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元おじいちゃんが行く、異世界産業改革  作者: 新宿 富久
第一章 島での生活
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到着

「家族…か…」


メリッサがそうボソッと呟いたのが聞こえたが、俺はあえて気にせず会話を交わしながら航海図を確認していた。


「なぁ旦那、私たちは本当にここで泊まらなくていいのか?」


「あぁ、そうだ。井上中将からの計らいで、俺の家で暫くの間暮らすといいと言われた」


「それはありがたい!なら、そうさせて貰おう」


「だな。とりあえず港に到着次第、俺たちは陸軍の馬車に乗り、井上中将の家でしばらく過ごす。それからの予定は事がある程度済んだら決めることにしよう」


みんなからの元気な返事が返ってくる。そのあとも他愛のない話をしながら航海を続けた。時折艦橋の外へでて潮風に当たりながらだんだんと沈みゆく夕日を眺めたりしていた。そして、夜になり月明かりだけが頼りとなる時間帯になった頃だった。もうここまで来ると陸地も目の前で、時間も夜という事で街の灯が徐々に見えてきたのだ。時刻は1924となり、あと30分もしないうちに目的地である港、浜離宮近くの竹芝に到着する。


「もう…そろそろか…」


外に出て、東京の夜の灯を見ていると、あぁ、ようやく日本に上がれる。そんな思いが心の中で込み上げてくる。俺が向こうで死んでから四ヶ月が経とうとし、夏真っ盛りの時期となっている。今思えば、こちらの世界に来てからは本当に色々なことがあった。自分の持つこの能力、人との出会い、彼女たちとの思い出…わずかな時間の中ではあるが、俺は確実に充実している日々を送ってきたと言えるだろう。そんな事を考えていると一本の無線が飛び込んできた。


「井上より各艦へ、まもなく竹芝桟橋に入港する。上陸準備を開始せよ」


その言葉を聞いた途端、甲板にいた乗組員たちが慌ただしく動き始めた。俺はそれを横目にしながらまた東京を眺めていた。すると後ろから声をかけられた。

「ご主人様?どうかなさいましたか?」


ユキナの声に振り返ると彼女は不思議そうな顔を浮かべながら俺のことを見つめてきていた。


「いや、何でもないよ。ただこうして見ていると、どこか懐かしくてな……。俺のよく知る日本とは違うはずなのにな。」


俺がそう言うとミヅキは微笑みながら言った。


「世界が違えど、あなたにとってここは、あなたの故郷ですものね」


「ああ、そうだな……」


それから数分後、少し先に明かりを灯す何かが通るのが見えた。きっとあれが馬車なのだろう。それを見た俺たちはまもなく接岸だろうと思い、井上中将からの指示を待つことにした。暗い海をゆっくり進み続けているとまた無線が入った。


「竹芝到着、全艦停止。内火艇用意」


その指示とともに船がゆっくりと止まり、錨を下した。そしてその後すぐに下船準備に入った。ついに内火艇に乗ると、いよいよ日本の地を踏みしめることが出来る。俺は逸る気持ちを抑えながらも、いざ上陸した時のことを考えていた。いよいよ明日から日本人として生活ができる、その事実だけで俺は嬉しくなっていた。


「あぁ…ようやく…日本に…」

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