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妹と駆け落ちしたあなたが他国で事業に失敗したからといって、私が援助する訳ありませんよね?  作者: 木山楽斗


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第17話 家族として

「アドール、あなたは何が言いたいのかしら?」

「リヴェルト様に、提案があるのです」

「提案、ですか?」


 アドールは、姿勢を正してリヴェルト様のことを見つめていた。

 それは恐らく、真剣な話をしようとしているということだろう。

 この流れで真剣な話となると、思い当たることがない訳ではない。ただ、私はとりあえず成り行きを見守ってみることにする。


「お義母様と婚約していただけませんか?」

「……なんですって?」


 アドールの言葉に、リヴェルト様は驚いていた。

 もちろん、私も驚いていない訳ではない。しかし事前に少しだけ予想していたことではあるため、そこまでの驚きはなかった。


「お義母様と婚約していただけないかと思って……ああもちろん、お義母様は正式に父上と離婚できているという訳ではないので、しばらく待ってもらうことにはなるのですが」

「……どうしてそのようなことを仰るのか、理解ができないのですが」

「お義母様は、難しい立場に立たされています。正直な所、再婚も難しいでしょう。ですが、やはり身は固めてもらいたいと思っています。もちろん僕が守るつもりではありますが、まだ子供の僕では充分に守れるという訳ではありません。だから、リヴェルト様にお願いしたいのです」


 アドールの提案は、突拍子もないものだ。とんでもない提案である。

 しかし私としては、なんというかとても嬉しかった。それが私のことを深く考えた上で、提案してくれたことであるとわかったからだ。


 先程まで困惑していたリヴェルト様も、今は少し表情を変えている。

 アドールの気持ちは、彼にも伝わったということだろう。


「……なるほど、深く考えた上での提案でしたか」

「ええ、もちろんです」

「しかし、どうして私に」

「リヴェルト様のことを兄上のように思っていると言ったでしょう? そんなあなたになら、お義母様を任せられると思っているのです」

「……立派になられましたね」


 アドールに対して、リヴェルト様は笑みを浮かべていた。

 その言葉に対して、少し感慨深さを覚えているようだ。

 確かに、彼の言う通りではある。アドールはこの短期間で、随分と立派になった。元々大人びていたけれど、また一皮むけたのではないだろうか。


「しかしそれは、私の一存で決められることではありません。そもそも、当人の気持ちというものがありますからね」


 そこでリヴェルト様は、私の方を向いた。当然のことながら、色々と言いたいことがあるということだろう。

 私はとりあえず、深呼吸しておく。これからリヴェルト様と言葉を交わす上で、心を落ち着けておく必要があったからだ。

 それから私は、正面の彼を見る。すると真剣な顔をしたリヴェルト様の顔が、しっかりと見えた。


「フェレティナ様、私の率直な気持ちを聞いてもらっても構いませんか?」

「ええ、それはもちろん構いませんけれど」


 リヴェルト様の言葉に、私は思わず目をそらしてしまった。

 そういった話をするというのは、中々にむず痒いものである。

 とはいえ、これは現ヴェレスタ侯爵アドールが持ち掛けたものだ。彼の母親としても、目をそらしてはならない問題である。


「私はフェレティナ様のことを尊敬できる女性であると思っています」

「そ、そうですか?」

「ええ、あなたは心優しい女性です。ヴェレスタ侯爵――いえ、アドールのためにこの家に留まるということは、中々できることではないと思います。あなたは心から彼のことを考えています。私はそんなあなたに、少なからず惹かれています」

「それって……」


 真っ直ぐと私を見つめるリヴェルト様からの驚くべき言葉に、私は固まっていた。

 少なからず惹かれている。まさかそんなことを言われるなんて、思ってもいなかったことだ。

 ただ、それは冗談の類ではないだろう。それはその瞳が、物語っている。


「私はこの提案を受け入れたいと思っています。もちろん、父上などに相談する必要はありますが……」

「私なんかで、本当に良いのですか? 色々と問題があると思うのですけれど……」

「そういったものは些細なことです。そもそも、私は家を継ぐ立場ではありませんからね。多少の融通は利きます。それにヴェレスタ侯爵家との婚約は、ロナーダ子爵家にとってはメリットです。現ヴェレスタ侯爵は、母親思いの方ですからね」


 リヴェルト様は、心情的にだけではなく利益的にも得であると判断しているらしい。

 確かに、子爵家が侯爵家と身内になるというのは破格といえる婚約だ。もちろん、私の立場的には微妙な所であるのだが、少なくともアドールはその婚約を無下にすることはない。

 そういうことならば、私としても断る理由はないといえる。私もリヴェルト様には、好感を抱いていたからだ。


「……わかりました。そういうことなら、よろしくお願いします」

「ありがとうございます、フェレティナ様」

「いえ、お礼を言われるようなことではありませんよ」


 私は、リヴェルト様の手をゆっくりと取った。

 彼となら、今度こそ良き夫婦になることができそうだ。その手から伝わってくる温もりに、私はそんなことを思っていた。


「ふふ、なんだか僕も嬉しいです。これからよろしくお願いしますね、リヴェルト様――いいえ、義夫上と呼んだ方が良いでしょうか?」

「え?」

「ああ、確かにそういうことになりますね。リヴェルト様、アドールとの関係は変わることになりますね?」

「なるほど、そういうことになりますか……」


 リヴェルト様は、私達の言葉に目を丸めていた。

 これでアドールが望んでいたことも叶うのだ。それは私にとって、嬉しいことである。

 これから私達は、家族として過ごしていくことになるだろう。その未来はきっと明るいものであるはずだ。そう思って、私は笑みを浮かべるのだった。

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