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第五章

第五章



 七月四日・午前十時


 桧山は岡島明義に会うために、岡島明義が遊説をしている駅前に来ていた。駅前の広場は、一万人以上はいると思われる聴衆で埋め尽くされていた。岡島明義は選挙カーの上に立ち、民集党が政権を取った暁には、今、日本が抱えている問題を必ず解決して、明るい未来を作ってみせるというような事を聴衆に熱く訴えかけていた。そして岡島明義が演説を終えて選挙カーから降りてくると、桧山は岡島明義に近づいて行き話し掛けた。

「おはようございます」

「あっ、刑事さん。おはようございます」

「すみません、大事な話があるので、二人きりで話がしたいのですが」

「ああ、いいですよ。じゃあ、選挙カーの中で話をしましょう」

「はい、すみません」

 桧山と岡島明義は選挙カーの中へ入って行き、二人きりで話をする事になった。

「お忙しい中、すみません」桧山が岡島明義に言った。

「いや、いいですよ。刑事さんは、私を支持してくれてる人の一人ですから」

「そうですか・・・」

「で、大事な話って何でしょう?この前も言った通り、弟の事件について私が知っている事は何もないですけど」

「いえ、今日は弟さんの事件の事を聞きに来た訳ではありません」

「そうですか。じゃあ、何を聞きたいのですか?」

「香月瑠璃子さんの事です」

「香月瑠璃子さん?誰ですかそれは」

「ご存知ないですか?」

「はい。知らないですね」

「香月瑠璃子さんは、十五年前に栄道商店街の八百屋の横で、占いをしていた女性です。ご存知ないですか?」

「はい、知らないです」

「本当ですか?」

「本当ですよ。何故、そんなに香月瑠璃子さんという方の事を私に聞くんですか?」

「香月瑠璃子さんは十五年前の七月六日の深夜に突然失踪しました。でも自ら失踪するする理由がない事から、事件に巻き込まれたものと考えています。それで今、香月瑠璃子さんと関係している方に聞き込みをしています」

「私が香月瑠璃子さんという方と関係していると言うのですか?」

「はい」

「何を言ってるんですか。さっきから言っているように私は香月瑠璃子さんという方の事は全く知らないですよ」

「いえ、そんなはずはありません。岡島先生は十五年前、毎日のように香月瑠璃子さんと会っていたはずです」

「会ってないですよ。何を根拠にそんな事を言っているんですか?」

「八百屋のご主人が、岡島先生が毎日のように香月瑠璃子さんの所に来ていたのを目撃しています」

「そんなはずはないですよ。きっと八百屋のご主人が、人違いをしてるんですよ」

「いえ、八百屋のご主人は、岡島先生に間違いないと言っています。岡島先生は十五年前の議員選挙で初当選して、国会議員になり、岡島義雄の息子が国会議員になったと話題になって、岡島先生はその頃、テレビとかによく出ていた。八百屋のご主人は、テレビで見ていた岡島先生が香月瑠璃子さんの所に来ていたからビックリして、こんな機会は滅多にないだろうと思い、岡島先生に握手をしてもらったそうです。でも岡島先生は、それから毎日のように香月瑠璃子さんの所に来ていたと八百屋のご主人は証言しています」

「そうですか・・・。十五年前ね・・・・・。あっ、そういえば、占い師と毎日のように会ってた時期がありましたね。今、思い出しましたよ」

「そうですか」

「ええ、十五年も前の事だから、すっかり忘れてましたよ。すみません」

「ではどういう理由で、毎日のように香月瑠璃子さんの所に行っていたんですか?」

「それは勿論、占いをしてもらうためですよ」

「そうですか。でも毎日のように行っていた訳ですから、岡島先生には相当悩んでいる事とか相談したい事とかがあったんですね」

「え、ええ、そうですね。何せ新人議員の時でしたから、悩み事は尽きませんでしたよ」

「そうですか。ちなみに香月瑠璃子さんのお父さんの証言では、香月瑠璃子さんの所に毎日のように来て、しつこく交際を迫って来る男が居るので、香月瑠璃子さんは困っていると言っていたらしいです」

「まさか、香月瑠璃子さんにしつこく交際を迫った男が私だと、刑事さんはおっしゃるつもりじゃないでしょうね?」

「はい。香月瑠璃子さんにしつこく交際を迫った男は岡島先生です」

「何を言ってるんですか、刑事さん。私が香月瑠璃子さんにしつこく交際を迫っていた男だという証拠でもあるんですか?」

「はい。香月瑠璃子さんにしつこく交際を迫っていた男は政治家で、その男の父親も偉い政治家だと香月瑠璃子さんはお父さんに言っていたそうです。だから間違いなく、香月瑠璃子さんにしつこく交際を迫った男は岡島先生です」

「・・・あのね、刑事さん」

「何でしょう?」

「あなたは『連続白骨化事件』の捜査を担当してるんでしょ。何で十五年も前に失踪した女性の事を調べたりしてるんですか?」

「それは『連続白骨化事件』に香月瑠璃子さんが関係しているからです」

「『連続白骨化事件』に香月瑠璃子さんが関係している?何故、失踪している香月瑠璃子さんが『連続白骨化事件』に関係していると分かるんですか?」

「香月瑠璃子さんは、十五年前の七月六日の深夜におそらく殺されています。つまり、事件が解決する事なく、もうすぐ時効を迎えてしまう事になる訳です。香月瑠璃子さんは悔しいでしょうね。自分は殺されて人知れない場所に捨てられたのに、犯人は罰を受ける事なく時効を迎え、犯した罪が消えて堂々と生きる事が出来る。だから香月瑠璃子さんは行動に出たんです」

「行動?」

「はい。香月瑠璃子さんは怨霊となり、『連続白骨化事件』を起こしたんです。岡島先生もご存知だと思いますが、『連続白骨化事件』には謎の占い師が関係しています。そして『連続白骨化事件』の被害者が、この謎の占い師と会っていたのは栄道商店街の八百屋の横の所です。つまり香月瑠璃子さんが占いをしていた場所と全く同じ場所なんです。おそらく香月瑠璃子さんは、『連続白骨化事件』を起こす事で、捜査を担当している刑事に自分の事を知ってもらい、時効が成立する前に自分を殺した犯人を捕まえてほしいと思っているんでしょう。逆に犯人を捕まえる事が出来なければ、怨霊となった香月瑠璃子さんを止める術はなくなり、『連続白骨化事件』の被害者はどんどん増えて行く事になるでしょう」

「刑事さん、面白い事を言いますね。でも、そんな事を言ってるようじゃ刑事失格ですよ。刑事だったら、もっと科学的に考えて捜査しないと」

「はい、確かにそうですが、『連続白骨化事件』は科学的に解明出来ない事が多過ぎます。だから、私の考えている事は絶対とまでは言いませんが、可能性はかなり高いと思っています」

「そうですか。じゃあ、香月瑠璃子さんを殺した犯人を早く捕まえないと駄目ですね」

「はい」

「ちなみに捜査はどの程度進んでいるんですか?」

「もう、ある程度犯人の目星はついています」

「えっ、そうなんですか?」

「はい」

「じゃあ、もうすぐ犯人を逮捕出来るという事ですか?」

「ええ・・・。でも私は犯人に自首してもらいたいと思っています」

「えっ、何故ですか?」

「私が尊敬している人が犯人だからです」桧山は岡島明義の目をジッと見つめて言った。

「・・・まさか、私が犯人だと思っているんですか?」

「はい」

「じゃあ、私が犯人だという証拠はあるんですか?」

「いえ、ありません。ですが岡島先生が犯人だと言える状況証拠はあります」

「そうですか。じゃあ、それはどういう状況証拠なのですか?」

「岡島先生は十五年前、赤いフェラーリを乗ってらっしゃいましたよね?」

「ええ、乗っていました」

「ある男性の証言によると、十五年前の七月六日の深夜、栄道公園から男女が言い争っている声が聞こえたそうです。そして、その約一時間後には、二人の男が青いシートで包んだ死体らしき物を栄道公園から運び出し、そしてその死体らしき物を赤いフェラーリのトランクの中に入れて、走り去って行くのを目撃したそうです」

「なるほど。そういう事ですか。確かに私が犯人と言えるような状況証拠ですね。ですがそれは、香月瑠璃子さんが殺されたと仮定した話ですよ。実際のところはまだ、香月瑠璃子さんが生きているのか死んでいるのか分かっていない状況なのですから、私が犯人だとは言えないですよ。とにかくまず、遺体が見つからないと殺人事件とは言えない。今の状況では、ただの失踪ですよ」

「ええ、その通りです。ですが香月瑠璃子さんは殺されているはずです」

「刑事さん、『殺されているはずです』と言うだけでは事件にはならないですよ。あなたは私が香月瑠璃子さんを殺したと思っているようですけど、私は殺していません。私は人殺しをするような人間ではないですよ」

「ええ、私も岡島先生が人殺しをするような人間ではないと思っています・・・」

「だったら、何故私が犯人だと疑うんですか?私の事を信じて下さいよ」

「ええ、出来れば岡島先生の事を信じたいですよ。ですが状況証拠から考えると岡島先生が犯人だと言わざるえません・・・」

「そうですか・・・、分かりました。でも、刑事さん。さっきも言いましたけど、遺体が見つからない限りは殺人事件とは言えないし、犯人を捕まえる事も出来ない。でも時効までは、あと三日位しかないですよね。そんな短期間で十五年前に起きた事件の被害者の遺体を見つける事なんて不可能ですよ。まあ、犯人が自白でもすれば別ですけどね」

「ですから、岡島先生。自首して全てを話して下さい」

「それは出来ませんよ。私は香月瑠璃子さんを殺していないんですから」

「そうですか・・・」

「じゃあ、私は次の遊説先に向かわないといけないので、この辺で失礼します」

「分かりました。今日はありがとうございました」

「いえ、どういたしまして。では、刑事さん。頑張って香月瑠璃子さんの遺体を見つけて下さい」

 岡島明義はそう言うと、選挙カーを出て、選挙カーの前に停めてある車に乗り、走り去って行った。桧山も選挙カーを出ると、すぐに自宅へ向かって帰って行った。

 ――― 信じたくはなかったが、今日の態度を見る限り、間違いなく岡島明義は香月瑠璃子を殺した犯人だ。だが、岡島明義が言っていたように香月瑠璃子の遺体が見つからない限り、殺人犯として逮捕する事は出来ない。だが、時効が成立する前に必ず逮捕しなければならない・・・。だけど、香月瑠璃子の遺体はどこに遺棄されているんだろう・・・。確かに岡島明義が言っていたように遺体を見つけるには、犯人が自白する以外に方法はないだろうな。だが、岡島明義が自白する事はないだろうから、もう遺体を見つける事は無理かもしれない・・・。


「ピリリリリリリ・・・、ピリリリリリリ」

 桧山が自宅に到着すると、携帯電話が鳴った。

「はい、桧山です」

「おはようございます。川田です」

「おう、どうした」

「色々と調べていたら、意外な事実が分かりました」

「意外な事実?」

「ええ。前に調査した時は、『連続白骨化事件』の三人の被害者に接点は見つからなかったのですが、よく調べると意外な接点がありました」

「本当か?」

「はい。二人目の被害者の接点は見つかっていませんが、最初の被害者である安田龍志と三人目の被害者である岡島和義は間接的な接点がありました」

「間接的な接点?」

「ええ。安田龍志の父親である安田正一は、岡島和義の父親である岡島義雄の議員秘書を長年勤めていたそうです。そして、十五年前に岡島明義が国会議員に初当選した後は、岡島明義の議員秘書になったそうです」

「そうか」

「でも何故か安田正一は、岡島明義の議員秘書になって四ヶ月位経った七月に、突然退職してしまったそうです」

「四ヶ月位で退職か・・・。ん!それは十五年前の七月の事なんだよな?」

「そうです」

「安田正一は、七月の何日に退職したんだ?」

「正式には七月三十一日に退職という事に形になっていますが、何故か突然、七月七日から出勤しなくなったそうです」

「そうか・・・。ところで安田正一は今、何歳だ?」

「七十四歳です」

「という事は、十五年前は五十九歳か・・・。なるほどね」

「えっ、何が『なるほどね』なんですか?」

「いや、こっちの話だよ。気にするな。それで、安田正一はどこに住んでるんだ?」

「栄道公園の東隣にある青い屋根の家が安田正一の家だそうです」

「そうか。分かった。じゃあ、ちょっと安田正一に話を聞いて来るよ」

「そうですか」

「じゃあ、またな」

「はい、失礼します」

「ピッ」桧山は電話を切った。

 ――― 岡島明義が自白する事はないだろうから、香月瑠璃子の遺体を見つける事は無理かもしれないと思っていた。だがもしかすると、香月瑠璃子の遺体を見つける事が出来るかもしれないな・・・。とにかく、安田正一の家へ行ってみよう。

 桧山はすぐに安田正一の家へと向かった。


「すみませーん」

 桧山が安田正一の家の玄関先で大きな声で言った。すると数秒後、家の中から一人の年老いた男が出て来た。

「すみません、安田正一さんですか?」

「はい、そうですが、あなたは?」

「私、警視庁で刑事をしております桧山という者です」

「そうですか。でも息子の事件の事は、全て別の刑事さんにお話してますけど」

「いえ、私は息子さんの事件の事を聞くために来た訳じゃありません」

「じゃあ、どういうご用件でしょう?」

「私は香月瑠璃子さんという女性の事をお聞きしたいと思って来ました」

「えっ。そ、そうですか。で、ですが私は香月瑠璃子さんという女性は存じ上げませんが」

「そうですか。実は香月瑠璃子さんという女性は十五年前の七月六日の深夜に失踪した方です。ですが自ら失踪する理由がない事から、何か事件に巻き込まれたものと考えています。そして、ある男性の証言から、香月瑠璃子さんが事件に遭った場所は、お宅の隣にある栄道公園に間違いありません。安田さんはこの事件について何か知ってらっしゃる事とかないですか?」

「い、いえ、ありません」

「十五年前の七月六日の深夜に、栄道公園で男女が言い争ってる声とか聞きませんでしたか?」

「き、聞いてません」

「栄道公園から、青いシートに包んだ死体らしき物を運んでいる二人の男の姿を見ていませんか?」

「み、み、見てません」

「そうですか。ところで安田さんは岡島義雄氏の議員秘書をしておられたんですよね?」

「はい」

「でも十五年前に岡島明義氏が国会議員に初当選した後は、岡島明義氏の議員秘書になったんですよね?」

「は、はい」

「しかし、岡島明義氏の議員秘書になって四ヶ月位経った七月に、突然退職されてますよね?」

「は、はい」

「しかも、正式に退職したのは七月三十一日という事ですけど、何故か突然、七月七日から出勤しなくなったそうですね。何故ですか?」

「そ、それはその、た、体調を崩しまして、出勤出来なくなったんです」

「本当ですか?」

「ほ、本当です」

「さっきから安田さんを見てますと、凄く動揺しているように見えるんですけど、どうしてですか?」

「ど、ど、動揺なんかしてませんよ」

「いや、明らかに動揺してるじゃないですか。安田さんは真実を隠そうとして、嘘を言っているんじゃないですか?」

「そ、そんな事ありませんよ」

「本当ですか?」

「ほ、ほ、本当ですよ」

「いいや、安田さんは嘘を言っていますよ。本当の事を言っていたら、そんなに動揺しないですよ。安田さん、私も遠まわしに聞くのは止めて、思っている事を単刀直入に言いますから、安田さんも本当の事を言って下さい」

「は、はい、分かりました」

「私が思うところ、十五年前の七月六日の深夜、栄道公園で香月瑠璃子さんは岡島明義氏に殺されています。そして香月瑠璃子さんの遺体を青いシートで包み、栄道公園から運び出し、赤いフェラーリのトランクの中に入れ、どこかに運んで遺体を遺棄した。ですが、遺体を栄道公園から運び出していたのは、一人ではなく二人だったと言う目撃証言を得ています。一人は二十代の男で、もう一人は六十歳位の男だったそうです。私は二十代の男は岡島明義氏で、六十歳位の男は安田さんだと思っていますが、どうですか?」

「ち、ち、違いますよ」

「安田さん。本当の事を言って下さい。香月瑠璃子さんを殺した後、岡島明義氏は安田さんを呼び出し、遺体の遺棄を手伝わせたのではないですか?」

「ち、違います」

「安田さんは、そんな岡島明義氏に嫌気が差し、付いて行けないと思ったから、議員秘書を突然辞めたんじゃないんですか?」

「ち、違います」

「安田さん!お願いします。本当の事を言って下さい。安田さんが本当の事を言ってくれないと、安田さんの息子さんのように『連続白骨化事件』の被害者になる方がこれから沢山出て来ますよ」

「えっ、それはどういう事ですか?」

「安田さんもご存知だと思いますが、この『連続白骨化事件』は科学的に解明出来ない事が多々あります。この事件を普通の人間が起こす事は不可能です。ですからこの事件は、普通の人間が起こしたのではなく、強い怨みを持った怨霊が起こしたものと私は考えています」

「怨霊ですか?」

「はい。香月瑠璃子さんの怨霊ですよ。香月瑠璃子さんは殺されて、人知れない場所に捨てられたのに、犯人の岡島明義氏は罰を受ける事なく時効を迎え、犯した罪が消えてしまう。しかももうすぐ総理大臣となり、地位も名誉も手に入れ、充実した人生を送る事になる。だから香月瑠璃子さんは、『連続白骨化事件』を起こす事で、捜査を担当している刑事に自分が殺された事を知ってもらい、時効が成立する前に岡島明義氏を逮捕してもらって、岡島明義氏に天国から地獄へ落ちる気分を味あわせたいと思っているんですよ。そうなればおそらく、香月瑠璃子さんの気がおさまり成仏して、『連続白骨化事件』の被害者は出なくなると思います。ですが逆に、時効が成立する前に岡島明義氏を逮捕する事が出来なければ、怨霊となった香月瑠璃子さんを止める術はなくなり、『連続白骨化事件』の被害者はどんどん増えて行く事になるはずです」

「そうですか・・・・・。実は私も、息子が変な死に方をして、岡島明義先生の弟さんも同じ死に方をしたと聞いた時、『香月瑠璃子さんがやったんじゃないか』と頭の中を過ぎりました。ですが、『連続白骨化事件』の二人目の被害者は、香月瑠璃子さんが殺された事件とは無関係な人でしたから、私の息子と岡島明義先生の弟さんが同じ死に方をしたのは、ただの偶然だと思っていました。でも、偶然じゃなかったようですね。香月瑠璃子さんは、私の息子と岡島明義先生の弟さんを殺す事により、私と岡島明義先生に接点があるという事を刑事さんに知らせたかったのでしょう。そして、『連続白骨化事件』の二人目の被害者が殺されたのは、時効が成立する前に岡島明義先生を逮捕しないと、香月瑠璃子さんの事件に関係のない人も殺すという意思表示なんでしょうね」

「ええ、そうだと思います。安田さん。やっと本当の事を話してくれる気になったんですね?」

「ええ。これ以上、『連続白骨化事件』の被害者を増やす訳にはいきませんから」

「そうですか。じゃあ、早速お聞きしたい事があるんですが、よろしいですか?」

「ええ。何でも聞いて下さい」

「ではお聞きしたいんですが、香月瑠璃子さんの遺体はどこに遺棄されたんですか?」

「香月瑠璃子さんの遺体は」

「プルルルルルル・・・、プルルルルルル」

 安田正一が話し始めると同時位に家の電話が鳴りだした。

「すみません。ちょっと電話に出てきてよろしいですか?」安田正一が桧山に聞いた。

「ええ、どうぞ」

 安田正一は電話を置いてある所まで行き、電話の受話器を取り、話し出した。安田正一が話している声は桧山の所まで聞こえてきた。

「ああ、お久し振りです、先生・・・・・・はい、元気にしております・・・・・・・・・・はい、今、来てますけど・・・・・・・・・・・・・でも、本当の事を言わないと・・・・・・・・・・はい、分かってます。でも・・・・・・・・・・・・・・・・・・いいえ、決して忘れていません・・・・・・・・・・は、はい。分かりました・・・・・・・はい、失礼します」「ガチャッ」

 電話を終えると安田正一は、こわばった表情で桧山の居る玄関先に戻ってきた。

「刑事さん」

「はい」

「申し訳ありませんが、帰って頂けますか?」

「えっ。はい、分かりました。じゃあ帰る前に、遺体を遺棄した場所だけ教えて頂けますか?」

「帰って下さい」

「えっ。ですから、遺体を遺棄した場所だけ教えて下さい。そしたら、すぐに帰りますから」

「帰って下さい」

「ですから、遺体を遺棄した場所を」

「帰って下さい!」安田正一は桧山が喋り終わる前に大きな声で言った。

「・・・安田さん。もしかして今、電話で話していた相手は岡島明義氏だったんじゃないですか?」

「いいから、もう帰って下さい」安田正一はそう言いながら、桧山の肩を押して、玄関から外へ桧山を追い出そうとした。

「安田さん、お願いします。遺体を遺棄した場所を教えて下さい。遺体さえ見つかれば、岡島明義氏を逮捕する事が出来ます。そしたら香月瑠璃子さんも成仏して、『連続白骨化事件』の被害者も出る事はなくなります」桧山は踏ん張りながら言った。

「もう帰って下さい!」安田正一は大声でそう言って、桧山を玄関から外へ追い出した。そしてすぐに玄関のドアを「バタン!」と強く閉めた。

 桧山は安田正一の突然の変貌ぶりに驚き、呆然と玄関のドアを見つめていた。そして十数秒経った頃、桧山は我に返り、自宅へと帰って行った。

 ――― もう少しだったのに・・・。あともう少しで遺体が遺棄された場所が分かったのに・・・。あの電話の後、安田正一は態度が急変してしまった・・・。あの電話の相手は間違いなく岡島明義だろう。いったい安田正一に何を言ったんだ・・・。とにかく、香月瑠璃子の遺体がどこに遺棄されているかを知るには、安田正一に聞く以外に方法はない。明日もう一度、安田正一の家に行ってみよう。



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