序章 伏姫伝説
お久しぶりです。藤波真夏です。今回、南総里見八犬伝の二次創作で、小説を書いてみました。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
次回より前書き後書きを省略させていただきますのでご了承ください。
昔々、実り豊かな安房という土地がありました。
そんな土地を狙う魔女がおりました。その名は玉梓。里見義実が治める国を我が物にしようと画策した玉梓でしたが捕らえられてしまいました。
処刑されそうになったまさにその時でございました。玉梓は涙ながらに里見義実に訴えます。
「風一つ吹けば散らされそうなか弱きこの身で一体何ができましょうか? 私がこの国を乗っ取ろうなど・・・! 私が企んだとお思いですか?!」
玉梓の頬には涙が伝います。
それを見た里見義実は息を呑むのでございました。
「これほど美しい者が謀反など企むだろうか? か弱き者を殺すのはどうかと思う。命だけは助けてやろう」
心を奪われた里見義実は玉梓の処刑を取りやめようとしたのでございました。玉梓もその言葉に感謝の意を伝え、地面にひれ伏すのでございました。
すると里見義実に一人の武士が進言したのです。
「騙されてはなりませぬ。玉梓は悪き魔女です」
武士の一言に里見義実は我に返ったのでございます。そして、玉梓を睨みつけて再びその言葉を口にしたのです。
「私としたことが。この者は人の心を弄ぶ悪き魔女。今すぐ死刑にせよ!」
それを聞いた玉梓の表情はみるみる歪み、目は血走り鬼のような形相へと変わっていったのでございます。
「その口から一度こぼれ落ちた言葉が容赦なき宣告! 妾の命を弄ぶなぞ、おのれ、許さぬ! 里見義実!」
玉梓は恨みの言葉を吐きました。そして命令通り、玉梓はその首を落とされたのでございます。
玉梓はその口で全ての恨みを込めて言うのでした。
「呪ってやる。里見に関わるもの全て!」
そして呪詛をかけるかのように玉梓の低い声が聞こえてくるのでございました。恨みのこもったその言葉は地鳴りのように響くのでございました。
滅びよ、犬になれ。
呪いの言葉を残し、玉梓の首は何処へと消えていくのでございました。
それから後、義実に娘が生まれそれはそれは美しい姫へと成長したのでございます。その名は伏姫。伏姫の首には八つの玉の付いた数珠がかけられていました。それは不思議な老人に授けられたものでした。
そして伏姫のそばには、八房という大きな大きな犬がおりました。その体には牡丹柄の斑が八つあり、それゆえ八房と呼ばれるようになったのでございます。
その頃隣国での激しい戦いが続き、里見は窮地に立たされておりました。そんな折、義実は八房に冗談をこぼしたのです。
「なあ八房よ。お前が敵将の首を取ってくればこの戦は終わる。褒美に魚の肉でもやろう・・・。おや、魚の肉では不服と見える。ならば何を与えようか、身分も領地も欲しがるようには思えぬ。・・・そうじゃ、お前の大好きな伏姫を嫁にやろう!」
それは本当に悪い冗談でございました。
敵は一夜にして総崩れとなりました。
八房が義実の元へ持ってきたのは、敵将の首だったのです。義実の言いつけ通り、八房は敵将の首を取ってきてしまったのでございます。
義実は悪い冗談を後悔いたしました。がしかし、相手が犬であれ約束は約束。伏姫は言いつけ通り、八房の嫁となり里見の屋敷を出て山奥でひっそりと暮らすこととなったのでございます。
そんなある日、一人の武士がやってきます。名を大輔と言いました。
「あの犬がいる限り、姫様は里見の里へ戻ってこられぬ! なんとしてでも姫様を救わなければ!」
大輔は銃を構え、大きな八房に向かって発砲したのでございます。大きな銃声の音と共に放たれた弾丸は見事八房の体を貫いたのでございます。
しかし、その弾丸は八房を貫通し、伏姫の右胸へ被弾してしまったのでございます。伏姫は倒れ、大輔はそれに駆け寄ります。伏姫は時すでに遅く虫の息でございました。
実は大輔は伏姫のかつての許婚でございました。その瞬間、雷鳴轟き黒い霧が辺りに立ちこめます。そして大輔はその耳でしかと聞いたのでございます。
恨みのこもったあの魔女の声を。
「滅びよ、犬になれ」
里見を恨む玉梓の声でございました。
伏姫は最後の力を振り絞り叫ぶのでした。
「決して呪いになど負けません! 八犬士よ、来れ!」
その瞬間、伏姫の数珠が飛び散り八つの玉が閃光を帯びて、散り散りに飛んでいったのでございます。その聖なる玉は黒い霧を消していくのでございました。
これが伏姫伝説となり今に語り継がれております。
数十年後、その玉に選ばれたのが魔女・玉梓に立ち向かうことになる八犬士なのでございます。
そんな八犬士はそれぞれ玉を持ち、体のどこかにある牡丹柄の痣を持つのでございます。その力を使い、八犬士は見事、魔女・玉梓の呪いを打ち破り里見の里は平和が訪れたのでございます。そして八犬士は里見の家に仕えることになりました。その功績を讃え、現当主である里見義成の娘たちを妻へ迎えるのです。
今回語るのは、そんな八犬士たちとそれを支えた妻たちの物語でございます。
*これは南総里見八犬伝の物語の後日譚の二次創作となります。完全なフィクションになりますので予めご了承ください。