プロローグ
暗い空間、少ない人通り。
校舎裏とは、表に出せない様な事を行うのには最適な場所だ。
「しぶといのよ!」
「さっさとっ、倒れなさい!」
剣戟の音と共に、少女たちの荒声が響く。
制服を着ているのに機敏な動きをするのは、普段の鍛錬の賜物だろうか。合わせて三人の彼女たちは、壁際のもう一人の赤髪の少女へ剣を振り続けている。
「……ッ!」
防戦一方とはいえ、三体一の状況で赤髪の少女は負けていない。
的確に木剣の一撃を防ぎつつ身を守っている。しかし既に怪我はしているようで、スカートの下から覗く足は変色した箇所もあった。
訓練──と呼ぶには荒すぎる。
『虐め』という言葉が一番合っているだろう。
「……ぅ、っ」
攻撃を一身に受ける赤髪の彼女の更に後ろ──そこには、身を縮こませた少女がもう一人。どうやら攻撃を受け続けているのは、後ろの彼女を守るためらしい。
「──シッ」
数秒が経ち、その攻防に一筋の活路が見えた。
宣言する様に赤髪の少女は眼つきに似合わぬ可憐な声を出し、一気に右足を前に出して踏み込む。
「はぁッ───!」
一、二、三。
三度乾いた音が響くのと同時に赤髪の少女の肉体が躍動し、一方的に攻撃を加えていた少女たちの木剣が吹き飛ばされる。
宙を舞い、空中で回転した後に地面へ突き刺さった。
「なっ……」
「まだやるつもり?」
赤髪の少女は強い口調と共に木剣を突きつける。傷を負い、満身創痍とは思えない程に鋭い眼光。
それはこれ以上の抵抗を許さない、という明確な意思表示であり、思わず少女たちは怯んで後退りした。
「くそ……覚えてなさい!」
「次はただじゃおかないんだから……!」
「行きましょう!」
あからさまな負け犬のセリフを吐き、少女たちは木剣を置いたまま校舎の方へ去っていく。道具を一切気にせず拾わないというのは、贅沢を知るお嬢様な気質のせいなのだろうか。
その上、あまりよろしくない言葉遣いは何処から覚えてくるのだろう。家では礼儀正しく教育されているはずだが、学校での上下関係の賜物か。
「ふぅ……」
くだらない事を考えながらも、危機が去った事に息を吐く。
同時に一度木剣が当たった肩の痛みに手を添えながらも、赤髪の少女──ティトピア・ヴァルステリオンは後ろに振り返った。
「怪我はない?」
「は、はい! あの、ありがとうございます……!」
少女は頭を下げ、全身で感謝を示してくる。
しかしティトピアは首を振った。
「大した事はしていないわ」
「そんな怪我までして、大した事してないなんて……」
「この程度平気よ」
剣を肩に当てながら言い放てば、少女は少しだけ驚いたように目を見開き、『ありがとうございます』と再び礼を言った。
「まさか、あのティトピアさんに助けてもらえるなんて」
「関係ないわよ。それより気を付けなさい。何があったかは知らないけど、あの感じじゃまた手を出してくるわ」
「……ですよね」
頭を伏せ、少女が分かりやすく落ち込む。
「その、訓練が終わった後に廊下を歩いていたら、あの中の一人とぶつかってしまって、それで反感を買ったみたいで……」
昼休みを迎える前の授業は、武術や剣術の訓練だった。先ほどの三人組やティトピアが木剣を持っていたのもそれが理由だ。
目の前の少女も木剣を持っているが、持ち方からして慣れている様には見えない。荒事は苦手なのだろう。
「強く言い返しなさい。下手に出るからつけあがるのよ」
「いえあのっ、私そんなに気強くないし、根っからドジなので──」
その時、校舎の上から鐘の音が聞こえてくる。
それは昼休憩が終わる十分前に鳴る鐘だ。王族や貴族、大商人や大剣豪──貴い身分の子息が多いこの学校において、生徒たちは模範的な行動を強いられるのと同時に、自ら実践する。
目の前の少女もそうであったようで、鐘の音を聞いて顔を上げた。
「あっ、次の教室に向かわないと……」
「なら行きなさい。私を気にする必要はないわ」
「ヴァルステリオンさんは……」
「……」
表情を変えずして、少し考えるように間を置く。
「元々次の時間はサボる予定だったの。校舎裏に来たのもそれが理由。そういう事だから」
「……わかりました」
頷き、少女は先ほど三人組が向かったのと同じ方向へ駆け足を始める。
その最中、少女はもう一度こちらに振り返り、片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足を軽く曲げ背筋は伸ばしたまま、両手でスカートの裾を摘まみ持ちあげ──貴族流の挨拶を行うと、今度は振り返る事なく駆け出した。
「……」
どうやら、ティトピアが気づいていないだけで貴族の娘だったらしい。その挨拶は皇族であるティトピアにも見慣れているし、やり慣れているものだ。
多種多様な国、人種の揃うこの『学園』において全員を把握する事は難しい。それは貴族の様な希少性の高い位を持つ者であっても、である。
少女が去ったのを確認すると、ティトピアは覚束ない足取りのまま壁際にまで歩き、やがて崩れ落ちるようにして背中を預ける。
零れ落ちた木剣がからんと軽い音を立てた。
「いっつ……」
苦虫を嚙み潰したような顔で呟けば、時間が経過した事により足の痛みがより鮮明に感じてきた。
──サボる予定だったなんて、真っ赤な嘘だ。
偶々少女が三人組に連れられるのが見えて、助けるために校舎裏へ向かった。誰かは関係ない。困っていそうだったから助けたのだ。
それに、怪我をしている事を知ればあの少女は気に病むだろう。それはいけない。不用意に関わられる事をティトピアは良しとしない。
「……痛いわね」
この学園───マギスティア寄宿学園において、傷は付き物だ。模擬戦や実践訓練など、危険が伴う授業が多い事が主な理由である。
それはつまり、多少の虐めによる物理的な傷は訓練の延長線上として処理されるという事でもある。
『少しやり過ぎました。次は気を付けます』。
これだけで大抵の事は終わってしまうのだ。
「……」
思わず痛みに蹲ってしまう。三人をあしらった様に、ティトピアは実力者だ。しかし多勢に無勢の原則が揺るぐ事はなく、反撃に出るまでに何度か攻撃を喰らってしまった。
保健室に行こうにも、痛みで動く事が出来ない。
少し休憩したら移動しようかという所で、彼女は校舎裏に自分以外の気配を感じた。
「──なあ、何してんの?」
水色の髪。
前髪が少し長く、襟足が首の根本まである、青空のような水色の髪。
光差し込む校舎裏の角に立つ、その人物の第一印象はそれだった。
高い身長と、長い手足。鼻筋が通った顔立ちはどちらかと言えば中性的だ。マギスティアの白い男子制服に身を包むその姿は堂々としていて、ポケットに手を突っ込む様は少し行儀が悪い。
こちらを見下ろす碧眼に感情が伺えない。ただ見下している訳ではないようで、その声色からも純粋に心配している事が聞いて取れた。
「……なんでもない」
「なんでもない風には見えねえな。怪我してんじゃねえの?」
「アンタには関係ない。いいから放っといて」
同情をかけてもらうために人を助けているのではない。何より怪しい奴に許す心はない。
だからこその拒絶に対し、少年は困ったように頭の後ろを掻くと、やはり堂々とした足取りで近づいてきた。
「近づかないでっ……!?」
「やっぱ痛むんじゃねえか……」
「く、っ」
咄嗟に逃げようとして、体が悲鳴を上げる。怪我している事を忘れた訳ではないが、離れようとする心が勝っていた。
「ほらな」
触るぞ、と少年は溜息をつくとティトピアの傍にしゃがみ、彼女の足に手を翳した。
「──『水連心廊』」
掌から水色の光が発生し、足、そして腕、肩──なぜか面白いように、ティトピアが痛みを感じている箇所へ手を翳していった。
警戒する暇もなくそれらが行われ、やがて少年は最後にティトピアの頭に手を翳すと、光を消して息をつく。
「なに──痛みが、ない?」
「水元素魔法の応用だ」
咄嗟に体を動かそうとして、痛みがすっかり消えている事に気づいた。同時に特に痛みを訴えていた箇所が、微かに青い光を放っている。それは氷を当てた時のように患部を冷やしていた。
ティトピアの疑問に声に対し少年は淡々と答える。
「打撲と内出血の処理、痛み止めと……あとちょっとの頭の騙し。でも傷を治した訳じゃねえから、ちゃんと保健室行けよ」
「っ、勝手に魔法なんてかけないで!」
「うおっ」
自分の体に起きた事に思わず呆けてしまっていたが、咄嗟に少年の手を撥ね除ける。彼は数歩後ろに下がって手を揺らした。
余計なお世話なのだ。目の前の少年に助けられる筋合いなどどこにもない。
「『触るぞ』って言っただろ?」
「いいなんて一言も言ってないわよ!」
「はいはい、そりゃ悪かったな」
まるで駄々をこねる子供をあやすような様子に、ティトピアは分かりやすく顔を歪める。
悪びれる様子もなく舌を出しながら、少しだけ目尻を落としていた少年はそれを見ると、次に口を開けて深く息を吐き、踵を返した。
「ふんっ」
不機嫌そうに鼻を鳴らし、勢いよく少年から視線を逸らす。
「そんじゃあ、俺は行くわ。勝手に魔法かけて悪かったと言いたいところだが───」
ま、と一呼吸を置いて。
ティトピアの視界の外で、少年の声が鷹揚に響く。
「──人の事助けておいて、助けられる気がない奴には、勝手にやるぐらいがちょうどいいだろ」
「…………! アンタ、さっきの見てて」
──言葉に反応して振り返った時。
「え?」
少年は、既にいなくなっていた。
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マギスティア寄宿学校。
武術、魔法、智慧を三本柱に掲げ、入学すれば中等部から高等部の六年間を過ごす事になる学校。
永世中立公国『オルティス』の首都に建てられており、知名度や教育レベルの高さからやってくる留学生が後を絶たず、現在では在校生の半分を占めるほどだ。
それ故に、在校生は数千人。生徒会や風紀委員会のような治安組織も存在するが、流石に全ての荒事を把握するのは難しい。組織レベルではなく個人レベル、しかも隠れてコソコソとやっているのであればなおさらだ。
「……」
授業開始五分前のせいか、既に授業が行われる教室のドアは開かれてた。
マギスティアは単位制であり、クラスという概念はない。故に今日──中等部三年の最終学期が始まって三日目のこの日は、新しく取った授業の授業日だ。
当然新しい教室へ行く必要があり、道中迷わないか心配だったがすんなりたどり着く事が出来た。
教室はどこも殆ど変わらない。長方形の教室の先頭に黒板と教卓があり、後は敷き詰められたように机と椅子が並んでいる。変化と言えば後ろに行くほど少し位置が高くなっているぐらいだ。
クラスがないという事は、決められた座席がないという事。教室の喧噪の正体は、自由に友人たちと座席に座っている生徒たちである。
それを見まわし、煩わしく感じていると、一人の女子生徒がこちらへ近寄ってくるのが見えた。
「ティア様っ!」
「マリエル……」
心配そうに顔を歪め、ティトピアの手を取る女子生徒。
マリエル──彼女は、皇族であるティトピアのメイドだ。元々ティトピア専属のメイドだったのだが、留学の際にも同様に付いてきた。
マギスティアはそんな風に、貴族や皇族が留学してくる事も少なくない。それはつまり使用人も大量に在籍しているという事を現し、彼ら彼女らには制服に執事服やメイド服の要素を付け足した専用の服が配られており、マリエルもそれを着ている。
「どこに行ってらしたのですか……! まさかまた喧嘩を!?」
「どこでもいいじゃない。メイドが絶対についていかなきゃいけないなんて規則はないはずよ」
「だとしても、私にはティア様の身の安全を守る義務と責任がございます!」
「アンタ荒事苦手じゃない……」
力説するマリエルだが、彼女は家事などの雑務は流石皇族付きだけあって得意である。しかし反対に戦闘などの力を必要とする行為は得意ではなく、最低限の力量しか持ち合わせていない。
「お怪我などはないんですよね?」
「もう治してもらったわよ。調子も……」
『いい』と答えようとして、詰まる。
思い出すのは、校舎裏にいた少年の事だ。
彼がいなくなった後、ティトピアは保健室へ向かった。ほかの学校がどうかは知らないが、マギスティアは最先端の学校であり、保健室には一流の『回復魔法』使いが常駐している。
傷を負う事が多いティトピアはよくお世話になっているのだが、今回も治療を受けたところこんな事を言われたのだ。
『流石はティトピアさん。魔法の腕を上げられたようですね。内出血の処理や患部の冷却の方法が完璧です。これならば普段以上に回復魔法の通りが良くなりますよ』
──あの少年の魔法は、凄まじかった。
保健室の魔法使い曰く通りが良くなった回復魔法は、傷だけではなくティトピアの体の疲労さえも緩和した。そのせいか先ほどから体が軽くて仕方がない。昨日の激しい鍛錬の疲れも完全に取れてしまった。
「……とにかく座るわよ。もう先生も来るだろうし」
「かしこまりまし……って、『治してもらった』って事はやっぱり喧嘩してたんじゃないですか!」
「気のせいよ」
「どこがですかぁ!」
騒がしいマリエルを無視して、教室の開いている席を探す。
適当に後ろの方に座ろうとそちらへ向かっていけば、その途中で教室の端に──先ほどの少年を見つけた。
「えぇ、まじで? ……おいおい、そりゃねえだろ」
友人だろうか。周囲の生徒たちと笑顔で会話をしているその様子は、先ほどとは打って変わって年相に見えた。
少年を認識した瞬間、自分の中の感情が熱を帯びるのをティトピアは感じた。
「アイツ……」
「──ティトピアちゃ~ん」
咄嗟にそちらへ向かおうとした瞬間、別の方向が自分を呼ぶ声が聞こえて振り向く。
短く切りそろえられた灰色の髪、黄金色の瞳。線は細いが鍛えており、こちらへ振られている手はそれなりに風格があった。
「何よリオ」
「いや、席探してるんじゃないかと思って。マリエルちゃんの分も空いてるよ~」
「リオさん、お世話になっております。お嬢様に良くして頂いている貴方に感謝を」
「いいってマリエルちゃん」
背もたれに体を預け、頭の後ろに両手を組む少年──リオ・スメラギ。彼は何度か授業で一緒になってからの腐れ縁で、今回もこうして同じ授業を偶然取ってしまった。
軽薄な人間だが、眼付きや仕草に下心は感じないために拒絶はしていない。人付き合いが得意ではないティトピアにとって、彼の存在は憎たらしくもありがたかった。
「……ふん」
なんだかあらかじめこうなる事が分かっていたかのような態度が気に食わず、不満げな表情をしながらもティトピアはスメラギの隣へ座る。
実際、あまり広くない教室であるが故にほとんど席は埋まっていたのだ。仕方がないと自分を納得させた。
同様に付き人であるマリエルもティトピアの隣に座る。一つならまだしも、二つの席が都合よく空いているという事はない。という事はつまりリオは二人分を確保していたという事で、それを意に介さないのが少しムカついた。
「っていうか、ティトピアちゃんは辞めてって言ったでしょ」
「え~? 別にいいじゃん。皇族扱いでもしてほしいの? ──ここじゃ、オルティスの貴族でもない限りそんなの役に立たないのに」
マギスティアは様々な国の貴族や王族が在籍している。それ程までに人気な学校という事の証明でもあるのだが、それ故に地位などはあまり役に立たない。ただ本人が行ってきた実績のみが物を言う。
そうなければ、異国とはいえ皇女であるティトピアと───極東の島国の大商人の息子であるリオが、対等に話せる訳ないのだ。
しかし例外は存在する。それはマギスティアがある国、オルティスの貴族階級の人間は流石に強い。正確に言えば、すぐ傍に親族がいる事が理由だ。
中々ないが、最悪の場合親が生徒同士のもめ事などに出張ってくる可能性もある。
「いやぁしっかし最初は驚いたなぁ。俺の故郷──日輪帝国じゃ、将軍様とその親族は顔すら拝む事出来ないのに、ほかの国じゃあ護衛付きとはいえ普通に会えるなんて」
「だから『島国の田舎人』って言われるのよ。考えが古いの」
「良し悪しは分からないけどな~」
「そんな事より……」
ティトピアの視線は、先ほどと同じく教室の端の方へ。そこには先ほど自分に魔法をかけた少年が、友人と思われる人物たちに囲まれて談話をしていた。
少しだけ大きな声は、内容までは分からないにせよこちらにまで響いている。
「──あんな奴いたかしら。目立つ青髪してるけど、私が今まで授業被って無かっただけ?」
「お嬢様、肘をつかれるのはお行儀がよろしくありませんよ」
「あぁ、アイツ?」
礼儀を指摘してくるマリエルを無視しながら尋ねれば、リオは背もたれに預けていた体を起こし、少年の方へ視線をやる。
「数日前かな、新学期直前になって、一年間行方不明だったのに突然帰って来たんだよ」
「行方不明……? そういえばそんな話あったわね」
ちょうど一年前のいまの時期、少しだけ騒がれていた話だ。
プライバシーなどの観点から誰がとまでは言われていなかったが、生徒の誰かが失踪したと噂になっていた。どうやらあの少年がその失踪していた生徒らしい。
「そ。今までどこ行ってたんだって話だけど、どうやら記憶喪失らしいんだよ。その上、アイツ元は紺色ぐらいの髪だったのに帰ってきたら水色だったんだって。色々と不思議だよね」
「……」
多種多様な髪色、それこそ青なんてものは珍しくもない。しかし途中で色が変わるというのは中々聞かない話だ。魔法には髪色を変えられるものもあると噂で聞いた事あるが、それも長続きはしない。
という事はつまり、少年の青髪は地毛。魔法などの影響を受けていない天然である。
「性格とかも色々変わっちゃってさ。でもま、なんかいい奴だからすぐ馴染んだよ」
「……気づかなかった」
「本国の家族があまり話を広げないでほしいって頼んだらしいよ。記憶喪失なのにストレスがかかると色々弊害が出るかもしれないからって。だから友達が少ないティトピアちゃんが知らなくても無理はな~い」
「ふん……それで、アイツの名前は?」
「教えてもいいんだけどさ。なんかアイツに興味津々じゃない?」
『気のせい?』と尋ねてくるような視線は少し煩わしい。無駄に色々な事に気づくのだ、この隣人は。
ただ、傷の処置をしてもらったと正直に言うのも癪だ。というより人を助けて喧嘩してたなんて大っぴらに言いたくはない。
「お嬢様、何か特別な理由などが……?」
「……はぁ、そんなんじゃないわよ。ただ少し気になってるだけ。これから授業を一緒に受ける生徒の一人だもの。気になって悪い?」
「……いぃや悪くない」
ニヒルな笑みを浮かべる顔、そして見透かしているような瞳。
ティトピアが彼を遠ざけたい理由の一つはこれだ。まるで心の中を覗かれながら話しているような気分になる。
そんな憂鬱を知らない呑気なリオは、一回だけ喉を鳴らすと言った。
「アイツの名前は──クロエ・アリアンロッド。このオルティス公国を挟む二国のうち、東側に存在する『ルシェリア王国』の伯爵、アリアンロッド家の次男さ」
後書きにて失礼します、初投稿です。
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