が死ぬのは七月七日の午前二時だったはずだぞ。

「いいえ、違います。どうやらあなたは、私の言った事をよく聞き取れてなかったようですね」

 ――― 聞き取れてなかった?いったい何を聞き取れてなかったと言うんだ?

「私はあなたに『ヨッカゴ』に死ぬと言ったのではなく、『ヨウカゴ』に死ぬと言っていたのです。つまり、あなたが死ぬのは七月三日の八日後である今日なんですよ」

 ――― そ、そうだったのか。じゃあ、俺は助かった訳じゃなかったんだ。

「もうそろそろ時間です」三上依江はそう言うと、うつむいていた顔を上げた。すると黒のロングヘヤーに隠れていた顔がハッキリと見えた。だが、その顔は以前見た美しい顔ではなく、皮膚が酷く焼きただれたおぞましい顔だった。

「私と同じ苦しみを味わって下さい」三上依江がそう言った後、桧山の身体が温かくなって来た。だが温かいと思ったのは束の間で、すぐに熱いと感じるようになった。そして桧山の身体はどんどんと熱が上がって行った。

 ――― 熱い。異常なほどに熱い。まるで身体を火で焼かれてるようだ。

 桧山の身体は更に熱を上げて行き、やがて桧山の身体は何千度もの熱を帯びていた。そして、桧山の肉体が蒸発し始めた。

 ――― な、なんて熱さだ。も、もう駄目だ。グウァ―――――――――――ッ!


桧山の肉体は蒸発し、ベッドの上に骨だけがキレイに残った。









「あ〜あ。今日も良い事なかったな」

「ちょっと、そこのお方」

「何?」

「幸せになりたいと思いませんか?」


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