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妹と駆け落ちしたあなたが他国で事業に失敗したからといって、私が援助する訳ありませんよね?  作者: 木山楽斗


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第7話 船の行方

 リヴェルト様の協力もあって、書類作りや届け出、各所への連絡は順調だった。

 とはいえ、ほとんどの所から返答は来ていない。こちらとしては急いでもらいたいことでも、先方にとってはそうではないということだろう。


「大変です、奥様!」

「あら? どうしたの? シェルーナ、そんなに慌てて……」


 アドラス様がヴェレスタ侯爵家を去ってから三日が経った頃、執務室に使用人のシェルーナが急に入って来た。

 その慌てた様子に、私は部屋にいるアドールやリヴェルト様と顔を見合わせる。明らかに何か問題がある風だったからだ。


「あ、お二人もいらっしゃいましたか……あ、あのですね。少し大変なことになっていて」


 シェルーナは、アドールの方を見て眉をひそめていた。

 それはつまり、彼に関係する何かが起こったということだろうか。

 当然のことながら、この機に乗じてヴェレスタ侯爵家の財産を狙う者はいるだろう。そういった輩が、いよいよ現れたということかもしれない。


「……坊ちゃま、これは坊ちゃまにとってはとても酷なことかもしれません」

「シャルーナさん、僕なら大丈夫ですから、話を進めてください。現実を受け止める覚悟は、もう決めていますから」


 シャルーナの言葉に答えながら、アドールは私の傍までやって来た。

 使用人の前であるため強がっているが、本当は不安だということだろう。

 私は、そんな彼の体に手を回して引き寄せる。初めは驚いていたが、アドールはそれを受け入れてくれる。


「シャルーナ、何があったのかを聞かせて頂戴」

「……アドラス様が乗った船が、沈没したそうです」

「……なんですって?」


 私は思わず、シャルーナに聞き返していた。

 彼女の言ったことが、すぐに受け入れられなかったからだ。

 ただ、シャルーナはそんな悪趣味な冗談を言うような子ではない。となるとこれは、紛れもない真実であるということになるだろう。


「随分と遠くの海まで出ていたようですが、その辺りで嵐に見舞われたらしく……」

「嵐……」

「今、行き先だったアルトリア王国の方から連絡がありました。そちらの方が近かったようですからね……何人か助かったようですが、その中にはアドラス様やヘレーナ様はいないようです」


 シャルーナは私達の前に、乗船者のリストを見せてきた。

 そこのリストには、行方不明と記されている人達がいる。アドラス様やヘレーナも、その一員だ。

 つまり二人は、あちらの国に辿り着けなかったということになる。その事実に、私は固まるのだった。




◇◇◇




 船がヴェレスタ侯爵家の領地から出たものであるため、それが沈没したとなると、色々と対処しなければならないことがあった。

 私とアドールは、日中それらの対処にあたった。その内容については一旦考えず、淡々とことを進めたのだ。

 その判断は、間違っていなかったといえるだろう。内容について考えていたら、何もできなくなっていたかもしれない。


「ふう……とりあえず今日も一日お疲れ様」

「ええ、お疲れ様です」


 そんな一日が終わってから、私はアドールを自室に招いていた。

 理由はもちろん、例の件について語るためである。

 ただ、すぐに切り出すことはできなかった。難しい問題であるため、躊躇ってしまっているのだ。


「その、フェレティナ様、一つご質問してもよろしいでしょうか?」

「……ええ、何かしら?」

「今日僕を呼び出したのは、船の件があったからですか?」

「……まあ、わかるわよね。ごめんなさいね」


 私が躊躇っている内に、アドールの方から話を切り出してきた。

 これに関しては、私が愚かだったといえるだろう。呼び出した時点で察するのが当たり前なのだから、さっさと本題を切り出すべきだったのだ。


「謝られるようなことではありません。僕も、そのことについて話したいと思っていましたから。ただですね、フェレティナ様が心配している程、落ち込んでいる訳ではないのですよ」

「……そうなの?」

「ええ、船の事故については悲しい出来事だとは思っています。たくさんの犠牲者が出たということには、心が痛みます。しかしこと父上に関しては、そうではありません。こういう考え方は好きではありませんが、報いを受けたということなのでしょう」


 アドールは、遠くを見つめているようだった。

 それは、事故で亡くなった人達のことを偲んでいるからなのだろう。

 ただ、その対象にアドラス様は入っていないようである。私が思っているよりも、父親への割り切りができているということだろうか。


「本当に、もういいと思っているんです。父上のことで心は動きません。だって僕の傍には、フェレティナ様がいてくれるから」

「アドール……」


 そこでアドールは、私に寄りかかってきた。

 その小さな体から感じられる温もりに、私は思わず笑みを浮かべてしまう。彼が私のことを支えとしてくれていることが、なんだかとても嬉しかった。

 アドラス様とヘレーナのことについて、私も考えることはやめるとしよう。二人はもういないのだ。身勝手な真似をした報いを受けて、海に消えていったのである。

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