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BOOKー神のゲーム  作者: 栞


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7/16

第七話 開戦前


 8月2日 AM7:00


 綾瀬家。


 リビングでは、陽翔がソファに座っていた。


 手にはコーヒー。


 時計は午前七時を指している。


 キッチンでは、結衣が朝食を作っていた。


 ベーコンの焼ける音。


 味噌汁の香り。


 昨日。


 世界が変わったとは思えないほど。


 いつも通りの朝だった。


⸻


 その時。


 窓の外が白く光った。


「……?」


 陽翔が立ち上がる。


「なに?」


 結衣もキッチンから顔を出した。


 同時に。


 テレビの画面が切り替わる。


 スマートフォン。


 タブレット。


 パソコン。


 街中の大型ビジョン。


 北海道中の画面が。


 一斉に同じ映像を映し出した。


 昨日現れた神。


 その顔には。


 昨日以上に楽しそうな笑みが浮かんでいた。


『おはようございます』


 まるで。


 普通の朝の挨拶だった。


『それでは』


『ルール説明の時間です』


 陽翔の表情が変わる。


 クロも静かに画面を見つめていた。


『各都道府県に守護水晶を設置しました』


 画面に映し出される。


 巨大な水晶。


 全部で四十七個。


『この守護水晶を』


『他都道府県の者が破壊してください』


 一つの水晶が映る。


 次の瞬間。


 砕け散った。


 同時に。


 日本地図から一つの県が消える。


『守護水晶を破壊された都道府県は』


『その県に住む人間全員が死亡します』


 部屋が静まり返る。


 結衣の手が止まった。


 陽翔も言葉を失う。


 神だけが。


 楽しそうに笑っていた。


『そして』


『五つの都道府県の守護水晶を破壊した都道府県は』


『その時点で生存が確定します』


 陽翔は画面を見つめる。


 つまり。


 生き残るためには。


 他の県を滅ぼすしかない。


『最終的に生き残れる都道府県は五つ』


『そして』


 神が笑う。


『生き残った都道府県には』


『代表者一名へ』


『どんな願いでも一つだけ叶える権利を与えます』


 陽翔は無意識にスマートフォンを握った。


 画面には。


 家族三人の写真。


 結衣。


 美月。


 願いなんていらない。


 金も。


 名誉も。


 力も。


 そんなものはいらない。


 ただ。


 家族と笑って暮らせれば、それでいい。


『ゲーム開始まで』


『残り一時間』


 神は最後に。


 楽しそうに告げた。


『どうぞ、お楽しみください』


 映像が消える。


⸻


 静寂。


「……あと一時間」


 結衣が呟く。


 陽翔はようやく理解した。


 昨日与えられた二十四時間。


 あれは。


 戦いが始まるまでの準備期間だった。


『ここからが本番だ』


 クロが静かに言う。


⸻


 その時。


 テレビが再び切り替わった。


【北海道政府 緊急会見】


 画面には北海道知事が映っている。


『先ほど発表された神によるルールを確認しました』


『北海道政府は現在、守護水晶が札幌市中央区・大通公園に存在することを確認しています』


 陽翔は画面を見つめる。


『BOOK所有者の皆様へお願いします』


『札幌市内の指定施設へ、至急お集まりください』


『守護水晶の防衛にご協力をお願いいたします』


 さらに。


『BOOK所有者および、そのご家族には』


『住居、食料、医療を優先的に提供します』


『ゲーム開始まで』


『残り50分です』


『北海道の未来は、皆様に託されています』


 会見が終わった。


「一気に変わったね……」


 結衣が呟く。


『当然だ』


 クロが答える。


『BOOK所有者には価値がある』


『BOOK所有者に対抗できるのもBOOK所有者だけだ』


『政府も、それを理解したんだろう』


⸻


「パパぁ……」


 眠そうな声。


 二人が振り返る。


 そこには。


 目を擦りながら歩いてくる美月がいた。


 まだ。


 何も知らない。


 ただ。


 パパとママを探しているだけだった。


 結衣が美月を抱き上げる。


「おはよう」


「おはよぉ……」


 美月の頭を撫でながら。


 陽翔は静かに思った。


 守る。


 何があっても。


 絶対に。


⸻


それから。


三人は朝食を食べながら、これからのことを話した。


気づけば。


時計の針は七時半を指していた。


 テレビでは。


 繰り返し神のルールが流れている。


 それでも。


 今だけは。


 家族の時間だった。


「陽翔はどうしたい?」


 結衣が聞く。


「正直、分からない」


 陽翔は美月を見る。


「でも」


「二人だけは守りたい」


 結衣も頷く。


「私も」


「二人を守りたい。」


『おい』


 クロが口を開いた。


『お前は行け』


「なんでオレだけ?」


『忘れたか』


『お前の能力は模倣だ』


『BOOK所有者が集まる場所へ行け』


『能力を見なければ模倣できん』


 陽翔は黙る。


『使える能力は、多いほどいい』


『守りたいなら、なおさらだ』


 陽翔はしばらく考え。


 静かに頷いた。


「……分かった」


 クロは結衣を見る。


『嫁は今日は家にいろ』


「なんでよ」


『お前の能力は回復だ』


『回復系BOOKは利用価値が高い』


『その中でも、お前の能力は上位クラスだ』


『狙われる可能性が高い』


 結衣は黙る。


『今のお前は』


『まだ自分を守れん』


『だから今日は動くな』


「……確かにそうだけど。」


 結衣は美月を見る。


「美月を一人にはできない」


 陽翔は少し安心したように頷いた。


「ごめん」


「ありがとう」


 結衣が笑う。


「任せて」


 ゲーム開始まで。


 残り三十分。


 静かな朝食の時間は。


 もうすぐ終わろうとしていた。


⸻


 札幌市内。


 高層ビルの屋上。


 五人の男女が街を見下ろしていた。


 遠くには。


 守護水晶がある大通公園。


 そして。


 その周囲を走る人々の姿が見える。


「始まるな」


 ガイが呟く。


 仲間たちも静かに頷いた。


 ガイは街から視線を外さない。


「オレの意思に賛同できるやつを探してきてくれ」


 短髪の女が頷く。


「分かったわ」


 隣の男も立ち上がる。


「オレも行く」


「じゃあ、二人に任せる」


 ガイは二人を見る。


「分かってるとは思うが」


「回復系BOOKの所有者を見つけたら、必ず報告してくれ」


「上位クラスだ」


 女の表情が変わる。


「……回復系ね」


「ああ」


「もちろん」


 二人が屋上を離れていく。


 残った三人。


 ガイは再び街を見下ろした。


 これから。


 この街は戦場になる。


⸻


 一方。


 別のビル。


 その屋上。


 一人の少女が立っていた。


 フードを深く被っている。


 表情は見えない。


 少女は空を見上げる。


 ゲーム開始まで。


 残り三十分。


 やがて。


 視線を札幌駅の方へ向ける。


 昨日。


 戦闘があった場所。


 そこに。


 誰かを待つような視線を向ける。


「……君なら来るよね」


 返事はない。


 少女は小さく笑った。


「楽しみにしてる」


 風が吹く。


 フードが少しだけ揺れる。


 それでも。


 少女はその場を動かなかった。


 まるで。


 誰かが来ることを。


 最初から知っているかのように。


⸻


 そして。


北海道中で。


BOOK所有者たちが動き始める。


守る者。


奪う者。


逃げる者。


戦う者。


それぞれが。


自分の生き残る道を探していた。


⸻


午前七時三十分。


ゲーム開始まで。


残り三十分。


そして。


北海道の戦いが。


始まろうとしていた。


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