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氷点下-25°

作者: rhythm

氷点下-25度、冷たい空気がすべてを包み込む。無音の世界の中、ただひたすらに雪が降り続ける。誰もいない荒野で、ひとつの小さな命が、必死に一歩を踏み出す。その足音は、凍えそうな心を震わせ、孤独と恐怖を抱えたまま前へと進んでいく。


この物語は、過酷な冬の世界で、ひとりの小さなアリが心に秘めた使命を胸に抱き、決して立ち止まることなく困難に立ち向かう姿を描いています。アリスは、無情な寒さの中で見つけたわずかな希望を求め、恐れを乗り越え進む決意を固める。しかし、その旅路の先に待ち受けるものは、果たしてどれほどの試練と救いなのか。


命の強さと優しさ、孤独と絆を知ることになるアリスの歩み。彼女の心の中で、何が芽生えていくのか、あなたも一緒に見届けてください。

氷点下-25度、冷たい空気が身体を刺す。無音の中、雪が無情に降り続け、すべてが白に染まっていく。そんな世界で、ただ一匹の小さなアリが足を引きずるように歩いていた。


アリス。まだ小さなこのアリの心は、重く、そして冷たい空気に包まれていた。巣の中で、仲間たちの不安そうな顔を見ていた彼女は決して自分だけのためには動かなかった。それが、彼女の生きる意味だと思っていたから。


「私が行かなくちゃ…みんなを助けなきゃ…」


その思いだけが、彼女を歩かせていた。心の中では恐怖が渦巻き、足元では雪が重く沈み込む。しかし、体が震えても、冷たい風が耳を刺しても、アリスはその一歩を踏みしめた。


「私がいなければ、みんなが死んでしまう…」


心の奥に、深い恐怖と、同じだけの決意が入り混じっていた。小さな胸が、冷たい空気を切り裂いて鼓動を打つ。孤独だ。足元の雪が、彼女の足を捕まえるように沈んでいく。寒さは身体を包み込み、心も凍らせていくようだった。


それでも、アリスは歩みを止めなかった。もうすぐ、その先に食べ物がある。ほんの少しの希望、それが彼女の支えだった。だが、目の前には無限に続く雪と氷。辺りには、誰の姿もない。すべてが静かで、ひときわ孤独に思えた。


「怖い、怖いよ…でも、行かなきゃ。」


胸の中で、泣きたい気持ちが湧いてきた。でも、その涙は寒さとともに凍りつくことを知っていたから、アリスは涙を流すことを許さなかった。きっと、今泣けばそのまま凍えてしまう。全てを諦めたくなる。でも、彼女は立ち止まらなかった。


「まだ…まだ…」


足を踏み出し、足を踏み出し、また一歩。そしてまた一歩。全身が痛んで、何度も何度も倒れそうになりながら、それでもアリスは前を見据えて進み続けた。


やがて、目の前に見覚えのある草が芽を出していた。かつて巣の近くで見たことのある、小さな草の芽。その根元には、小さな実がついている。だが、それもまた、雪に半ば埋もれている。


アリスはその草の上に膝をつき、手を差し伸べた。震える指先が、かろうじて実に触れる。だが、その手を引き寄せる力も、疲れ果てていた。


その時、耳元で静かな声が聞こえた。「アリス、無理しないで。」


アリスは振り向いた。その声に、胸の中でこらえきれなかった涙が溢れそうになった。アルノ、巣のリーダーがそこに立っていた。


「アルノ…」


「君は一人じゃない。君のその強さ、みんなが知ってる。でも、君一人で全部背負う必要はないんだ。」アルノの言葉には、温かさと同時に深い悲しみが感じられた。


アリスはその言葉に、肩が震えるのを感じた。ここまで来て、あと少しだった。こんなにも心細くて、怖くて、苦しかったのに、あと少しで終わるのだと思うと、突然その足取りが重くなった。


「でも…みんなのために、どうしても…」


「だからこそ、みんなで一緒に行こう。君だけじゃない。仲間がいるんだ。」


アルノがその手を差し伸べる。アリスはその手を見つめ、そしてそっとその手を取った。心の中で、涙が静かに流れ始めた。強くなるために、頑張るために、ずっと一人で戦ってきた。しかし今、彼女は初めて本当の意味で「一緒に」という言葉の力を知った。


その後、アルノと共に仲間たちが集まり、みんなで力を合わせて雪を掘り、少しずつ食べ物を集めた。寒さに震えながらも、アリスの心は確かな温もりで満たされていた。


その夜、巣に戻ったアリスは、他の仲間たちと共に温かい場所で身体を休めた。冷たい外の世界とは違い、ここは暖かい。アリスは静かに目を閉じた。もう、怖くない。


「私は一人じゃない。」


その思いだけが、彼女の心を満たして、深い安堵へと変わった。

厳しい冬の世界で、小さな命がどれほどの恐れと孤独に耐えながら進んでいったのか。アリスの物語を通して、私は「一歩踏み出す勇気」と「共に歩む力」の大切さを感じていました。彼女の小さな身体には、限界を超えて生きる強さが宿っていたように思います。そして、その強さは決して一人で生きるためのものではなく、誰かと支え合いながら歩むために存在しているのだと、彼女が教えてくれました。


物語の中で、アリスが見つけたのはただの食べ物や物理的な支えではなく、心の中で育まれる「共感」や「連帯感」だったのではないでしょうか。どんなに小さな存在でも、誰かのために何かをしようとする心があれば、その一歩は大きな意味を持つのだと。だからこそ、アリスのように恐れや孤独に立ち向かうすべての人々に、勇気を与えられればと思います。


この物語が、読んでくださったあなたにとっても、何かの力になれば嬉しいです。寒さの中で凍えることなく、共に温かな気持ちを抱えて、また一歩を踏み出していけますように。


最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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