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妹と駆け落ちしたあなたが他国で事業に失敗したからといって、私が援助する訳ありませんよね?  作者: 木山楽斗


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第18話 海での発見

 時が経つのは、早いものである。

 目の前にいるアドールを見ると、ついそう思ってしまう。

 彼がヴェレスタ侯爵を継いでから、もう三年の月日が経った。子供だったアドールも、今は立派な侯爵だ。いや、まだ子供ではあるのだが。


「なんというか、感慨深いというべきことでもありませんが、やっとという感じがします」

「……そうね」


 私と違って、アドールはこの七年間の月日を長いものだと考えているようだ。

 その辺りは、時間の感じ方の違いということだろうか。子供と大人とでは、その辺りの感覚は結構異なっているのかもしれない。


「これでやっと、義母上と義父上が正式に結婚することができます」

「ええ、嬉しいことと言ってもいいのかしら?」

「もちろんです。今日はパーティーを開きましょう」

「少々不謹慎なような気もするのだけれどね」


 船の事故にあったアドラス様は、ずっと行方不明という扱いだった。

 生死不明であるため、ある程度の期間が経たなければ離婚することができない状況だったのである。

 今日はその離婚が認められた日だ。また一つの区切りが、ついたのである。


「ロナーダ子爵も、きっと喜んでくれますよ」

「そうかしら? 私とリヴェルト様との結婚は喜ぶ人だけれど、離婚で喜ぶような人ではないような気がするわ」

「ああ、言われてみればそうかもしれませんね」


 ロナーダ子爵には、ずっと良くしてもらっている。

 リヴェルト様との婚約にも賛同してもらっているし、とてもお世話になっている存在だ。


「まあ、私の家族やストーレン伯爵は喜ぶかもしれないわね……」

「ああ、伯父様なんかはそうでしょうね。義母上や義父上には好感を抱いていて、父上のことがお嫌いですから」


 私の家族は、アドールのことは気に入っている。お父様やお母様なんかは本気で孫扱いしているし、お兄様も結構な伯父様気分だ。

 ただ、私とアドラス様との夫婦関係については、早く途切れることを望んでいた。それはヘレーナにも原因があったとはいえ、貴族としてひどい裏切りを受けたからだろう。

 ただ、憎しみという観点においてはストーレン伯爵の方が上だ。彼はアドールのことを溺愛する反面、アドラス様のことは忌み嫌っている。


「まあ僕としては、父上の負の遺産がまた一つ取り払えるというのが嬉しい所です」

「負の遺産……まあ、そういうことになるのかしらね」

「この三年間、随分と苦労させられましたからね。色々な方々の助けがあったから、乗り越えられた訳ですが」

「そうね……」


 アドラス様のせいで、アドールはとても苦労してきた。

 ロナーダ子爵家やストーレン伯爵家、それから王族が味方についたことでなんとか乗り越えた訳ではあるが、それは決して平坦な道ではなかったといえる。

 今こうして談笑できていることは、本当に幸せなことだ。私は改めて、それを実感するのだった。


「実際の所、リヴェルト様はどう思っているんですか?」

「どう思っているか、ですか?」


 私の言葉に、リヴェルト様は少し面食らったような表情を返してきた。

 夕食後二人でワインを飲んでいたのだが、話は当然結婚の話となっている。そこで私は、質問をした。リヴェルト様は、私のアドラス様との離婚などについて、どう思っているのだろうか。


「嬉しくないと言ったら嘘になってしまいますね……やはり、フェレティナ様と結婚できる訳ですから」

「それは私も同じ気持ちです」

「とはいえ、離婚を喜ぶというのも悪趣味なような気もしてしまいますね。相手は故人である訳ですし」


 リヴェルト様も、概ね私と同じような気持ちであるらしい。

 船の事故で亡くなったアドラス様との離婚、それはやはり手放しで喜べるようなことではないと思ってしまう。

 問題行動をしたとはいえ、不幸にも亡くなった彼の死までは喜べる訳ではない。その辺りの線引きに関しては、中々に難しい所である。


「まあ、喜ぶとしたら正式に結婚したからでしょうかね? それこそ、アドールが言っていたようなパーティーはその後ということに」

「そうですね。その時は是非そうしましょう。結婚式などは挙げないつもりですしね」


 アドールはした方が良いと言ってくれたが、私とリヴェルト様との結婚式などはしないつもりだ。

 私の立場は、少々複雑である。そんな私の結婚は、別に大々的に行うべきものでもないのだ。

 ヴェレスタ侯爵家の結婚式は、アドールとエメラナ姫の結婚までお預けである。それがリヴェルト様と話し合って出した結論だ。


「まあ、正直な所、結婚したからといってそこまで劇的な変化が起こるという訳でもないと思うんですよね……」

「そうでしょうか?」

「だって、私達はこれまでほとんど夫婦として過ごしてきたではありませんか。それがそこまで変わるなんてことは、ないと思うのですが」

「なるほど、言われてみればそうかもしれませんね」


 私の言葉に、リヴェルト様はゆっくりと頷いてくれた。

 婚約の話がまとまってから、私と彼とは夫婦同然の生活をしている。その穏やかな生活は、きっとこれからも変わらないはずだ。

 私としては、それでいいと思っている。この平和が、長く続いて欲しいものだ。


「まあ、私達の役目はこれからもアドールのことを支えていくこと、ですからね。私としては、父親として務めていけるかが不安な所ですが……」

「リヴェルト様なら大丈夫ですよ。今まで通りで、何も問題はありません」


 リヴェルト様は、父親という役割について少し緊張しているようだった。

 その気持ちはよくわかる。私もアドールの母となれるか、自信などなかったからだ。

 ただ、きっと大丈夫だ。アドールと向き合いたいという心を、リヴェルト様はしっかりと持っているのだから。


「……申し訳ありませんね。急な訪問になってしまって」

「いえ、それはお気になさらず」


 私とアドールは、ある男性と向き合って座っていた。

 彼は、王国の海軍に所属している男性である。名前はエルガルスさんという。

 私達と彼には、面識がある。エルガルスさんは、アドラス様やヘレーナが亡くなった船の事故の調査を担当していたのだ。


「しかしどうして、あなた方には伝えなければならないと思っていまして。実は船が見つかったんです」

「船が?」

「見つかった?」


 エルガルスさんの言葉に、私とアドールは顔を見合わせた。

 船が見つかった。その事実はとても大きなことだ。もしかしたら、行方不明になっていたアドラス様やヘレーナも見つかるかもしれない。


「パルエント島という場所に、船は流れ着いていたようなのです。そこで暮らしている民族と先日コンタクトが取れました」

「パルエント島、ですか? 聞いたことがありませんね……」

「ええ、最近まで未踏の地でしたからね。船はそこに流れ着いていたようなのです。それも、生存者とともに」

「生存者ですって?」


 私は思わず、身を乗り出しそうになっていた。

 生存者がいる。それは驚くべき事実だ。ついつい身を乗り出したくもなる。

 アドールも驚いているらしく、目を見開いて固まっている。私達が考えていることは、恐らく同じだろう。行方不明となっていた父親や妹が生存しているのではないか、ということだ。


「申し上げにくいことではありますが、前ヴェレスタ侯爵やヘレーナ嬢の生存は確認できていません」

「そ、そうですか……」


 エルガルスさんは、すぐに私達の疑問の答えをくれた。

 当然といえば当然ではあるが、彼もわかっていたのだろう。私達が一番気になっているのが、なんなのかということを。

 ただ彼の歯切れは、少し悪いような気もする。言い方に何か、含みがあるのだ。


「エルガルスさん、何か懸念点があるのではありませんか?」

「……流石ですね。実は気になっていることがあるのです」

「気になっていること?」

「事故の生存者は、パルエント島でこの三年間暮らしていたそうです。民族は友好的であり、生存者達は彼らと協力して当時の船の状態の記録を残していました」

「記録……そこから一体が何がわかったのですか?」

「船の中で亡くなっていたのは、二名の方です。一人は身なりがいい少女、もう一人は浮浪者のような男性だったそうです。その二人は縛られていたのです。逃げられないように」


 エルガルスさんの言葉に、私もアドールも固まっていた。

 彼が語っていることは、明らかにおかしなことだ。それは船の事故の裏で、何かが起こっていたことを表している。

 そして身なりがいい少女には心当たりがある。それはもしかして、私の妹のヘレーナなのではないだろうか。


「こちらが、行方不明者のリストです。そして、こちらが今回パルエント島で暮らしていた生存者のリスト……これらを組み合わせると、残った行方不明者は二人になる」

「二人……」

「父上と、ヘレーナ嬢ということですか」


 エルガルスさんの見せてくれた二つのリストを見ていくと、残った行方不明者は確かにアドラス様とヘレーナということになる。

 それは一体、何を意味しているのだろうか。ただの偶然、そう片付けられることではない。


「しかしおかしいのです。船の中から見つかった二名の遺体は、身なりのいい女性と浮浪者らしき男性です。身なりのいい女性は、ヘレーナ嬢だと考えられる。しかし浮浪者らしき男性が、前ヴェレスタ侯爵であるとは思えない」

「ええ、当時のアドラス様の身なりは良かったはずです」

「となると、矛盾が生まれる。この浮浪者らしき男性は、一体誰なのでしょうか? そして前ヴェレスタ侯爵はどうなったのでしょうか? 色々な疑問が生まれてきます」


 エルガルスさんの言葉に、私達はゆっくりと頷く。

 この船の事故は、何かが変だ。私達は、そのことについて考えなければならない。


「亡くなった二人は、拘束されていたのですよね? 身動きが取れなくて亡くなった、ということなのでしょうか?」

「ええ、船は傾いていたようなのですが、生存者達はその上部にいたらしいのです。そこまではなんとか逃げることができたそうです。そして船が全て沈む前に、島に辿り着いたようですね。それは奇跡としか言いようがない出来事です」

「奇跡、ですか……まあ、そうですよね」


 そもそもの話、島に流れ着いたということが奇跡的なことではある。

 結果的にではあるが、拘束されていた二人以外は助かった。それにより、不自然さが浮き彫りになったといえる。


「パルエント島の周辺は特殊な海流に覆われていて、普通は辿り着けません。そもそも事故が起こったことが不幸ではありますが、そこだけは幸いだったといえるでしょう」

「……二人を拘束した人物は、まず間違いなく悪意を持ってそうしたのでしょうね」

「……その人物は、父上である可能性が高いという訳ですか」


 私の言葉に対して、アドールは低い声で呟いていた。

 状況から考えると、彼が考えていることは正しいだろう。二人を拘束したのは、アドラス様である。


 そのアドラス様は、行方不明だ。ただ、行方不明者の数の帳尻が合わない。

 となると、アドラスア様がどこにいるのか。その結論は、自然と出てくる。


「アドラス様は、船の事故に乗じて誰かと入れ替わった。そう考えるべきでしょうね」

「父上は生きている……二つの命を無慈悲に奪い去って」


 私とアドールは、顔を見合わせていた。

 アドラス様が生きている。その事実に私達は向き合わなければならないようだ。

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