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妹と駆け落ちしたあなたが他国で事業に失敗したからといって、私が援助する訳ありませんよね?  作者: 木山楽斗


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第13話 聞きたかったこと

 しばらくしてから、エメラナ姫は客室に戻って来た。

 ただ、その機嫌は良いものであるとは言い難い。多少は落ち着いたものの、まだ怒りや悲しみは収まっていないようだ。


「アドール、さっきはごめんなさい」

「え?」

「私、あなたにひどいことを言ってしまったから。別に、怒っている訳じゃないから」


 エメラナ姫は、アドールに対して頭を下げた。

 一応、先程のことは水に流そうとしているらしい。態度に現れてしまっているのが難点ではあるが、その辺りは経験不足故の未熟さということだろう。


「いいえ、エメラナ姫は悪くありません。先程の僕は、愚かなことを言っていましたから」

「……そうなの?」

「ええ、エメラナ姫が聞きたかったのは、そういった事柄ではなかったのですよね? すみません、僕は勘違いしていました」

「……聞きたくなかった訳ではないかな。もっと聞きたかったことが、聞けなかったというだけで」


 頭を冷やすと言っていた通り、エメラナ姫はかなり冷静になっていた。

 少なくとも、アドールとの話には応じるつもりであるようだ。これなら、アドールは上手くやってくれるだろう。そう思って、私は口を挟まないでおく。


「エメラナ姫、あなたからの提案を僕は嬉しく思っています。未来のことなんてわからないけれど、エメラナ姫が僕の奥さんになってくれるなら、それは喜ばしいことです」

「……どうして喜ばしいの?」

「それは……僕がエメラナ姫に対して、好意を抱いているから、ということになるでしょうか」


 アドールは、エメラナ姫から視線をそらしていた。流石に恥ずかしかったということだろう。

 一方で、言葉を受けたエメラナ姫は目を輝かせている。アドールの言葉に、感激しているようだ。今にも涙が零れ落ちてきそうである。


「アドール、嬉しい。私もアドールと同じ気持ちだよ」

「同じ気持ち……」

「うん。アドールに好意を抱いている。だからやっぱり、私と婚約して欲しい」

「……それとこれとは話が別です。僕はエメラナ姫に好意を抱いているからこそ、婚約して苦労させたくはないと考えています」

「アドール……」


 言葉を発しながら、アドールはエメラナ姫のことを真っ直ぐに見つめていた。

 その目には、彼の覚悟のようなものが現れているような気がする。立派なものだ。自分の置かれた状況を冷静に分析して、その上でエメラナ姫にとって良い選択をしようとしている。

 しかし、アドールが覚悟を決めているように、エメラナ姫だって覚悟を決めているのだ。まるで応えるかのように真剣な顔をした彼女に、私は王女としての気品と誇りを感じていた。


「アドール、アドールの気持ちは嬉しいよ。でも、それでも私はアドールと婚約したいと思っている。あなたを助けたいから」

「僕を、助けたい……?」


 エメラナ姫は、真剣な顔で言葉を発していた。

 先程までの少女としての天真爛漫さが、その表情からは消えている。

 彼女がこの国を統べる王族の一人であることを、私は感じ取っていた。やはり子供だからなどと、侮っていてはいけないということだろう。


「アドールは優しくて、いつも誰かのことを思っている。あなたは立派な人だよ。でも、何でも一人でやろうとする所がある」

「それは……」

「私には力があるの。それはただ単純に、王族として生まれたことによって得たものではあるけれど、それでもそれは私の力。その力を、私はあなたのために役立てたい。だって私は、アドールのことが好きだから」


 エメラナ姫は、言葉の最後で少女としての顔を取り戻していた。

 彼女は自らの立場をよく理解している。アドールと婚約することによって、降りかかる苦労だってわかっているのだろう。

 しかしそれでも、彼女は婚約したいと思っている。その気持ちはきっと、アドールにも伝わっているはずだ。


「アドールは、これが子供の恋心でしかないみたいに言っていたけれど、私はずっとアドールのことが好きだと思う。この気持ちは、ただの初恋じゃないって、そう信じている」

「エメラナ姫……」


 王族であるエメラナ姫は、それ故に様々な人々の欲望に触れてきただろう。

 彼女との婚約、それは各貴族が喉から手が出る程に欲しいものだ。その欲望を、エメラナ姫は理解しているだろう。私にも覚えがあるから、それは間違いない。

 彼女はきっと、よく考えてアドールと婚約したいと言ったはずだ。これは決して、お転婆娘が勢いで言っていることではないと、私は思っている。


 エメラナ姫にとって、アドールはきっと王子様であるだろう。

 彼は心から、彼女のことを思っている。思っているからこそ、婚約しないという選択をしようとしていたくらいだ。

 そう思える人を、エメラナ姫は見極めていたということである。彼女の目は間違っていない。人をよく見ている。


「……アドール、一つ言っておくわ」

「フェレティナ様?」

「この件に関して、私はあなたの判断に従うわ。あなたがしたいと思うようにしなさい。エメラナ姫の言葉を聞いた最終的な判断を、ね?」


 そこで私は、アドールに声をかけておいた。

 それは少々、彼に対しては酷なことかもしれない。難しい問題であるため、私の判断を仰ぎたかった可能性はある。

 だけど、これはアドールが判断するべきことだ。エメラナ姫の思いを受け止められるのは彼だけなのだから、そこに私の意思は介入するべきではないだろう。


「……ありがとうございます」

「……ふふっ」


 ただ、私はすぐに自分の考えが愚かなものだったということを理解した。

 アドールは、私に甘えるつもりなんて最初からなかったのだ。彼の目を見たら、それがわかった。良い目をしている。流石は私の――息子だ。


「エメラナ姫、あなたの気持ちはよくわかりました。それを踏まえて出した僕の答えを、聞いていただけますか?」

「……うん」

「僕はあなたのことを、婚約者として迎え入れたいと思います。僕にはあなたの助けが、必要なようですから」

「……うん!」


 アドールの言葉に、エメラナ姫は嬉しそうに頷いた。

 彼の出した答えは、良いものであると私は思う。どちらかというと、私が望んでいた答えだ。

 ただその答えの傍らで、私は自らの心の中にある不思議な気持ちに気付いた。今のアドールがなんというか、自分のことのように誇らしいのである。


 今の私は、胸を張ってアドールのことを自慢したい気持ちでいっぱいだ。

 もちろん場が場なので控える訳ではあるが、私はどうしてしまったのだろうか。なんというか、自分が少し恥ずかしくなってくる。


「フェレティナ様、これが僕の結論です。これでよろしいでしょうか?」

「……ええ、もちろん聞いていたわ。良い結論が出せたと、思っているわ」

「良い結論、そうなのでしょうか?」

「そうは思わない?」


 私はアドールの言葉に対して、エメラナ姫の方を見た。

 彼女は、とても嬉しそうな笑みを浮かべている。アドールに受け入れてもらえたことが、余程嬉しいのだろう。

 貴族としてどうかなどよりも、私にとってはそれが良いことであるように思える。


「まあ、そうですね。自分の決断には自信を持たないと」

「ええ、でも今のあなたは立派だと思うわ。まあ、いつも立派だけれど」


 私は自分の中にあるアドールの評価を、ほんの少しだけ本人に伝えておくことにした。

 褒めるということは、実際に重要なことではあるだろう。今の私の気持ちを全て出すとまずいとは思うが、今のはいいくらいだったはずだ。


「さてと……エメラナ姫、少しよろしいでしょうか?」

「あ、はい。なんですか? お義母様」

「え?」


 国王様に話を通すまでは、正式な婚約ではない。そのことをエメラナ姫と話そうと思っていた私は、予想外の言葉に面食らうことになっていた。

 今彼女は、私のことを変な呼び方をしたような気がする。いや、別に変ではないのだろうか。私は少し混乱してしまう。


「あ、すみません。少しはやる気持ちが……まだ正式に婚約が決まった訳ではありませんよね。でも、アドールのお母様なのですから、私もそう呼ぶべきかと思って」

「えっと、それは……そうなのかもしれませんね」

「え、ええ、まあ、そういうことになるのかしら?」


 エメラナ姫の言葉に、私とアドールは顔を見合わせることになった。

 お義母様、その呼び方にはどう反応していいのかは、正直わからない。なぜならその呼び方は、アドールにもされたことはないからだ。

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