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三題噺もどき3

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作者: 狐彪

三題噺もどき―ごひゃく。



セミの鳴き声が響き渡る。


もはや喧しさしか感じないほどの、雨のような鳴き声。

聞いているだけでも暑さが増していく気がするのは、私だけではないだろう。

家の窓を開けていても聞こえてくるくらいなのだから、彼らの出す音の凄まじさは計り知れない。そりゃあ、生きるために、残すために、文字通り命を懸けているのだから、当たり前かもしれない。何かに命を懸けたことなんてない私には尚更分からない。

ただし、それとこれとは別問題。うるさいのには変わりないので、ホントに勘弁してほしい。

「……」

炎天下の中。

さすがに暑すぎるので、日傘をさして歩いている。たまたま家にあったのを思い出したので、つい先ほど家を出る直前に引っ張り出したモノだ。少々壊れかけているので、買い物ついでに新しいモノを買いたいところだ。

「……」

実のところ、今日は買い物に行く予定はなかったのだが。

運悪くおたまを溶かしたので、久しぶりに百円ショップにでも行こうかと思って。こうして歩いている。

……完全に私の不注意以外のなにものでもないのだけど。プラスチックのおたまを何も考えずにキッチンに適当に放置していたら、コンロのあたりに放ってしまっていたらしく。その熱で溶けたらしい。これが持ち手の部分とかなら、まぁ、まだ使えるしいいだろうと思うんだけど。肝心の部分が溶けてしまって、おたまとしての機能を果たさなくなったので、泣く泣く買い物に出たのだ。

「……」

せっかく昨日のうちにいろいろと買い物を済ませてしまって、今日は一日部屋で過ごそうと考えていたのに。こんな暑い中で外に出ることなんてないと思っていたのに。

……自分の不注意なので自業自得もいいとこなんだけど。

「……」

しっかしまぁ、ホントに暑い。

日傘をさしているから、多少はマシになっている気がするが、それでもこんなに汗をかいてしまう。百円ショップに冷感シートとかあればそれも買っておくかな。首に巻くタオルとかあるはずだし。それも欲しいかもしれない。

「……ぅゎ」

行き慣れた百円ショップへの道中。そこにちょっとした公園があるのだけど。

なにやら、水音が聞こえるなと思ったら……。

水飲み場の蛇口がひねられ、子供たちがキャッキャと楽しそうに遊んでいた。

水鉄砲を持っている子もいる。

「……」

この暑い中、よく遊んでいられる。

見た目的には小学生くらいだろうか……最近の子は見た目では年齢がはかれない。女の子なんて特に分からないよなぁ……。おしゃれな子が多いのはいいことなんだろうけど。

今公園で遊んでいるのは男の子達のようだ。楽しそうで何より。

帰ってからびしょ濡れで親御さんに怒られないといいな。まぁでも水鉄砲も持っているようだし、その辺は了承したうえで送り出したのかな。でもきっと、家に親御さんがいない子供はいるんだろうな。今は共働きなんて当たり前だし。

「……」

しかし何でこの時間に小学生……と思ったがそうか、夏休みか。

やけに学生っぽい子が昼間の時間でも歩いていると思った……そうか、世間的には夏休みの時期なのか……。すっかり忘れていた。

昨日、スーパーでやけに幼い子がいるなぁと思ったら、それもそうなのか。そっかぁ、夏休みなのか。いつからだったんだろう。八月いっぱい休みなんだろうか。

「……」

ろくな思い出はないが、夏休みなんて。ただの長期休暇でしかなかった。

暇すぎたもんなぁ、出かけたりとかもしなかったし。外で遊ぶような友達もそんなにいなかった。大抵の子供は、夏休みの方が好きだと言いそうだけど。私は春休みの方が好きだった。たったの1,2週間しかなかったし。……ま、その短い期間でも宿題が出されるのは意味が分からなかったが。時間つぶしには丁度良かったな。

「……」

あまり覚えても居ないが、夏休みの頃の絵日記とかどうしてたんだろうな私。

適当に書いてた気がするけど、作文とかもそんな思い出なかったし。きっと彼らは今日のこの思い出を楽しそうに思いだしながら書くんだろうなぁ。

あぁでも家族で出かけたりもするんだろうし、楽しかった夏休みなんてタイトルで、たくさんの記憶が残せるんだろう。

「……」

今更、我が家の関係について悔んだり惜しんだりはしないが、なんとなく寂しい気持ちにはなる。

多分、覚えていないだけで、私も祖父母の家に行ったりしたと思うんだけど。それ以上に何もないただつまらないだけの時間の記憶が多すぎて、夏休みなんてろくでもなかったとしか思えない。

「……」

年明けに倒れてから、味方にもなってくれず心配もしなかったあの人たちとの記憶なんて。ホントに、ろくなものがない。楽しい記憶もあったはずなんだけど。それも全部朧気で、忘れてしまって。思いだすのは嫌な記憶ばっかりで。

元々頻繁に連絡を取るような間柄じゃなかったが、ある日を境に連絡なんて一切取らなくなった。こちらも意固地になっていたところはあるので、何とも言えないのだけど。

「……」

でも。そろそろ。

一度会いに行って、話をすべきなのかもしれない。

勤めていた会社を辞めたこともあるし、まだ次を決めてはいないが、目途はついている。

それに、お盆の時期もやってくる。祖父母のお墓参りにも行きたいところだ。

「……」

いいタイミングではあるだろう。

いろんなことに整理がついて、私自身も精神的にも体力的にも、今がちょうどいい気がする。

妹にも一応声だけかけておこうか。あの2人も孫にだけは優しいらしいから。

義弟の家にはお盆に行くと言っていたはずだから、どうなるかは分かんないけど。

「……」

ま、そのあたりのこと……あの2人との今までのことや、これからのことを、考えていかないといけない。

そういうことだ。

整理しきるには時間がかかるかもしれないし、はいそうですかと簡単に割り切れるものでもないかもしれないけど。何かしらの結果は出るだろうと、思っている。

「……」

うーん。

暑くてあまり思考が回っていない気がするんだが。

とりあえず、さっさと店に入って涼んでしまおう。

買い物をしながらでも、そのあたりのことは考えられる。


これから先、どうなっていくかは全く分からない。

だけど、今までよりはマシになるだろうと、なんとなくそんな予感がしている。




お題:春休み・おたま・水音

一旦、この「私」のお話は、ここで終わりです。


次からは別の「私」または「僕」のお話になる……つもり。

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