第11話 国王からの手紙
玄関で話すのもなんだったので、私達はとりあえずエメラナ姫を客室に招いた。
ただ、エメラナ姫はずっと顔を隠したままである。指の隙間から、時々私の顔をちらちらと伺っているだけだ。
しかしずっとそうしている訳にもいかないし、そろそろ尋ねるべきだろうか。
「あの、エメラナ姫、初対面で緊張していらっしゃるのかもしれませんが、そろそろ顔を見せていただけないでしょうか?」
「は、はい。ただいま……」
「ありがとうございます」
私がお願いすると、エメラナ姫はその顔をかなり恥ずかしそうにしながらも見せてくれた。
その顔は、まだ真っ赤だ。どうやらかなり緊張しているらしい。
そんな彼女に対して、どう接していくべきだろうか。まずは私のことをわかってもらうことが、先決かもしれない。
「えっと、私の名前はフェレティナと言います。ヴェレスタ侯爵夫人……ああいえ、エメラナ姫の助言もあって、アドールが正式にヴェレスタ侯爵を襲名したので、今は前ヴェレスタ侯爵夫人ということになりますね」
「あ、はい……」
「フォルファン伯爵家の長女で、そうですね……好きな食べ物は――いえ、こんなことは不要ですよね」
「そ、そんなことはありません」
エメラナ姫は、私の言葉にたどたどしく答えてくれた。
その様は可愛らしいのだが、いくらなんでも緊張し過ぎであるような気がする。王族である彼女は、人前に出ることも多い訳だし、私と話すだけでそんなにも動揺するものなのだろうか。
そう考えて、私はあることに気付いた。
彼女が玄関でアドールに見せた態度、それがここまで緊張する要因なのではないだろうか。
私の予想が正しければ、彼女はアドールに好意を抱いている。一応母親である私に対して緊張するのは、当然といえば当然なのかもしれない。
「で、でも、フェレティナ様はお綺麗ですね?」
「え? そうですか?」
「はい。とても美人さんです」
「ふふ、エメラナ姫は口がお上手ですね」
エメラナ姫は、私のことを突然褒め称えてきた。
そうやってお世辞の類を言うのも、私がアドールの母親だからに思えてならない。
しかし状況的にそれを確かめることもできないため、私は悩むことになった。こんな風に緊張されると、私としてもやりにくいのだが。
「いえ、お世辞ではありませんよ。私は本当に、フェレティナ様が美人だと思っています。私は、面食いですから」
「……え?」
悩んでいた私は、エメラナ姫の言葉に硬直することになった。
今彼女は、なんと言ったのだろうか。凡そ王族らしからぬことを言っていたような気がする。
ただそれは、私の気のせいかもしれない。いや、きっと気のせいだ。王族がそんなことを言うはずはないのだから。
「エメラナ姫、今なんとおっしゃっいましたか? 多分、私の聞き間違いだとは思うんですけれど……」
「私は、面食いなんです……ああいえ、表現が適切ではありませんね。美的価値観というものは人それぞれですから」
「いえ、まあ、それはそうですが……」
私の質問に、エメラナ姫は笑顔で答えてくれた。
あまり受け入れたくないことではあるが、彼女は確かに面食いだと言っているらしい。要するに綺麗な人とかが好き、ということだろうか。
自分が綺麗かどうかは、とりあえず一旦置いておくとしても、王族である彼女がなんということを言っているのだろうか。
その俗っぽい言葉は、どこで覚えたのか気になる所だ。本で読んだりしたのだろうか。ただ何かしらの悪影響があったことは、間違いなさそうだ。
「まあ要するに、私は自分の好みの顔の女性の前だと、緊張してしまうんです。段々と慣れてきたので、今はなんとか平静に話せていますが……」
「女性……えっと、男性は範囲外なのですか? ここにいるリヴェルト様なんかも、中々にかっこいいと思うのですが」
「男性については、もうそれ以上がないという方に出会っていますから。昔は男性でも固まっていましたが、今はもう大丈夫です」
エメラナ姫は、そっとアドールの方に視線を向けていた。
それによって、私は理解する。エメラナ姫が、どれだけアドールに対して想いを向けているのかということを。
根本の性質を覆すくらい惚れ込んでいるというのは、すごいことであるように思える。
「なるほど、エメラナ姫は素敵な恋をなさっているようですね」
「フェレティナ様にそう言ってもらえるのは、とても嬉しいです。あ、でも、そうですね。せっかくですから、一つご提案したいことがあります」
そこでエメラナ姫は、少し身を乗り出してきた。
その動作からは、逸る気持ちのようなものが伝わってくる。
その内容は、なんとなく想像することができた。話の流れからして、恐らくアドールとのことで間違いないだろう。
「フェレティナ様、私とアドールとの婚約を認めてくださいませんか?」
エメラナ姫が口にしたことは、概ね私が予想していた通りのことだった。
彼女の想いの大きさは、先程の言葉所か一連の行動から理解できることではあった。そんな彼女が、そういった提案をするのは必然であるといえる。
私は、そっとアドールの様子を伺った。彼は微妙な表情をしている。どうやら婚約の提案に対して、色々と思う所があるようだ。




