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第七章

第七章



 七月六日・午後五時


 この日の午前五時半から、香月瑠璃子の遺体を見つけるために、黒武山トンネルの東側出口辺りの林の中を川田達が捜索してくれていた。だが、遺体はなかなか見つからず、時刻は午後五時になっていた。

「ピリリリリリリ・・・、ピリリリリリリ」

 桧山の携帯電話が鳴り、桧山は急いで携帯電話を取った。

「はい、桧山です」

「桧山さん、遺体が見つかりました」

「本当か?」

「はい。遺体は青いシートに包まれて、地面に埋められていました。遺体は完全に白骨化しています」

「そうか。じゃあすぐに歯型の照合をして、香月瑠璃子かどうか確認してくれ」

「はい。分かりました。じゃあ、失礼します」

「ピッ」桧山は電話を切った。

 ――― 歯型の照合結果を待つまでもなく、発見された遺体は香月瑠璃子に間違いない。これで岡島明義を逮捕できる。

 桧山は岡島明義とすぐに会って話をしようと思い、民集党の党本部に連絡を入れた。だが岡島明義は今、地方へ遊説に行っているため、午後十一時に党本部で面会する事になった。


 そして午後十一時になり、民集党の党本部の党首室に桧山は来ていた。

「どうですか、刑事さん。香月瑠璃子さんの遺体は見つかりましたか?」岡島明義が自信有り気に桧山に聞いた。

「ええ。見つかりましたよ」

「えっ!本当ですか?」岡島明義は驚いた表情で言った。

「はい」

「・・・刑事さん。もしかして、私に鎌をかけて自白させようとかいう魂胆なんじゃないですか?」

「いいえ、違います。本当に香月瑠璃子さんの遺体は見つかりました」

「いや、そんなはずはないですよ」

「何故、岡島先生は『そんなはずはない』と言い切るんですか?」

「それは、十五年前に起きた事件の被害者の遺体をこんな短期間で見つける事なんて不可能だからですよ」

「でも犯人が自白したとすれば、遺体を見つける事は可能ですよ」

「いや、犯人は自白してないですよ」

「何故、岡島先生は『犯人は自白してない』と言い切るんですか?」

「だって、そもそも犯人が誰だか分からない訳ですから」

「いいえ。さっき岡島先生が『犯人は自白してない』と言い切ったのは、犯人である自分は自白していないし、死体遺棄の共犯者である安田正一さんも、岡島先生が岡島義雄氏の恩を盾に圧力をかけたから、自白している訳がないという確信があるからなんじゃないですか?」

「いいえ、違います」

「そうですか。でも、香月瑠璃子さんの遺体は本当に見つかってますよ」

「じゃあ、どこで見つかったんですか?」

「黒武山トンネルの東側出口辺りの林の中です」

「そ、そうですか」

「はい。香月瑠璃子さんの遺体は青いシートに包まれて、地面に埋められていたそうです」

「そ、そうですか」

「ええ。これで確実に岡島先生が犯人だという事が立証出来ます」

「・・・いや、立証出来ませんよ」

「どうしてですか?」

「以前、『青いシートで包んだ死体らしき物を赤いフェラーリのトランクの中に入れて、走り去って行った』という目撃証言があったと言っていましたが、その赤いフェラーリが私の物であるという証拠がないと私が犯人だとは立証出来ないですよ。もしかすると私以外にも、赤いフェラーリを所有していて香月瑠璃子さんと係わりがあった人がいたかもしれないですからね」

「そうですか。でも青いシートで包んだ香月瑠璃子さんの遺体を、トランクの中に入れて走り去って行った赤いフェラーリが岡島先生の物だという証拠はありますよ」

 桧山はそう言うと十五年前に黒武山で岡本が撮った赤いフェラーリの写真を岡島明義に見せた。

「この写真に写っている赤いフェラーリは、間違いなく岡島先生のフェラーリですよね?」

「いや、どうですかね。確かに私が所有していたフェラーリに似てますけど」

「いや、間違いなく岡島先生のフェラーリですよ。この写真に写っているナンバープレートから、岡島先生が十五年前に所有していた車だという事を確認しています」

「そうですか。でも何故この写真で、香月瑠璃子さんの遺体を、トランクの中に入れて走り去って行った赤いフェラーリが私の物だという証拠になるんですか?」

「この写真は十五年前の七月七日の午前三時頃に、黒武山トンネルの東側出口を出た所に駐車されていた赤いフェラーリを私の友人が撮影した物です。言い換えれば、この写真を撮影した日時は香月瑠璃子さんが失踪した夜で、この写真を撮影した場所は香月瑠璃子さんの遺体が発見された林のすぐ近くの場所なんです。つまり、この日時、この場所に、岡島先生の赤いフェラーリが駐車されているという事は、岡島先生が香月瑠璃子さんの遺体をこの場所まで赤いフェラーリで運んで行き、林の中に埋めた事の証拠に他ならないんです」

「・・・なるほど。確かに刑事さんの言う通り、この写真は、私の赤いフェラーリで香月瑠璃子さんの遺体を運び、林の中に埋めた証拠になりますね」

「ええ」

「でも、私は香月瑠璃子さんを殺していないし、遺体も運んでないですよ」

「えっ、どうしてですか?さっきは、『この写真は、私の赤いフェラーリで香月瑠璃子さんの遺体を運び、林の中に埋めた証拠になる』と言ったじゃないですか」

「確かにさっきそう言いましたが、私自身が遺体を運んだとは言っていません」

「えっ。いったい、どういう事ですか?」

「十五年も前の事だったので、すっかり忘れてましたけど、香月瑠璃子さんが失踪した日の夜は、大学時代の友人に私の赤いフェラーリを貸していたんですよ。実は、この大学時代の友人も香月瑠璃子さんに好意を寄せていて、よく香月瑠璃子さんの所に会いに行っていましたから、もしかするとこの大学時代の友人が香月瑠璃子さんを殺して、遺体を私のフェラーリで運んだんじゃないですかね」

「・・・そうですか。じゃあ、その大学時代の友人の方の名前と連絡先を教えて頂けますか?」

「ええ、いいですよ。ただ、その大学時代の友人は五年前に交通事故で亡くなってますけどね」

「・・・なるほど。死人に口なしって事ですか」

「刑事さん。人聞きの悪い事を言わないで下さいよ。私は本当の事を言っているだけなんですから」

「そうですか・・・」

「刑事さん、残念でしたね。せっかく私の赤いフェラーリで香月瑠璃子さんの遺体を運び、林の中に埋めた証拠を見つける事が出来たのに、容疑者はもう既に死んでしまっているんですからね」

「・・・岡島先生。間違いなく香月瑠璃子さんを殺したのは、あなたです」

「刑事さん。まだ、そんな事を言っているんですか。刑事さんは香月瑠璃子さんの遺体を私の赤いフェラーリで運んだ証拠は見つけましたが、私自身が香月瑠璃子さんを殺し、遺体を運んだ証拠は見つけていないじゃないですか」

「いいえ。岡島先生が香月瑠璃子さんを殺した証拠はあります」

「本当ですか?」

「はい」

「じゃあ、その証拠を見せて下さい」

「いや、残念ながら、その証拠は、まだ私の手元には届いていません」

「刑事さん。本当は私が香月瑠璃子さんを殺した証拠なんてないんでしょ?時効まで、あと一時間もないもんだから、そんな嘘をついて、何とか私から自白を得たいと思っているだけなんでしょ?」

「いいえ、違います。岡島先生が香月瑠璃子さんを殺した証拠は本当にあります」

「じゃあ、それはどんな証拠なんですか?」

「すみません。その質問に答える前に、私の方から質問させてもらってよろしいですか?」

「ええ、いいですよ」

「香月瑠璃子さんが失踪した日の夜は、大学時代のご友人に岡島先生の赤いフェラーリを貸していたそうですが、その大学時代のご友人は、お仕事は何をされていましたか?」

「普通の会社員ですよ」

「その大学時代のご友人は、国会議員の選挙に出馬して当選された事はありましたか?」

「いいえ。選挙に出馬した事など一度もないです」

「そうですか。ではやはり、岡島先生が香月瑠璃子さんを殺した犯人です」

「どうしてですか?」

「実は香月瑠璃子さんの遺体は、『ある物』を手に握り締めていたそうです。香月瑠璃子さんは自分を殺した犯人が誰かを知らせるために、殺されている最中に必死でその『ある物』を犯人からむしり取ったのでしょう」

「何ですか、その『ある物』って?」

「議員バッジですよ」

「えっ!」

「岡島先生が赤いフェラーリを貸した大学時代のご友人は、選挙に出馬した事がないのですから、議員バッジを持っている訳がない。つまり、香月瑠璃子さんを殺したのは、議員バッジを持っている国会議員の岡島先生しかいないんですよ」

「・・・なるほど。その議員バッジが、私が香月瑠璃子さんを殺した証拠という訳ですか」

「そうです。おそらく岡島先生は香月瑠璃子さんを殺した翌日には、議員バッジをなくしている事に気付いていたでしょうが、まさか香月瑠璃子さんが持っているとは、思ってもなかったんじゃないですか?」

「・・・いいえ」

「じゃあ、議員バッジを香月瑠璃子さんが持っている事を知っていたんですか?」

「・・・いいえ」

「じゃあ、議員バッジをなくしている事に気付いていた時、どう思ったんですか?」

「・・・私は議員バッジをなくした事はありません」

「えっ、じゃあ、香月瑠璃子さんが持っていた議員バッジは誰の物だと言うんですか?」

「父です」

「えっ?」

「父の議員バッジに間違いないと思います。先ほどは、『香月瑠璃子さんが失踪した日の夜は、大学時代の友人に私の赤いフェラーリを貸していた』と言いましたが勘違いでした。香月瑠璃子さんが失踪した日の夜に、私の赤いフェラーリを貸した相手は父でした」

「・・・つまり、岡島義雄氏が香月瑠璃子さんを殺したと言うのですか?」

「残念ですが、そうなりますね」

「岡島先生。そんな嘘を言ったら天国で岡島義雄氏は悲しみますよ」

「いや、本当の事ですから、しょうがないですよ。父は議員バッジも持っていたし、香月瑠璃子さんが失踪した日の夜に、私の赤いフェラーリを乗っていたんですから、間違いなく父が犯人です」

「岡島先生。そこまでして、罪から逃れたいですか?」

「いいえ。私はただ本当の事を言っているだけです」

「・・・そうですか」

「刑事さん、残念でしたね。短期間に色々と証拠を見つけたのに、私が犯人だという決定的な証拠はなかった。結局、香月瑠璃子さん殺しの犯人は父という事で、時効を迎える事になりそうですね」

「・・・いいえ。岡島義雄氏は香月瑠璃子さんを殺した犯人ではありません」

「いや、犯人は父ですよ」

「いいえ。岡島義雄氏が犯人である訳がないんです」

「どうしてですか?」

「岡島先生は、議員バッジの裏に文字が書かれている事を当然、ご存知ですよね?」

「ええ、勿論知っていますよ。議員バッジの裏には、第何回議員選挙という文字が書かれています」

「ええ、その通りです。つまり議員バッジの裏の文字は、第何回の議員選挙で当選して支給された議員バッジなのかを表しています。そして香月瑠璃子さんの遺体が手に握り締めていた議員バッジの裏には、第三十九回議員選挙と書かれているそうです。ですが、この第三十九回議員選挙には岡島義雄氏は出馬していません。岡島義雄氏はこの第三十九回議員選挙公示の数週間前に女性スキャンダルが発覚し、自労党内で問題となり、選挙に出馬するのを自粛したんです。ですから、第三十九回議員選挙当選の議員バッジを持っていない岡島義雄氏が犯人という事はありえないんです」

「な、なるほど」

「犯人は第三十九回議員選挙で当選をし、その時に支給された議員バッジを持っていた人なんですよ」

「そ、そうですか」

「岡島先生は第何回の議員選挙で初当選されたんですか?」

「い、いや、覚えてないですね」

「じゃあ、私が代わりに答えます。岡島先生は十五年前の第三十九回議員選挙で初当選されています。当然、その時に支給された議員バッジを持っていたはずです。つまり、犯人は岡島先生、あなたですよ!」

 桧山がそう言うと、岡島明義は桧山の目を見つめたまま、黙り込んでしまった。そして数秒後、突然床に土下座した。

「刑事さん、お願いです。どうか私の事を見逃して下さい」

「岡島先生、止めて下さい」

「いや、お願いします。私には、どうしてもやらなきゃいけない事があるんです。私は今の日本を変えなきゃいけないんですよ」

「岡島先生・・・。私も岡島先生以外に今の日本を変えられる人間はいないと思っています。だからそれだけに、先生を逮捕しなくてはならないのは凄く残念ですよ・・・」

「刑事さん。そう思っているのなら、お願いですから見逃して下さい。私は今回の選挙で政権交代を果たし、総理大臣となり、本当の改革をして日本を変えて見せます。私にはそうしなければならない義務があるんです。私が今、そうしないと日本の未来は明るいものではなくなるはずです。だから、お願いです。私の事を見逃して下さい」

「・・・岡島先生。それは出来ません。確かに明るい未来の日本を作るためには、岡島先生は必要不可欠な人間です。ですが誰であれ、罪を犯した人間は、その罪を償わなくてはなりません。ですから岡島先生を見逃す事は出来ません」

「・・・そうですか。これだけお願いしても駄目ですか?」

「はい」

「でも刑事さん。今さら私を逮捕しても無駄な事は分かってますよね?」

「えっ。それは、どういう事ですか?」

「時効の事ですよ。私を今、逮捕しても確実に時効は成立するじゃないですか」

「いえ、時効は成立しませんよ」

「刑事さん。もしかして時効がどういうものなのか、きちんとした知識を持ってないんじゃないですか?」

「いえ、きちんとした知識を持ってるつもりですけど」

「じゃあ、分かってるでしょ。時効を迎える前に逮捕するだけじゃなく、起訴もしないと時効が成立してしまう事を。時効までは、あと一時間もないんですから、私を逮捕したとしても起訴する事は不可能です。ですから、今さら私を逮捕しても、時効が成立して、私は無罪放免となるんですから、逮捕する事なんて無意味ですよ」

「いえ、逮捕する事は無意味ではありません。仮に起訴出来なくても、岡島先生を逮捕すれば、マスコミを通じて岡島先生が人殺しだという事が日本中の人々に知れ渡り、岡島先生は政治家生命を絶たれ、社会的制裁を受ける事になります」

「なるほど。やはり、私を逮捕するのは、それが狙いなんですね」

「いいえ。時効を迎える前に岡島先生を起訴する事が十分に可能ですから、逮捕するんですよ」

「いや、起訴をするのは無理ですよ」

「いえ、出来ますよ。岡島先生は仕事やプライベートで海外へ何度か渡航されていますよね。ご存知かもしれませんが、海外渡航している間は時効は停止します。岡島先生はこの十五年間で約六十日の海外渡航期間があるため、時効は約二ヶ月後になっているんですよ。ですから起訴する事は出来ます」

「そうでした。海外渡航している間は時効は停止するんでしたね」

「ええ」

「はぁー・・・。もう、完全に私の負けですね」

「ええ」

「分かりました。もう観念します。じゃあ、この事件を解決した優秀な刑事さんの手で私を逮捕して下さい」

「いえ、私は逮捕出来ないんですよ」

「えっ、どうしてですか?」

「実は私は今、自宅謹慎中の身なんですよ。ですから今、他の刑事達が逮捕状を持って、こちらに向かっています」

「そうですか」

「はい。・・・でも岡島先生。何故、岡島先生は香月瑠璃子さんを殺してしまったんですか?」

「・・・私が瑠璃子と初めて会ったのは十五年前の選挙中の事でした。私がその当時、出馬していた選挙区は大混戦の選挙区で、誰が当選するのか全く分からないと言われる状況でした。そんな時、栄道商店街によく当たる占い師が居るというのを聞いて、『選挙に当選するにはどうしたらいいか』という事を占ってもらおうと思い、栄道商店街の瑠璃子が占いをしている所へ行きました。ですが、瑠璃子の顔を見た瞬間、彼女に一目惚れをしてしまい、選挙の事なんか忘れてしまうほどでした。それからの私は、瑠璃子とどうしても交際がしたいと思い、暇を見つけては瑠璃子に会いに行き、必死に口説いていました。自慢じゃありませんが、学生時代から私は結構モテていたんで、交際を申し込んで振られた事など一度もありませんでしたから、瑠璃子とも絶対、交際出来ると思っていました。ですが、瑠璃子はどんなに口説いても私には全然なびいてくれませんでした。ですからその頃『瑠璃子はどうして俺と交際してくれないんだろう』と色々悩み考えていました。その結果『今迄は結構軽いノリで交際を申し込んだり、口説いたりしていたから駄目だったのかもしれない』と思い、瑠璃子の誕生日である七月七日に真剣に交際を申し込む事にしました。そして七月七日の午前〇時半に栄道公園へ瑠璃子を連れて行き、私は『結婚を前提に交際してもらえないかな』と言い、数百万円する指輪を彼女に渡そうとしました。すると瑠璃子は『あんたバカじゃないの。ちょうどいい機会だからハッキリ言うけど、あんた、しつこ過ぎて気持ち悪いのよ。あんたの顔、見てるだけで吐き気がする。だから、あんたとなんか死んでも結婚したくないわよ。それに週刊誌であんたの父親の女性スキャンダルの記事を読んだけど、あんたの父親は本当に変態だね。あんたの一家は政治の名門一家じゃなくて、変態の名門一家だよ。気持ち悪いから、二度と私の前に現れないで』と言い、その上、私が渡そうとした指輪を手に取ると『こんな物で私の気を惹こうとしても無駄だよ』と言って、その指輪をゴミ箱に投げ捨てました。その瞬間、私は一気に頭に血が上り『侮辱するな!謝れ!』と大きな声で瑠璃子に言ったのですが、瑠璃子は謝るどころか、私に罵倒の言葉を浴びせるばかりでした。そして瑠璃子と言い争いをしている内に、私は怒りで我を忘れてしまい、気が付くと瑠璃子の首を絞めて殺していました・・・」

「なるほど。そういう事だったんですか」

「ええ。若気の至りでした。今なら感情をコントロールして、あれ位の侮辱なら耐える事が出来るのに、あの頃は出来なかった・・・」

「そうですか・・・」

「トン、トン」

 ドアをノックする音がし、桧山と岡島明義が党首室の入り口の方を見ると、川田と数人の刑事が党首室の中へ入って来た。そして一人の刑事が岡島明義に逮捕状を見せ、岡島明義を連行して行った。桧山と川田は連行される岡島明義の後をついて行き、党本部の駐車場で、岡島明義がパトカーに乗せられて走り去って行くのを見送った。

「桧山さん。これで全部終わったんですね」川田が桧山にしみじみと言った。

「ああ」

「これで香月瑠璃子は成仏して、桧山さんは死ぬ事はなくなったし、新しい被害者も出る事はなくなった。万事解決ですよね」

「・・・川田。その事なんだけどな。『岡島明義を逮捕して香月瑠璃子の遺体を見つければ、香月瑠璃子は成仏する』というのは、あくまでも俺の推測に過ぎないだろ。だから、香月瑠璃子は成仏していない可能性もあると思うんだ。それで川田に頼みがあるだけどさ」

「何ですか?」

「今日は朝早くから香月瑠璃子の遺体の捜索をしていたから疲れているとは思うんだけど、今日は夜が明けるまで俺と一緒に居てくれないかな?」

「えっ、別にいいですけど。何故ですか?」

「もし香月瑠璃子が成仏してなければ、俺は今晩、死ぬ事になるだろ。だから俺が死ぬ時、どんな死に方をするのかを見ててほしいんだ。俺の死に方を見ておけば、もしかしたら『連続白骨化事件』を食い止めるヒントが得られるかもしれないだろ。だから頼むよ」

「分かりました。でも大丈夫だと思いますけどね。香月瑠璃子は成仏しているはずですよ」

「ああ。そうだといいけどな」

 この後、桧山と川田は桧山の自宅マンションへ移動した。桧山と川田は深夜のテレビ番組を観て適当な話をしながら時間を過ごしていた。そして気が付けば時刻は午前二時を過ぎていた。

「あれ、桧山さん。もう午前二時十分になってますよ」

「あっ、本当だな」

「確か桧山さんが香月瑠璃子に『お前は四日後に死ぬ』と言われたのは、七月三日の午前二時位だったんですよね?」

「ああ」

「じゃあもう、その予言された時間は過ぎてるじゃないですか」

「そうだな」

「やっぱり大丈夫でしたね」

「ああ。本当だな」

「でも一応、朝まで起きときますか?」

「ああ、頼むよ」

 この後、桧山と川田は午前六時まで起きていたが何も起こらなかった。

「桧山さん。やっぱり香月瑠璃子はちゃんと成仏したみたいですね」

「ああ。俺が生きているという事はそうだろうな」

「やりましたね。これで『連続白骨化事件』も終わったんですよ」

「そうだな」

「でも、『連続白骨化事件』を科学的に証明する事は出来ないですから、迷宮入り事件になるんでしょうね」

「ああ、そうなるだろうな」

「それにしても疲れましたよ」

「ああ、そうだったな。お前は昨日、遺体捜索をした上に、もう二十四時間以上も起きている状態だったな。悪かったな、付き合わせて」

「いや、いいですよ」

「じゃあ、ありがとう。もう家に帰ってゆっくり休んでくれ」

「はい、分かりました」川田はそう言うと立ち上がり、玄関の所まで行った。「じゃあ、失礼します」

「おう、またな」

 川田が帰って行くと、桧山はすぐにベッドに横になり眠りについた。



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